第21話『偽物』
時間帯は深夜を回り、ナチャーロの街が少し落ち着く頃、旧都市コンキロスからクエストを完了し帰還したパーティーが集会所に足を踏み入れた。血塗れのラーヴァと負傷人のルフ、そして途中参加のギルド嬢の一行。魔物掃討を終えてフォルターに乗り込み、ナチャーロへと帰還。血塗れでヘラヘラしているラーヴァに人々は悪寒がしているようだった。ルフは先に帰っていたフィノに腕の治癒を施行してもらう為に、破壊された集会所の休憩室に移動した。
ナチャーロ集会所では、例の高難易度クエストが攻略されたのが話題で持ち切りとなり、酒盛りが始まっている。謎のお祝いムードに順応できないギルド嬢もまた、ルフと同じく休憩室に逃げていた。そこには、コンキロスからフォルターで自動送還されて傷の修復を終えた、ソファーに座る私、狐火木ノ葉の姿があった。
「狐火!な お前!! 良くやったな! 生きてて良かったよ、心配したんだからな!」
若干涙目のルフが私に飛び込み、ギュッと身体に抱きついた。普段は強気を見せているけど、良く良く考えたらルフはまだ子供だからね。ショタだからね!! 急なショタ成分に脳内麻薬が生成されて活力満開です!
「皆、お疲れ様。おかげさまで高難易度クエストをクリアすることができました」
血塗れのままのラーヴァが笑顔でそう答えたが、恐らく彼女一人でもクエストはクリア出来ただろう。私たちと共にクエストを受ける事はむしろデメリットになっていた。それならば、私を最初に誘ったこの女性の目的は本当に一緒にクエストに出る事だったのだろうかなんて、らしくもなく推理に老けてしまう私がいた。いや、本当の目的は私の身体が目当てならば話が通る。こう見えてもクラス内では男子に人気のある女子生徒で、男子生徒からは「黙っていれば可愛いんだよな」なんて褒め言葉を貰ってしまうくらいには可愛いはず! ならば、この異世界にて彼女に好かれてしまうのもまた真理。さぁ、今から一緒にお家にでも行こうか。
「それはぜひと行きたい所ですが、遠慮しておきますね」
久々に心読まれた?! それよりも行きたいんすか?! じゃあ今から来店日時をお聞かせ願えますか?!
そんなエセ商売の女は無視されて、別の話に切り替えられてしまう。ルフの腕の修復の為にステータス改変をしていたフィノちゃんが、元のステータスに設定し終えたのか、ラーヴァに話を振った。
「ラーヴァさん、ちょーっとご一緒しませんかー?」
それは告白の何物でもない! ここに来てまさか、フィノちゃんとラーヴァちゃんでランデブーに?! よっしゃ! こりゃ見逃せんですなデュフフ……。
「これはこれは。逸材に目を付けられるなんて光栄です」
ラーヴァはくすっと笑みを浮かべると、フィノちゃんと共にどこかへと行ってしまった。これから始まる恋物語に首を突っ込むのは野暮ってものだね。さて、私はそろそろ失礼しますか。狐火木ノ葉はクールに去るぜ。
「っ?! おい! どーしたんだ?!」
ショタっ子、ルフちゃんの手を引っ張り、私は言った。
「お腹空いた! チェーン店とか知ってるでしょ?」
「いや、そのチェーン店が何かは知らねぇよ。腹減ったんだったら飯屋でも行きゃあ良いだろ?」
「いや、一人じゃ寂しいもん! 深夜帯に女の子一人で街に放置させるつもり?!」
「いや、お前が勝手に放置されに行ってんだろ? まあ、いいや。俺も腹減ったしな」
私は渋々了承したらしいルフを連れて街へと駆け出した。あ、お金ないのでゴチになります!
