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第19話『神喰らい』

「絶対に嫌だ!!! やっと再開できたのに、こんな所で死ぬなんて、許せない!!」

 私は本心をそのままに叫ぶ。打開する策なんてどこにもない。負傷して動けないルフ、魔力を封じられてしまったギルド嬢、武器を失った私。それでも、簡単に諦められるほど楽な人生じゃない。

 そんな事は身も知らず、フェンリルは私へと駆け出してその牙を剥くーーその瞬間だった。空に一筋の光が放たれ、私を襲おうとしていたフェンリルの身体に直撃し、身体を突き破って地を叩き割り、周囲にいた私を吹き飛ばした! 破砕音と共に砂煙が巻き上がる。さすがのフェンリルたちも、唐突な予期せぬ事態に距離をとった。

「ゴホッゴホッ!! ……な、なに?! 何が起きたの?!」

 砂煙で周囲の把握ができないが、私は衝撃の瞬間を見ていた。フェンリルの身体を何が突き破り、爆ぜさせた。

『ーーえっと、どうもー、フィノちゃんだよー!』

 砂煙の中から突然フィノちゃんが飛び出してきた! と、思った矢先、その姿を見て違和感を感じた。まるで透明度を上げたように、少し背後の景色が身体越しに透けて見えていた。

『今見てるのは波動で作り上げたメモリースクリーンだよ。目に見えるメッセージのようなものさ! 無事ウィンディーネは街へ帰還させといたよ。これで帰還者ゼロのジレンマはぶち壊れちゃったわけだ、あっははは! それとー、狐火ちゃん! 自分の武器ぐらいちゃんとー、持ってかないとダ・メ・ダ・ゾ?』

 急な可愛さアピールに気持ちが和んでしまったが、今はそれはどうでもいい。

『ってことでぇー、輸送しておきましたー! どうせ交戦中でしょー?』

 大当たりだった。

『魔物に衝動するように操作しておきましたー! 君の雪ちゃんだよ。せっかくあげたんだから大事にしてよねー?』

 なぜか私が長筆につけたあだ名を覚えているフィノ。手を振って別れの合図を送ると、フィノの映し出されたメモリースクリーンはその場で消滅した。そして、地を叩き割り、突き刺さっている私の長筆がそこにあった。

「……あは、はは……ありがとね、フィノちゃん!!」

 地に刺さる長筆に駆け寄り、それを引き抜いて筆を構えた。冷たい木製の柄が手のひらを通して伝わってくる。少しばかり触っていなかった久々の感覚。胸が踊るとはこの事だろうか。長筆の白い筆毛が感情の昂りに合わせ、赤く変化し始める。

「増えるからなんだ! 再生までの時間を与えなければいい! 私の集大成を見せてやるんだから!」

 フェンリルが辺りに満ちる。背後に、二人の姿が見える。旅はついに終わりを迎える。決意がみなぎった。


「狐火木ノ葉、一つ忠告ですが……ルフの火属性と私の風属性を喰らったフェンリルは、私たちの弱点である水属性や火属性、そして風属性も効かないものと同然です。まず殺せはしないですが、倒すとなればこの三属性は意味をなさない」

「忠告どうもね! 任せてよ、私がみんなを救い出して、笑顔で三人一緒に帰ろう!! その時はギルド嬢の無愛想なお顔も笑顔に変えちゃうからね!」

 それについてはノーコメントらしかった。茶番はさておき、砂煙が風に流され、修復を終えたフェンリルの群れが標的である私たちを捉え、喉の奥も鳴らして今にも襲い掛かってきそうだった。

「いくよ! 幻想壁フィクションウォール!」

 私は敵に背を向き、二人へと駆け出し、筆を叩きつけた。もちろん、攻撃ではない。二人のいる範囲へと赤いインクが広がっていき、半円状にインクは展開してインクによるバリアを作り出した。

「まだ火属性のバリアしか作れないのはごめん!!」

「ぅおぉ、マジ殺しにきてんのかと思ったわ。ありがとな、狐火」

 バリア越しで見えてはないが、ルフの言葉にニヤリと笑みが溢れていた私。

 そのまま身を翻して、背後から飛びかかろうとしていた魔物目掛けて全身全霊フルスイングで長筆を振り上げる。長筆の筆毛は赤色が若干薄まり、オレンジっぽく変色して光を放ち始めた。妄想癖を拗らせ、脳内に私だけの世界を構築する。とてもエキセントリックでエレクトリックなやつを!

 思い込みって力には無限の可能性がある。私が火属性や水属性のインクを使えるようになったのは感情の起伏で起きたものだった。魔法はイメージが重要だ。それは妄想の延長線上にある!

