第8話『幽霊の街、ナチャーロ』
「そろそろアレが必要になる頃では?!」
山道の登坂をダラダラと歩く一行、狐火木ノ葉、フィノ、ルフの三人。そして私、狐火木ノ葉は思い出したように叫んだ。
「どーしたよ? 疲れで頭でもいっちまったか?」
「ふふん、そろそろあらすじを練らないといけない頃でしょー! もうみんな忘れてるよ、前半戦。読書好きはみんな物語をじっくり読んで熟知してるように見せてるけど、結局はクライマックスとか見せ場とかのみしか記憶できてなくて、あいだあいだは薄っぺらい紙一枚の記憶でできてるんだから。しっかりあらすじを沿うことで皆に我々の活躍を見せつけなければ!」
また妄想癖の激しい女が何か言い出したと呆れた顔のルフがヤレヤレと首を振った。
「仮にこれが何かの物語だとしても、誰が暴走女の末路なんて見たいんだ?」
酷い言い様だけれど間違いはない。しかし、末路が必ずしも悪い方向とは限らないのさ!
「って言うことで第8話!」
数日前に遡り集会所にて、私とルフの二人は最近姿を見かけなくなったウィンディーネについて噂をしていた。そこに、ことわざ通り、噂をしたらーーのタイミングでウィンディーネが姿を現す。だけど、どこかその時のウィンディーネは狂気じみていて不気味な雰囲気だった。そのウィンディーネを挑発したルフが一撃で瀕死に追いやられるダサい場面に陥る。
「うるせー、バーカ、バーカ! 狐火も勝てないだろ、どーせ!」
犬の遠吠え虚しく、ルフはこの私! そう、当作品にて主人公の座を飾るこの私、狐火木ノ葉の命の灯火で一命を取りとめたのだった!
邪悪に染まってしまったウィンディーネを救うべく、私とルフ、そして引率役を気取ったフィノちゃんの三人でガルモーニャの街から外の世界へ。
ガルモーニャの北に位置する隣町チシナーへと足を踏み入れ、そこでスナイパーに奇襲を受ける。三人は分散されてしまい、それぞれが厄介な敵との戦闘に当たる。
私の相手は何と、先にこの街に侵入していたウィンディーネだった。圧倒的な相手を目の前に私は怯むことなく応戦し、ウィンディーネを倒す、その前にフィノと言う邪魔が入り、結局取り逃してしまった。フィノ曰く、ウィンディーネだと思っていた人物はリドゥラと呼ばれる別人だと発覚。
そしてなぜかリドゥラを追ってここにいると言うわけだ。
「中身が違うだけで、リドゥラは身体的にはウィンディーネだよー」
そうらしい。やはり私の目に狂いはない! あの艶めかしい肌とキューティクルな青髪。それに黄金比率の笑顔さえ見ておけば誰もが夜な夜な襲いかかりたくなるあの幼女だと判別できる。リドゥラとはひとえに、人格変化の二人目と考えて良いかな。
そのリドゥラとやらを追いかけ、目指すは次なる街『ナチャーロ』へ。どうやら次の街『ナチャーロ』は幽霊の街と呼ばれているらしい。異世界にも幽霊って居るんだと関心と少しの恐怖心が湧いている。そう、私、狐火木ノ葉は幽霊が苦手であった。中学時代はクラスメイトに呼ばれて夏休みの最中、寝室にて行われる禁忌たる禊を放置してまで参加したキャンプ。ちょうど今歩いているような、電気源のない山中にてキャンプは行われた。そこで私はあるものを目にしてしまったのだ! それは森の中に佇む一人のーー
パキッ!
「っどぉるあわぁああぇえああああぃっ?!!!!!」
木の破片が割れた音に敏感に反応して恐怖で変な声が出たんだけど。急激な悪寒に襲われて神経が研ぎ澄まされている私は、今まで歩いてきた坂道にいるそれに気がついてしまった。
「ああああああああああぁぁぁぁぁ……」
腰が抜けて尻もちなんてついてしまう。私の目には映るはずのない三人目の姿を捉えていた。つまりあれはーー
「敵なんだな?! くっそぉおおお! 喰らえ、幻想色彩・夕景!」
完全に狂っていた私。今はあれが敵と認識しておかなければやってられない。まあ、攻撃はフィノちゃんに抑えられてしまったんだけれど。
「お退きっ! 幼女が対抗できる相手ではないのよ! お姉さんに任せなさい!」
「あっはは! 元気がいいねー、狐火お姉さん」
笑顔のフィノちゃんは背後を振り向き、目の前にいる小さい女の子に目を向ける。黒髪の艶やかな可愛らしい幼女一人が、私達一行の背後をついて来ていたらしい。フィノちゃんは驚愕一つすらなく、謎の幼女に口を開いた。
「尾行はもっと気配を消さないとダメだよ、お嬢ちゃん」
「……」
無口でフィノちゃんを睨みつけている幼女。しかし、毬栗のような敵対心剥き出しなのに必死さが伝わってくる可愛らしさ、悪くないわ!
