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『kronos2025(4)』

 魔界に一番近い人間国アポストの鬱蒼とした森の中にある町ラーヴル。夜闇の中で煌々と光り輝く町の光を目指して、一人の少女は重たい足を動かしていた。焦げ臭い香りと人々の悲鳴が微かに聞こえる中に、その少女は憎悪に操られてただひたすらに歩いている。たった先程、この世界で唯一の親友を亡くし、心の拠り所もなくなってしまった彼女の心は瓦解し、真っ黒に染っていた。ただただあいつだけを殺すことを考えていた。

 町に入ると火の海に包まれている中、暴徒と化した人々が暴れ回り、逃げ惑う人と暴行を振るう人とで混乱状態に陥っていた。時間帯が時間帯だけあって眠りに就いていた家族は炎に飲み込まれて火だるまになり踊り狂っていたり、熱にやられて地に這いつくばっていたり、崩れる家屋に押し潰されてしまったりと悲惨な町ラーヴル。以前までの美しい緑と平和な町の情景は遥か彼方へ。

 その最中、荒れ狂う人々を容赦なく斬り殺していく一人の女性がいた。その手には一本の太刀が握られ、鈍い光を反射させている。先程、ラーヴルに訪れた旅人で、私を牢獄から救い出してくれた女性。

「あれー、なにしてるのー? わざわざしににきたのー?」

「……あ、あの……」

 全身ズタボロ、所々、切り傷や火傷、打撲など、恐らく民間人に襲われ、防ぎきれなかった傷がついていて、衣服には返り血か自分の血かも分からない血液が赤黒く染めている。頭から血を流しながら笑顔で振り返り、私に声をかけた。その一瞬の刹那、背後からの敵襲が彼女を襲う。知らせようと口を動かし、届きもしないのに手を伸ばしていた私の行動も無意味に、言葉を発する寸前でその一撃は彼女の頭部に強烈な打撃を与えてその体躯を地に伏せさせた。

「ぁあ……」

 何もできず、ただ伸ばした手を落とす。救えたはずの人すらも救えず、何も出来ない自分に怒りと悲しみを覚えた。

 誰かを救う?そんなこと、一度たりともできたことないくせに何を考えているんだろうか。結局、私はーー

「悪魔め! そこにいたのか!」

 冷静さにかけ、ただ怒りをぶつける事しかできなくなった愚かな町人が武器を手に近づいてくる。私はもう逃げることも戦うことも放棄して死を選ぼうとしていたが、最期に一つ、私の親友を殺した女を葬ってやろうと血迷った。全身全霊、身体に残っている全ての力を込めて立ち上がり、敵である民間人に向けて魔法を放つ。

「あいつを殺せるなら、もうどうでもいい……」

 水属性の魔力の全てを捧げ、空中に水の塊を作りあげていく。直径数十メートルの町を覆い尽くせるだけの水の塊。地上に落とせば水流と圧力でほとんどの人間は死に至る。誰が巻き込まれてもそんな事は関係なく、どこかに潜んでいるだろう、憎きあの女一人が死ぬのならどうとでもなれと投げやりだった。もう何も失うものもなかった。この殺意だけを全てぶつけて終わらせようと、それだけの思いだった。

 殺意剥き出しの町人たちは武器を構えて私へと襲いかかろうとしていた。その背後で、鈍器で殴られて倒れていたはずの旅人の女性が立ち上がり、襲いかかろうとしていた町人たちを自身の霊剣で一掃した。

「……あっははは……油断大敵とはまさにこの事だねー」

 瀕死寸前の身体を動かして、ゆっくりとふらつきながら水魔法を溜めている私へと歩み寄ってくる旅人の女性。

「なにしてるのさー?」

「……もう、何もかも壊して終わりにします。邪魔しないで」

「……そーかい」

 彼女は一息吐くと、手に持つ霊剣を頭上へと思い切り投げ飛ばした! その太刀はグルグルと回って宙に浮いている私の水魔法の塊に突き刺さり、その魔力を全て吸い取ってしまい、私の目の前に落下してきて地に突き刺さった。

「……な、なんで、なんで……」

「早く逃げなよ。約束を果たすんじゃなかったのかい?」

「約束なんか……もう……」

 そんなもの、もう。だってあの子はとっくに……。

「約束なんかっ!! っうわ?!」

 旅人の血だらけの腕が私を持ち上げ、問答無用で身体に鞭打って彼女は町の外へと歩き出した。歩けば歩くほどに、身体のあちこちの傷口から血を吹き出している。さっきもこんな感じで私を町の外に逃がしてくれた。でも今は余計なお世話でしかない。

「離してください」

「良いけど、限界でしょー? ここにいたら死ぬだけだよー。ほぼ全ての魔力を使い切ってるんだからねー。まあ、限界なのはお互い様だけどね?」

 町の外、出口に着くと旅人の女性は私を森の中へと投げ捨てた。

「時期にこの町は終わる。だからねー、君たちにはこの町から出てもらわないとね。巻き込んじゃうからさ」

 突然何の話をしているのか、旅人の女性は訳の分からないことを話し出した。

「奴らは君らの事をカシンカだとバカにしてくるだろうけどさー、気にするだけ無駄だよね。現に皆が恐れて嫉妬して殺しにくるくらいだよー? 将来有望だね」

「さ、さっきから何をーー」

「あははは、簡潔に言うと君らにはまだ生きてて欲しいんだ」

 今日、さっき会ったばかりの仲で見ず知らずの人にかける言葉じゃなかった。でも、なぜだか旅人の女性はどこか懐かしそうに私のことを見つめている。

「未来ある有望な子を見殺しにはできないからさ」

「さっきから何の話をしてるんですか?!」

「……そろそろ敵が来そうだからやめにしよっかー。それじゃあね、元気でー」

 旅人の女性は持っていた霊剣を地面に突き刺し、魔力を刀へと伝えていく。霊剣は彼女の魔力に反応し、青白い光を放ち始めた。空気が一転し、霊剣から人一人が放出するには信じ難い程の魔力が吹き出し始めた。その魔力は地を揺さぶり、天候までもを曇り空へと変えていく。ラーヴルの町へと吸い込まれていくように、突風が発生した。天変地異でも起こってしまうような、そんな予感が心をざわつかせる。私は思わず口を吐いた。