「試し打ちさせてもらうよぉおおお!! 鮮やかに染まれ! 幻想色彩フィクションカラー光熱パライズ!!」

 筆を振り上げ、飛び掛ってきたフェンリルの脇腹にクリーンヒットし、閃光を放った。私自身も光量に耐えられず目を塞いで、その筆を振り切る。グチャりと何が潰れる音が耳に入る。

 閃光が消えると、徐々に視界が白から夜闇へと変わっていき、視界が開けるとそこには、地に倒れて身体を震わせているフェンリルの姿があった。

「決まった! 属性が効かないならバフしてやればいいってね!! 練習しておいて良かったぁあ!」

 幻想色彩・光熱、それは麻痺を付与した攻撃。具体的な理論は分からないけど、光を拡散させてヒットした生物の神経を麻痺させる仕組み。使用中、閃光が走るため視界を奪われるのは難点だが。

「後ろだ! 避けろ!!」

 ルフの声が響き、私の背後にフェンリルが二匹ほど迫っていた。加えて、目の前からも続々と迫ってくる。目視でも十体ほどはいるだろう。私は筆を後方へと構え、フルスイングの姿勢を取る。

光熱長筆パライズステッキ!」

 構えた長筆がバーナーのように火を噴き、推進力が生まれ、私の身体を前へと突き動かす。前方へと回避を含めつつ、その際に後方にバックブラストが発生し、光熱パライズのバフである麻痺を付与した風が後ろの二体のフェンリルに襲い掛かり、その身体を地に伏せさせた。その勢いのまま、私は長筆を後方から前方へと薙ぎ払う。オレンジの光の軌道が闇の中に残像を作り出す。曲線を描いた光はそのまま、前方へと広がっていき、数体のフェンリルに麻痺を付与させていく。

「ぉおおお! 狐火の奴、以前より反射神経も魔力も急成長してやがるぜ!!」

「そりゃー、この道中、あのフィノちゃんに鍛え上げられていたんだからね」

 ただ、この光熱長筆はバーナーの火力が強過ぎるゆえ、推進力をフルスイングで消費したものの、その反動は両腕に負担をかけていた。一度のフルスイングをしただけで、ズキズキと痛みを伴っている。火力調節までは完全に操作しきれてはいなかった。そのため、長期戦に持っていかれると不利なのは確実に私の方だ。一刻も早く、フェンリルを全て制圧してここから逃げる余裕を作り出す。それが私の今できる算段だ。

 また前方からフェンリルが突撃してきている。休む間もなく、私はその長筆を構えて再び攻撃を繰り出す。

「幻想色彩・光熱!」

 筆毛が光を帯びてオレンジの光を灯す。再び長筆を全力で薙ぎ払った。近距離ではなく中距離にフェンリルがいるため、長筆は届かないが、その攻撃はインクの塊を放ち、フェンリルの身体へと着弾する。私は何度も光熱を放ち、あたかも某人気ゲーム『ス〇ラ〇ゥーン』をリアル体験しているような感覚だった。オレンジの塗料がフェンリルを鮮やかに彩り、身動きを封じている。お互い、どちらかが攻撃を喰らえば封じられるこのフェアプレー。いや、人海戦術されてる時点でフェアとは何なのか? いや狼海戦術がこの場合は正しいのかな。

 某ゲーム感覚でフェンリルの身動きを封じていく私。再び長筆を構えようとした瞬間、遠距離にいるフェンリルの口が大きく開くのを確認した。あくびのように口を開くと、その直後、赤い光が視界に入って私は本能的にその場から長筆のバーナーによる推進力でその口を開けたフェンリルとの直線上から抜け出した。私が直前までいたその空間を火災旋風のような炎が通過していった! まるでルフの攻撃に似たものを感じる。その攻撃はルフとギルド嬢のいる幻想壁に当たって消滅する。たまたま火属性のバリアを張っておいて正解だった。

「……属性吸収によるコピー能力です。この一帯の全フェンリルが対象になります。ただ突っ込んでくるだけではありません。気を付けーー」

 ギルド嬢の言葉を遮るように風鳴がし始め、木々を破壊しながら風の魔法が襲いかかってきた! 触れるものを細かく切り刻む風の刃が渦巻きながらこちらへと突っ込んでくる。その大きさに、長筆の加速回避を利用して避けても足を削り取られてしまうだろう。ならば、ここで風の魔法に太刀打つしかない!

