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第2話『駆け出しプラズマ』

 光の如き一閃がジェマイルを貫き、消滅させる。死物は浄化し、地面にはドロップアイテムが数個残った。私は構えていたレイピアをひと振りして腰の後ろへと納刀する。

「ふっ……私の『エンデ・デアヴェルト』からは何者であろうと逃れることはできないのさ、キラッ!」

 なんて妄想を広げながらやって来たのは集会所。つまり、ギルドと呼ばれる、RPGならではの良くあるアレだ。私はウィンディーネと、師匠らしき男の二人と共に、そこへとやって来たのである。

「初心者でも倒せるモンスターといえば『ジェマイル』です。全身がドロドロの体液で構成されていて、核は存在しません。ジェマイルは酸を主要とした攻撃をします」

 ウィンディーネがジェマイルと呼ばれるモンスターの特徴を真面目に教えてくれた。ちょっぴり教師になったつもりの口調がガサツだけれど、それもまた可愛い。どうやら、ジェマイルとは、こっちの世界でいうスライムに近い存在みたい。けれど、それよりも気になることが、

「配達員であるウィンディーネが何で私たちについてくるの? もし私といたい願望があるならウェルカムだよ! ウィンちゃんはとても愛らしいから、特別に私の防具として纏われちゃってもいいよ! がっしりと私の心と身体を暖めてよね?」

「いたい願望前提で話を進めないでください。私だって理由なしでついてくるわけないです……。狐火木ノ葉さんのお師匠さんに用があるのです」

 ウィンちゃんが小さな指で師匠を指差し見上げる。羨ましすぎる、師匠!

 内心で妬ましく思っていると、師匠は私の負のオーラに気づいて苦い顔をした。

「……それで? この俺に何用だ?」

「噂……知っているのでしょ?」

「……メテオ、のことか?」

 師匠が暗い顔で答える。メテオ、つまり隕石のことだろう。

「私は師匠、あなたにその件を処理して欲しくて……配達バイト中にやってきました」

「バイトをしろよっ!」

 つい突っ込んでしまう私。ウィンディーネはあまりの気迫にビクッと身体を震わせて、涙目になってしまった。ごめん! 本当にごめん! まさかこんなに――ツッコミが上手かったなんてぇ~♪ そうだ、明日から誰か誘って漫才師を目指そうか! コンビを組むんだったらやっぱりクール系美人か、ロリっ娘もアリだよね~! うーん、迷っちゃうな~? クール美女だったらツッコミを任せると思いきやボケ担当で、そのギャップにキュン死しちゃうね! でもロリっ娘だったら可愛らしさを全面に押し出して男女問わずに魅了しちゃうじゃ~ん! あぁ~、どうしよー! これこそ迷える幸せだよ! ヒュッヒューイッ!

「……あ、あの……大丈夫ですか、狐火さん?」

 脳内暴走ガールの安否確認をするウィンディーネ。しかし、彼女の意識はすでにファンタジアへと護送されている。今なら爆音を耳元で聞かせても反応しないでしょう。

「……まるで別人だな。自分の教育が崩れ落ちたような音を覚える……」

 師匠は私を見て、大きくため息を吐き、この先どうなってしまうのかと闇夜のごとくブラックな不安に取り憑かれていた。


 そんな私をほっておき、ウィンディーネはギルド登録をしに、ギルドカウンターへと行っていた。

「あっ! そうだ……狐火さんはジョブ、決めましたか? 最初は必ず一つ決めるんですが、これは変更不可なんです。じっくり考えてください」

 ウィンディーネの言葉に、ショート中の私は自我を取り戻し、再起動する。

 ジョブね~……まぁ基本オールマイティなんですが、変更不可だとなると……う~ん、迷うなー。

 ウィンディーネがジョブ一覧を私へと渡す。どれどれとその一覧表を見ると、人ごみのように膨大な量のジョブが並べられていた。一つ一つの字が小さいぐらい。

「うわっ! めっちゃあるしっ! これはオールマイティな私の許容範囲外だよ!」

「項目頭にランク指定があって1~5まで。高ければ扱いは難を極めるけど、当然その分パワーとかはあります。一番扱いやすいのは『剣術士』ですね。ランク3であって、それなりに扱いやすいレベルです」

 ウィンディーネが親切におすすめしてくれたのはありがたいし、ありがとうだし。だけど、ごめんね。実はもう決めちゃったんだよね。

「私、魔術師になる!」

 キラリと輝く瞳で大声でそう宣言し、ウィンディーネと師匠、集会所内にいるパーティーたち含めて、全員が驚愕の表情を浮かべて私を注視した。ほぼ同時に注目されて、かなり動揺する。えっと……何かヤバイやつ?