「さ、狐火ちゃん、この子は放置して先を行こー。山道で暗いのもあるけど、そろそろ夕方になるんじゃないかなー? 夜になる前にナチャーロへ向かわないとねー」
敵対心剥き出しの女の子を気にもとめず、フィノちゃんが歩き出したので後ろを気にしつつ、私とルフも歩き始めた。
「……あいつ、こんな山道で一人何してたんだろうな?」
「さぁ? 追って来ないから、敵の視察部隊ではないらしいねー」
再び沈黙の時間が訪れ、黙々と山道を上がってく三人。足音三人分、そして気配が……四人分。四人分?!
背後を確認、女の子の姿はなし。しかし、目の前にいるような気がしてならない。フィノちゃんにすがりついてバリアー!
「……盾扱いなんて酷いなー……っ? あれ?」
フィノちゃんが珍しく苦笑いしている気がした。まずい予兆である。
「ワールドステート、生体感知!」
フィノちゃんが突然ステータスを展開した。何やら女の子の現在地を検索してるようだったが、なぜか珍しく困惑している。どことなく再び恐怖心が芽生え始めている私。
「……確かにいるんだよ、目の前にね。ワールドステートが女の子を捉えたけど、目の前にいるはずなのにいない。触れることもできない。気配だけがそこにある!」
三人の後ろを女の子の気配だけが追ってきているらしい。また何か厄介な能力者に会ってしまったのだろうか、はたまたあの子が幽霊……。
「ふぁああああああああああああああっ!」
全速前進、とにかく早く次の街に着いてゆっくりしたい! 二人を置いて一人駆け出す私と、後ろで呆れ顔のルフと困惑するフィノがついて来ていた。そして、あるはずのない四人目の気配も。ストーカー気質なんて最低! そんなだからモテないんだよ、お嬢ちゃん!
「……その言葉はそっくりお前にブーメランだな」
「何よぉ?! 私がストーカー変態暴走女ですって?!」
「そうだろ」
「むしろ肯定してきた?! いや、私は世界中の幼女と言う幼女を保護し、介抱し、あわよくば抱擁してあげたい一人の立派なボランティアお姉さんだよ、うんうん」
「欲情剥き出しかよ、キモいな、おい」
「私の愛情に晒されて浄化せよ、ルフ!」
「心から願い下げだぜ」
たわいない話でいつものムードで押し切ろうとしていたが、状況は全く一転ぜず、後ろから迫る気配は追尾したまま。謎が解けずに頭を抱えているフィノちゃんは、相手の能力解明を試みていた。幸い、相手の気配のみで奇襲する意思はないらしい。しかし、やはりこの美貌を持ってしたら幼女ですらストーキングしたくなってしまうよねー。フィノちゃんが一時、私の姿を変身させたのは美しすぎるゆえに、ストーキングしてしまうからであって、今がまさにその時! 日頃からこういう時のためにサインの練習には惜しみない努力を重ねた私のもてなしを食らえ! あまりの神対応に涙のナイアガラを流すが良い!