「……後で請求はするからな」
ナチャーロのクエスト出撃口。中央区から集会所へと真っ直ぐ伸びる大通りの最北東に位置する。外部からの侵入を巨大な鉄扉によって守っていて、集会所で受けたクエストの出撃口になっている。ギルドで出撃の証明を発行して、門番に許可を得て、ようやく開くその鉄扉の前。ラーヴァを引き連れてフィノはそこに立っていた。鉄でできた鎧に身を包む門番が黙ったまま、二人を見つめている。
「私は許可証は持ってませんよ?」
「あはは、そんなのどーだっていいんだよ、そんなのは」
ラーヴァを待機させ、笑顔でゆったりと門番へと近づいていくフィノ。門番が槍を手に、フィノの進行を防ぐ。鎧で顔は見えないが、恐らく訝しそうに睨んでいる彼は、
「許可証は持っているのか?」
そう呟く。
「やだなー、モブキャラみたいに同じセリフばかり吐いてさー。それぐらいーー」
金属音。フィノが門番にステータスをぶつけて吹き飛ばしたのだった。ご自慢の鉄の鎧はいとも容易く貫き、大破させた。が、そこに門番の姿はなく、鎧だけがバラバラに砕けて地面に散らばる。
「ステート」
フィノが突如ステータスを展開すると、そこに門番の姿が現れて、フィノに与えるはずの槍の一突きはステータスによって弾かれた。普段は見ることの出来ない他人のステータス、それに攻撃を弾かれるという事態に混乱している様子だった。
「何のつもりだ!」
一瞬の気を乱したが、すぐに冷静になり、男は罵声を上げた。深夜帯だけあって、出撃口付近には他に誰もいないため、騒ぎには発展していない。それをいい事に、フィノは気楽に答える。
「さすがは門番役を務めるだけはあるねー。門番は外敵排除を任されてるもんねー? 精鋭が務めているのは当然かー」
「……何をしに来た?」
訝しげに尋問をする門番。一歩身を引いて、フィノをいつでも突き殺せるよう、槍を構えて、力を込めている。自身の警戒範囲内に一歩でも踏み入れたら徹底的に排除すると。隙一つないその構えに、フィノは楽しそうに笑う。
「ちょーっとそこを退いてもらうだけだよ」
フィノは悠々と歩き始め、門番の警戒範囲内に足を踏み入れた。その直後、フィノの身体を槍の一突きが刺さり、心臓を穿ち、血を吹かせた。ラーヴァからでも身体を貫通してるのが見て取れる。
「子供に手を挙げるのは気が引けるが、これも俺の仕事だ」
「……あはは、これで逃れられないよぉ? 門番のお兄さん?」
身体を貫き、心臓を一突きした。それにも関わらず、フィノは笑顔で前へと進み、その身体に槍をズブズブと貫かせ、そのまま血だらけの手で門番の腕を掴む。あまりにも異常な彼女の行動に、門番の男は恐怖を感じていた。小さな子供が笑顔一つ絶やさずに、血を吹き出しながら身体に槍を貫かせている。痛みを感じていないように、無邪気な笑顔で。
「な、何なんだ、お前ーー」
動揺する男の顎に一撃。フィノのアッパーが入り、鈍い音と共に男は吹き飛び、宙を待って鉄扉に激突。そのまま落下して気絶してしまった。
「あなたほどの人となれば、わざわざ負傷なんてせずに事済ませるなんて容易ではないのですか?」
表情一つ変えず、ラーヴァは何も無かったようにそう聞き、
「イライラしててねー、ついつい。あははは!」
心臓部に突き刺さる槍をグチャりと引き抜いて、投げ捨てながら答えた。カランカランと音を立てて槍は転がっていく。
フィノは門番のステータスをいじって、記憶を改ざんさせてなかった事にすると、傷を瞬間的に修復させる。それから巨大な鉄扉を手動で開くと、ラーヴァを呼んだ。
「片手で開くなんてさすがは規格外の能力ですね、侵食心眼」
「そのお口を今すぐチャックしてあげようか?」
にこやかに何とはなしに話すフィノ。
鉄扉を完全に締め切った。街の外は森林が広がり、闇が包み込んでいる。鳥類の夜鳴きがささやかに聞こえるくらいで、物静かな世界が広がっていた。この森林は人々が迷子になりやすい為に、通常は歩くことなく、霊力を利用した自動式運送機『フォルター』に乗って目的地まで安全に送迎してもらう。
「私を連れて何用ですか? クエストに向かいたいのであれば、また明日にーー」
疑問を投げかけるラーヴァの頭上に幾つものステータスが配置された。フィノの波動により作られたステータスは、他人も目視ができ、かつ攻撃や防御に利用する事ができる、波動『ステートブレイク』の能力。つまり、ラーヴァへと刃を向けているという事だ。フィノは笑顔で言い詰める。
「まず、禁忌の逸材についての話をしよーか、ラーヴァちゃん? いや、違うかー。ガルモーニャの英雄さん」
「……バレてましたか」
「そんな英雄さんに狙われる事になるとはねー、あはは。で? 誰に聞いたの?」
乾いた笑いをして、フィノは英雄へと歩み寄る。依然として冷静さを保つラーヴァは、頭上に広がる幾つものステータスを見上げながら、
「答えない、としたら?」
なんて質問をした。
