『フィノの熱弁:筆使いの歴史』
注意:ここから先は狐火木ノ葉の聞いたフィノの熱弁の一部になります。長くて説明嫌いな方は第4話へと移行しても、物語上は問題ないので飛ばしてもらっても構わないです。by作者
「あははー、君って本当に失礼なやつだなー。人が気を使って説明してあげるんだから〜、そうやって無下にしないでよね〜。君の役目は小説を読みやすく分かりやすくする事なんだからさ、頑張ってよ」
追記:頑張る。by作者
そもそも筆使いなんて突拍子もない職業が成り立つのかと言われれば、イエスだなんてすんなりとは言えない。剣と比べて筆など脅威にすらならない弱物だ。前提として、武器として作られたものではない。
そんな筆を一番最初に武器として使用し始めたのは、首都『フリューゲル』のとある画家だった。彼は画家として日々、絵を描く事に没頭し、幾つもの作品を生み出し続けていた。その職をこよなく愛し、誇りにしていた。
そこでダンジョン攻略の際に、戦闘向きではない筆を使った職業で挑む事を決意する。彼は『剣術士』というダンジョン専用職を持っていながら、あえて剣を使用せず、絵描きとしてダンジョンへ潜っていった。ギルドでは原則、武器を持つ者及び武術等使用者をダンジョン捜索可能者として認定している。彼の持つ筆は規則に違反してないため、ダンジョン捜索には問題はなかった。だが、当初は筆使いなどという職業は存在しなかったために、ギルド内では彼を変人だと罵ったり嘲たりする人も一定数はいた。
そんな絵描きである彼がなぜ、ダンジョン探索に身を乗り出したのか。絵に全てを費やしていた彼は、絵描きとしてインパクトのある作品を作りたかったが、日々、キャンバスに向かい続ける代わり映えのない毎日に、自身の作品が腐っていくのを感じていたという。そこで、日常生活から飛び出し、ダンジョンというものを利用して自身の絵画に革命を起こそうとしていた。その刺激を、インスピレーションをダンジョンから拾い集める、それが彼の目的であった。
毎日、自室に籠り、筆を振り続けていた彼には、パーティーを組んでくれる仲間や知り合はいない。やむなく、一人孤高にダンジョンへと乗り込んだ。別段、身体能力は悪くもなく、運動神経も高かった彼は、ダンジョンの探求に没頭、意図も容易く最終階層とされる地下十階層まで到達する事ができた。ダンジョン地下十階層は最上級者が挑戦する難関な最終階層。筆使いとして初の踏破だった。その頃には馬鹿にしていた者たちも彼の力を認め、尊敬するほどになっていた。彼を真似て筆を持ってダンジョンに殺到する人も少数であったがいたらしい。これが、筆使いの発端と言える。
後に、彼は地下十階層にて突如行方不明となってしまい、大々的に取り上げられたりしたが、それはまた別の話。
時が経ち、彼の存在は記憶から薄れていくと、筆使いという職業は忘れ去られていき、今ではマイナーな職業になってしまった。
筆使いが流行った当初は筆の改良に政府は尽力した。一番最初に筆を武器として使い始めた彼は、何の効力もない単なる絵を描くだけの絵筆を使用していた。当然、そんな筆を彼以外の他者が使った所で武器にはならない。そこで、政府は武器としての改良を加えて、五つの分類に分けた。
アタック型である大筆
スピード型であるペン系統
サポート型であるエアブラシ
バランス型である長筆
バレット型であるデジタルペン
筆使いはおよそ百年前に確立した職業。ランク5に当たるのは、筆というイレギュラーな武器への対応がかなりハードで、まともに扱えないからである。
「ま、かなり抜粋したけど、筆使いの歴史といえばこんなところだよ、おおよそはね。次は筆使いの性質について話すよ?」
フィノはまるでタカの外れたオタクの様に、口が止まる事を知らないようだった。一方の私、狐火木ノ葉は人の話を聞かない事で定評があり、学校内では地獄耳の反対『天国耳』とか揶揄されている。その為、大半の話が蝸牛管を貫いて反対側の耳穴から放出されていた。誰か視神経にダイオードを設置して欲しい所である。襲い来る睡魔との戦いは後ほど。
フィノの口は止まる気配がなかった。