「サインの練習してたぐらいだから、やっぱり狐火ちゃんは紙対応なんだねー。ナイアガラで濡れて文字がかけないやー」
「塩対応甚だしいね、フィノちゃん! 涙で濡れて文字が書けないってそれ、サインする前に泣かれてるよね! 塩対応過ぎて目に塩でも入ったんですか?! いや、塩対応確定ですか?!」
塩対応な女の悲痛の叫びだった。だけど、この全く意味をなさない会話がフィノちゃんの緊張を解いてくれたようで、良かったってことにしておいた。敵に追われてるのは変わりないんですけど。
しかし、こちら側が何も手出しできないのであれば仕方ないことである。対策として、あの気配の範囲外へと逃走を図ることも考えたけど、一本道を歩く私達が逃走したとしても行き着く先はたかが知れていた。幽霊の街『ナチャーロ』だ。
幽霊の街と呼ばれる街『ナチャーロ』はその言葉通り、旅人たちの幽霊目撃証言が多発していたことから付けられたらしい。ポルターガイストや亡霊など、一晩泊まれば確実に心霊体験のできるスポットとしてクルィーロ国内では有名な街だとか。私達の住む街『ガルモーニャ』と比べるとそこまで広くはない街ではあるが、人口密度は都市部レベルに高く、毎日お祭り騒ぎのような雑踏がお目にかかれる。
そんな厄介な街『ナチャーロ』に到着したのは日が沈みきって夜空に星が輝き出した頃だった。その街の外周は巨大な壁で覆われ、中の様子は確認できず、南門の番兵に入町許可が必要とのこと。
全身西洋風の甲冑を纏った男の門兵に許可の承諾を貰うことに。頭部装甲は目元が開けているが、前髪が長くて目が隠れている。根暗感が半端なくどこか親近感が湧いていた最中、許諾書にサインを書くよう促されたが、男は突然、何か気づいて許諾書を引っ込めた。
「サインしなくて良いのかい?」
フィノちゃんの言葉に男は答える。
「悪いね、許諾書のサインはなしで良いよ。いやぁ、わたくし、目が節穴でしてー」
そう言いながら男はヘルメットをおもむろに脱ぎ、長い前髪を掻き分けた。髪に隠れていた目が目の当たりとなる。その右目には、眼球と呼ぼれるものが存在していなかった。ポッカリと空いた目は闇しか映していない。おぞましい姿と言うのは失礼かもしれないけど、その痛々しい容態につい、恐怖で身体が後ずさりしてしまっていた。幽霊、ではなく生身の人間だが、幽霊の街を前に序章を味わった感じである。
「あっはは! 節穴と言うか本当に空いてるねー、ポッカリとー!」
世間話を語るような口調のフィノちゃん。男も笑っているが、笑い話できるとこ、あの幼女、どういう神経してるんだか……。
「へへへ、時間取って悪かったね。どうぞ入町してってください」
右目節穴男は何事も無く笑って見送ってくれた。開かれた南門を潜って街の中へ。入って早々、真っ直ぐと大通りが続いていて、人々が夜間でも行き交い、賑わっていた。幽霊の街と呼ばれるくらいだからひっそりとしてジメジメした街路を想像してたけど、全く幽霊の出る気配ではない。暖色の街灯が大通りに沿って左右に一定間隔で配置されていて、街中は暖かい黄色の光に包み込まれていた。チシナーの北に位置する街『ナチャーロ』は、噂と反して明るく騒がしい街であった。
「さーて、幽霊たちに歓迎されてるようだしー、さっさとホテルでも見つけて一泊してこっかー。あわよくば貴重な心霊体験もできるかもよー、狐火ちゃん?」
「はっ! 笑わせてくれるぅ、そんなもの非科学的でありえませんね! そうでしょう、ルフ教授?」
「いつから俺がお前より歳取ったんだよ」
幽霊に歓迎されているかは謎であるが、ひとまずフィノちゃんの言う通り、私達はホテルを予約することにした。背後にあった女の子の気配は街中に入った時点でどこかへと消えてなくなり、追尾を撒くには良いタイミング。その前に一つ問題がある。私達一行は、いや私だけかもしれないけど、金銭なるものを所持していない。ホテルを予約するのに異世界でも金銭が必要なもののはず。それについて歩きながらフィノちゃんに聞いたところ、フィノちゃんは道端に落ちていた石ころを一つ拾ってーー
「これがお金だよ」
だなんて冗談めかして言った。
「んな石ころが何の役に立つんだよ?」
「ふふ、これをだね、少年よ。こうしてー」
フィノは持っている石ころを両手で塞いで、口を開いた。
「こー見えても一応は武器商人でねー」