「質問を質問で返さないでよー。疑問文には疑問文で答えろと学校で教えているのかい?」
ラーヴァの足元目掛けて一枚のステータスが突き刺さった。地面に深く貫いて砂煙を上げた。答えなければ攻撃を仕掛ける、そう言いたいのだろう。攻撃を加えられてなお、冷静沈着で身動き一つ取らないラーヴァは、目の前の突き刺さっているステータスに触れつつ、答える。
「私の先祖です。一度、あなたにお会いしているはずですが」
「……名前は?」
「フィノ、ですよ、アクアさん」
その瞬間、展開していたステータス全てが砕け散った。普段からほとんど取り乱したりする事のないフィノが、ぽっかりと口を開いて唖然としている。ラーヴァへと話しかけようと動かす口からは声が出ず、あかるさまに動揺が見えていた。
「私の名前はトナー。あなたを助けたフィノの子孫です」
「嘘を……吐くなんて悪い子だね、あははは」
困惑しているフィノは、やり場のない気持ちをそのまま、ステータスとしてラーヴァへと撃ち込んだ。ラーヴァは魔力で出現させた刀でステータスを受け止める。と、そのステータスはガラスのように簡単に砕け散り、消え去った。
「この剣も見覚えはない?」
ラーヴァの持つ剣。まるで夜空でも映したような藍色の刃。見覚えのあるフォルム、かつてフィノを救ってくれた旅人の持っていた霊剣と酷似していた。あらゆる魔法を吸収し、力に変換する霊剣。流星の欠片をふんだんに使って造られた至宝の剣だ。
「霊剣ネーフォス、三大霊器の一つ。かつてあなたを救ったフィノが所有していた剣で、時空間を歪める力があると言われてます」
フィノの偽物はただただ黙ったまま突っ立っていた。ラーヴァは剥き出しの刃を鞘へと納めて、話を続ける。
「約2000年前の夜、北の遥か彼方に、ある国がありました。私の先祖であるフィノはその国を訪れていました。未だかつて人類が踏破していない、魔界への探索の進路だったからです。魔界に最も近い国だったからね。だけど、その日の夜に、その国は消え去った。あなたとそのおともだち、の二人を除いて」
「…………」
困惑、そして抑え込んでいた古傷を抉られる感覚。武力行使すら止めて黙り込むフィノの偽物は彼女の話に耳を傾ける事にしたらしい。それを確認して、ラーヴァは話を続ける。
「霊剣ネーフォスの時空間を歪める能力。私は見た事もないけども、あなたを救ったフィノはあの日、あなた達を残してその国一つを丸ごと未来へ飛ばしてしまった。最初は信じられない話でしたが、その国の空白が証拠として残ってます」
そう語るラーヴァの手には霊剣はなく、代わりに小さく細長い箱のようなものがあった。それをフィノの偽物へと投げ渡す。
箱のようなものは『テレパスバス』と呼ばれる、読者の世界で言うなればUSBに近いものという認識で良い。ただ『テレパスバス』は所有者のみにしか認識ができない。持つ者の脳内へと特定の魔力を通し、他人からは認識、覗き見などができないよう、ステータスを視覚内に展開する仕組み。機密情報などをシンプルに他者へとインプットが可能という訳だ。
フィノの偽物はその情報を展開する。そこにはフィノの偽物の故郷の過去数百年の情報や、フィノについて、禁忌の逸材についてなど、あの日の夜の証明をするかのような情報が羅列されている。偽物はそれに目を通していた。
「あの日の夜、あなたに起きた事は全て、仕組まれていた。禁忌の逸材を恐れた村人ではなく、その裏で暗躍していた者がいます」
「フィノは、禁忌の逸材である私を救った。意味が分からない」
情報に目を通していた偽物は感情を制御できずに震えていた。怒りや悲しみではなく、理解が出来ずにパンク寸前になっている。
「禁忌の逸材のあなたが、フィノと同じカシンカだったから。この世界の外環、魔界の隣り合わせの土地を魔界では『ワー』と呼ばれますが、その土地は魔界で言うとこの、ゴミ捨て場と言った所です。あなたはそこに捨てられた悪魔の子『カシンカ』の一人だったから、ただそれだけです」
フィノは痩せ我慢の笑顔を見せると『テレパスバス』を投げ返し、ラーヴァはそれを受け取った。
「良く分かったよ、ありがとねー」
「どういう原理であなたが今、生きているかは知りませんが、あの日の夜、いずれ覚醒する侵食心眼を死に追いやろうとした者の名を教えておきますーー」
こんにちは。最近はボカロPと化してしまい、小説に手をつけずじまいな小説家、星野夜です!
カフェオレ片手に執筆最高!
さてと、めっちゃ遅くなりましたが、第21話投稿しました! 前回からだいぶ間隔が空いてしまい、申し訳ございません!
今回は帰還後、そして偽物とその過去についての回でした! 脱線しちゃいますが、フィノちゃんの過去をボカロ曲として表現した楽曲がありますが、気になる人がいればメッセージしてくれればリンクをお渡しします。
と、脱線しましたが、ウィンディーネを無事回収を終えた一行はこれから来た道を戻っていくのですが、、、次回へ続くってことで!