「待ってください! なんで……なんで私なんかを助けるの? あなたと私はただの他人で……それに、助ける義理もないはずでーー」

「君たちが、私とおんなじだから、だよ」

「おなじ?」

「さーてとー、そろそろお別れだね」

「待って!」

 全てが終わろうとしていた。私の住む町も、私の知ってる世界も、私に優しくしてくれた人々も、私が生きていた証もーーーー




私の大好きな友達も。




 涙が頬を伝う。全てを終わらそうと水の魔力を全身全霊で放とうとしていたのは紛れもない私。終わったっていいとまで願っていた。それが実現される、とても心地の良い事のはずなのに、私の心は何一つも満たされていなかった。だけど、なぜだろうか。水の魔力を全て吸い取られてしまったはずの私の目からは水が溢れ出して止まない。

「もう時間ないからさー、手短に頼むよー?」

 どうしても知りたい事があった。他人である私を救い出し、邪魔もして、ヘラヘラ笑いながら命をかけてくれる、このバカな旅人の事を、知りたかった。この人の、

「あなたの……名前はーーーー」

 その瞬間、世界が一瞬で光に包まれ、視覚は白一色に染まった。霊剣から放たれた魔法の光、夜の町全てに行き渡り、その土地一つを飲み込んでいく。その光に包まれる一瞬で私は確かに聞いていた。

「フィノーー」

 彼女の口から発せられた、その名前を。私は確かに聞いた。視界は白一色に変わり、私の言葉も何もかもが伝わらなくなる。意識が薄れていく。そのまま私は、上か下かも分からないような白世界の中で眠るように気を失ってしまった。




『必要のないものは捨てる、当たり前のことだ』

『またですか。最近はカシンカが多いですね。流行病でもあるのかね?』


 ……お父さん、私を、捨てるの? お母さんみたいに……。


 胸に激痛が走る。鉛色に光る長針が胸を貫き、血を滲ませていた。潰れたような声をあげる私の首を誰かが握り潰し、持ち上げる。


『うるさいな、黙っていてくれないか』


 顔と身体に数発、魔力の籠った拳が振るわれ、皮膚が焼けただれていく。ぼやける視界に最期の一撃が加えられーー




ーーぁあああああああっ!!!!」

 飛び起きた。気がつくと私は森の中に投げ出されていた。全身に冷や汗をかき、心臓がバクバクと早鐘を打っていた。

 自分ではないのは確かだった誰かの記憶の断片のようなものを見た気がしていた。ぼやけた記憶だったが、確かな絶望と恐怖がそこにあった。いや、結局は夢も現実も同じ事だろう。全てをなくしてしまった私と、これから捨てられるであろう夢の子の心も。

 その元凶が私の横でスヤスヤと寝息を立てているのを見つける。ボロ衣を纏った青紫色のボサボサの長髪。あの子の敵討ち。気がつくと私の手は眠る彼女の首を掴み、握りつぶさんばかりの力を込めて締め付けていた。

「ねぇ、教えてよ、君の事。私から全てを奪ったんだからさぁ、ちょーっとくらい、ね? いいよねぇ?」

 体にのしかかり、彼女の首を絞めながら答えられるわけもない質問を投げかけ、私は不思議と笑いが込み上げていた。

「答えられないのー? まあ、いいや。ねぇ、私の知ってる君はさぁ、もっと可愛い笑顔してたよね、メリッサ?」

「た゛れ゛の゛こ゛と゛た゛っ」

 掠れた声の問。

「あっははぁっ!! メリッサはね、もっと可愛い落ち着いた子なんだ。私が変えてあげるからさぁ、ははは!」

 バチバチと音を立てながら彼女の首を締めている手から電気が流れ、彼女の身体が痺れて痙攣する。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!!」

「あははは!! 私が君を可愛くしてあげるから、安心してーーーー死んでよ」

 絶叫と傲笑が誰もいない闇夜に響いて消える。そこには爽やかな笑顔の私と、状況が理解できなくてポカンとしている女の子だけだった。その子は呟く。

「ーーだれ?」

「やぁ、おはよう。君の名前はウィンディーネ。私はフィノ。ほら、立てるかい?」

 私の手はかつて敵討ちであった女の子に手を差し伸べ、手を取った。




 後に、彼らは大陸一つを潰す大罪に手を染めてしまうことになるのはまた別の話。


kronos2038

 メリークリスマス、はとっくのとうに終わってしまった。今年最後の星野夜です、どーも。

 生存確認。


 さて、今年中には書き終えてやると焦りつつ、一先ず書き終えて落ち着きました。あ、誤字脱字報告は引き続き受け付けてます。再推敲がある可能性も考慮せねば。


 自分でも物語がどの方向に飛んでいるのか謎の謎になっているので、きっと読者も時間軸ぐちゃぐちゃで訳分からねぇやとか思っとるんですね? そんな中で付いてこれる猛者は来年もよろしくお願いします。

 おせち料理とか豆まきとか桜餅とか食いながら次話でも待っててください!


 という事で描き納め!!

 来年もよろしくお願いしまぁああああああああす!!!!!!

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