話し始めて数秒、突然両手の隙間から湯気が立ち上がり、手のひらが赤く光を帯び始めている。熱量が隣にいても伝わっていた。明るく騒がしい街中で、フィノちゃんのしている事を気にする人間はいない。
「もちろんー、いつもは専用器具や設備を利用してるけどー、野外ではこうしてねー」
立ち昇っていた湯気が収まり、フィノちゃんは手のひらを開いた。そこには石ころではなく、円盤状の小さな物体が乗っていた。まさかとは思うが、恐らくそのまさかだろう。フィノちゃんの手にある石だった物体を金銭にするつもりだ。この世界に来て未だに金銭をじっくりと見たことは無かったが、色合いが違うことぐらいは分かる。こんな石ころを加工したもので金銭の代わりができるはずない。
「うんうん! 久々にやったけど上手くいったー。シュードファーナス、武器商人の裏技ねー」
「すげーけど、金の形にしただけで使えるわけじゃないだろ?」
「そこはステータス操作によって視界を歪めてー……」
突如、コインの形をした石ころが光沢のある金色に変化した! フィノちゃんが私の見た目を変えたように、今度は石ころの見た目を変えたらしい。この金貨を使って私達はホテルに実質ただ泊まりすることができたけど、この幼女、本当に恐ろしい。
「んー、何か言ったかい、狐火ちゃん?」
「何でもありません、総統!」
夜も深くなり始める頃、幽霊の街ナチャーロは時間知らずで静まり返ることなく騒がしく賑わっていた。フィノちゃんは南第二第一地区のホテルを予約して、そこに泊まることとなった。偽金貨一枚で三人分の部屋を借りることに成功してしまい、罪悪感のない私達は高笑いを決めつつ、それぞれの部屋に入室した。ルフはルフの部屋へ、私はフィノちゃんの部屋へ。
「狐火ちゃんの部屋は一階じゃなくて二階に取ってあるよ」
「いや、何で私だけ二階の部屋に設定されてるんですか?! そしてシンプルに侵入した私を押し返して来ないでぇ!」
なぜか私だけ二階の部屋になった。フィノちゃんの部屋を後にし、高らかに笑い声を上げながら迷惑覚悟で二階の自室へ。
「つーか高らかに笑い声を上げてたのお前だけだよな、狐火。それと何で俺の部屋に来たんだよ?」
「いいじゃなあーい、今夜は寝かせないよぉー!」
ジト目で睨みを効かせるルフであったが、この変態妄想腐女子的には萌え要素の一つであってそれはーー
「とりあえず燃えとけ、バーカ」
妄想に耽けていた私の頬に炎属性のビンタを食らわせ、倒れかけていた私のケツに蹴りを決めて廊下に吹っ飛ばしたルフはすぐさま扉を閉めて鍵をかけた。お熱いですね! くぅうううう!
軽く火傷をもらい、仕方なく二階の自室に戻った。スイッチで自室に明かりを灯す。私の世界とほとんど設備も見た目も変わりないのに設定上の違和感を感じつつ、設定をややこしくすると物語が説明臭くなってしまうので仕方ないことだなと自負しながら、ふかふかベッドに飛び乗って横になった。今頃二人は何しているのだろうか。時間も時間で今日は一日中歩き続けて疲れてるだろうし、お風呂にでも入ってるかな? 今ならフィノちゃんの希少なシャワーシーンが盗撮できてしまうのではとか妄想にふけたいとこだったが、私も疲れているのでお風呂に浸かって眠ることにした。
やはり異世界だけあってお風呂は熱魔法具によって瞬間的に沸き上がるらしい。いつでもスイッチ一つで適温にまで水温を上昇させてくれるなんて一家に一台もの。シャワーに関しては手で持つ必要がないらしく、最初こそ戸惑いしかなかったが、どうやら意識しただけでシャワー状にお湯が降り注ぐ仕組みのようだ。とてつもない便利さ、さすが異世界様々だね。用意されていた約束を果たした私はそのまま抱擁の地へと眠りに就く。そのまま意識は深い闇の中へと沈み、二度と覚めることはない。……いや、それはないね、確実に死んだじゃん、それ。
しかし、容易く発言してしまったそのフラグは後に、狐火木ノ葉の命を脅かすこととなるが、それはあと数時間後の話。
軽く二週間ほど投稿期間が空いてしまいました。毎日何かに追われ続ける私、ダメニートこと星野夜です。
第8話投稿致しました。次なる街、幽霊の街ことナチャーロへの進出。ウィンディーネを連れ戻す本来の目的を忘れつつある作者。そして、狐火に迫り来るフラグの数々? 星野夜に迫り来る創作予定の膨大なる素材たち。
次回投稿日は一週間後……だったら、いいな。