 長筆を構えて呼吸を整える。仮に風の魔法を打ち消したとしても、その後の隙を狙われる可能性もある事を考慮して動く必要がある。

 意識を整理してイメージを膨らませていく。幸い、フェンリルの吐き出した魔法が吹き荒れている。イメージに影響され、構えた長筆の毛がオレンジの光を失い、緑色の鮮やかな毛色に変化し、筆の周りに風が渦を巻き始めた。

「風には風を! 吹き荒れろ、幻想色彩フィクションカラー暴風ウィンディ!」

 構えた長筆を一気に地面に叩きつけた。長筆に渦巻いていた風が膨張し、地面を削りながらフェンリルの風の魔法へと一直線、衝突して周辺に嵐のような突風が吹き荒れた!

 私はすかさず、身を翻して後退。身体をクルクルと回転させて長筆に遠心力を加える。長筆の毛色をそのままに、遠心力に身を任せて長筆の波動を発動させる。それは波状に拡大して前方広域を薙ぎ払う、飛翔する斬撃。

幻想波打フィクションソード暴風ウィンディ!」

 長筆を右から左へと一気に薙ぎ払う。長筆から緑のインクが波状に広がり、近寄ってきたフェンリルの身体を真っ二つに裁断させた! べチャリと落下して肉塊になるフェンリル。足止め程度にしかならず、再び倍に増殖をしようと肉塊は蠢いていた。

「ダメだ! 結局、攻撃しても増えるだけで何も効いてないし、少しずつ狐火の方が押されてきてる」

 ルフの言葉にハッとして後ろを確認すると、前に出ていたはずの私の体は二人を防護している幻想壁の手前にまで後退していた。背水の陣とはまさにこのことかと、無駄に納得してしまう始末。

 その一瞬の隙で、私の攻撃を飛び避けたのだろう一匹のフェンリルが標的である私の右腕に噛み付いた! 強烈な痛みに私は叫び声を上げた。ダラダラと服を通して血液が流れ出す。こんなに痛い思いをしたのは小学生以来だ。歯の一本一本が肉に突き刺さり、その腕を引きちぎろうとしていた。私は咄嗟に持っていた長筆の柄頭をフェンリルの眼球に突き刺し、その瞳を潰してやった。グチュリと気持ち悪い感覚で潰れる目に、フェンリルは呻いて私の腕を吐き出して一歩下がる。死の淵に立たされて、目潰しなんて卑怯は関係はない。激痛で涙目になる私は、負傷した片手を無理やり動かし、長筆を構える。

「逃げろ、狐火!! お前はもう魔力を封じられたんだ!」

 そんなの知らないよ。魔法が使えなきゃーー、

 ドガッ!

 打撃音。私は構えた長筆を振り払って、傷を負わせたフェンリルの頭をぶっ叩いた。魔力が使えなきゃ、そのまま物理的に叩くだけ!

「逃げれるわけないじゃん、今更」

 カタカタと身体が震える。疲労も恐怖も限界だ。普通の人生を送っていればこんな戦場なんか経験はしない。怖くて怖くて仕方がない。闇夜の中、無数の瞳が一斉に注がれている。どの狼に噛み殺されるのかは知らないけど、もう今更逃げられるほど力なんて残っちゃいない。ただ抵抗するしか無かった。

「……死にたくない、死にたくないよ……」

 絶望が身体に触れて、力が抜けていく。噛み付かれた右腕が血を吐き続け、包丁が何本も突き刺さったかのような痛みが襲っていた。

 フェンリルがこちらへと走り寄ってくるのが暗転し始めていた視界の中、見えた。ゆっくりと走っている。恐らく死ぬ直前なんだと悟った。

 この世界に転移してきて今日までの日々が思い返される。なんで私なんかが飛ばされてしまったのだろうか。本当ならもっと平和で普通の生活が待っていた。私が何をしてこんな目に遭っているんだ。色んな疑問が未解決でモヤモヤとしている。

 大きい口を開き、目前まで迫ってきたフェンリル。私は目を閉じ、死が迫るまでの数秒を自身の心音を聞きながら待つ。やけに大きく響く心音がうるさくてうるさくて寝れやしない。いや、もはや心音くらいしかしない。死が迫る。じわじわと一瞬がとてつもなく長く感じられていた。そして、絶望はそこで途絶えることとなる。

 どうも、腹痛により気力ダメージを負いし者、星野夜です!

 ゲーム欲を抑えつつ、小説に挑み続けている最中です。さすがは腹痛、侮れない。


 さて、今回は狐火木ノ葉VSフェンリルの群れをお送りさせてもらいましたぁ!!

 フェンリルの属性吸収の力で三人共、魔力を封じられてしまい、絶体絶命の絶望的状況、そして全滅へと至ってしまうのか。

 次話で、驚くべき展開に陥る、、、といいな。

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