「ま、魔術師ですか? その、それは――」

 戸惑いながらも口を動かすウィンディーネを師匠が止めて、代わりに自分が説明するとの意志を示す。

「魔術師っていうのはな、主に魔法攻撃を主力にしたジョブで、マナ消費は不可欠だ。常人に溜められているマナというものは大抵少なく、発動もままならない。まぁ、天性の才能で魔力に特化した体つきの者も希にいるがな。だが、ただ魔力が高ければ使えるかというとそうでもない。魔法を扱うのにだって修行がいる、当然だがな。総計して、魔術師ってジョブはな、ごくごく一部の天才のみしか得ることのできないジョブなんだよ。一覧表を見ろ。魔術師はランク5に当たる高等職に入る。魔術師になって無駄落ちするぐらいなら、別のジョブを選ぶのが良心的だぞ?」

 師匠が長々と教えてくれる。なるほど、だからこんなにも注目が集まったわけねー。でもやっぱり『闇の炎に抱かれて消えろっ!』的な決め台詞を言いたいよーっ!

「ウィンディーネも師匠も……心配どーもっ! でも私、もう決めたんだから変えるつもりはないよ。天才にしかできない? そんな常識、私が壊してみせる!」

 私はカウンターへとこれでもかというほどに身を乗り出し、声高らかに挙手して宣言する。

「私、狐火木ノ葉は、魔術師を目指してダンジョン走破しまーすっ!」

 ギルド嬢が若干引き気味なのは気にしない。ギルド嬢は呆れながらも、ジョブ一覧の魔術師の項目ボックスにチェックを入れる。鼻息荒くしてやる気満々の私の背後では、二人が諦めたという感じで見守っていた。

 なんせ私は異世界転移した唯一の地球人なのだから、絶対に何らかの力に目醒めるはず! だったら魔術師にだってなれるって……そう信じてるよ、ポジティヴにね!


 こうして私の職は魔術師となった。ステータスにしっかりと刻み込まれているはず……ステータス? そういえば、この世界はステータスなんてあるのかな?

 そのことをウィンディーネに尋ねると、彼女は信じられないとばかりに目を見開いた。

「その、ステータスは自分の意志のみで空中に投影できるものなんです。生まれつきあるはずですけど……」

 ふ~ん、そういうものね。じゃあ魔法のような修行はなしで手足のごとく操れるわけ。ならば早速展開だ! 私は念じてみる。すると空中にステータスが展開した! やったぞ、私!

 と、喜んでいるのも束の間……



狐火木ノ葉 Lv18


体力

物理攻撃

魔法力

特殊攻撃

物理防御

魔抗力

特殊防御

速度

回避

補正

加護

幸運


ジョブ:ランク5筆使い Lv1

波動:(封印)



「ちょっと! ステータスショートしてるんですけどぉーっ! っていうかー、ジョブが魔術師じゃないんですけどぉ?!」

 ステータス数値NODATEって何? これって新手の嫌がらせですか? あと、筆使いってどんな職?! 筆で殴れば良いわけですか?

 そんなショート中のステータスを見た二人はまたしても驚きの表情を浮かべる。やっぱりおかしいよね?! NODATEじゃ何もできないけど。ウィンディーネが何か口にしようとして、師匠がそれを止めている。それほどに深刻なわけですね?!

「ステータスNODATEというのはな……まずおかしいことなんだが……。ないから0だというわけではない。もし0ならお前は俺の拳一撃で死ぬわけだからな。そしてステータスは機械ではなく魂の具現化。ショートすることなく真実を伝える。NODATEのステータスは真実だ。ジョブが筆使いになってるのは……何かの手違いだろうけど……不幸なもんだ」

「えぇ~っ?! んな無責任! これ変えられないんでしょ?!」

 大汗かきながら叫ぶ私に、二人はとても気まずそうに小さく頷いた。

「うわー……こんな弱そうな職じゃー何もできないよぉ~……」

「そうでもないですよ?」

 ウィンディーネが石台へと飛び乗り、上から目戦で話す。

「筆使いは筆を武器とした剣士職であり、インク族性によって様々な使い分けができます! そして近接武器ナンバー3のリーチを誇る武器! 筆使いの長所は何といってもマーキング能力! これはどの職でも勝てはしない立派な長所! だけど一つ……筆使いは魔術師と同等のランク5で、扱いは難易度トップランクですから……心配なとこではあります」

 ウィンディーネは鼻高に説明する。落ち込む私を慰めたり、不安がらせたりしてくれた。助ける気あるの? でも、そんな姿も可愛くて良しだよ! 立ち直れそうだよ! ランク5筆使い……まぁ、何とかなるよ!

 まずは、

「とにかく練習あるのみ! ガンガン行くよぉ~っ! 特急列車を跳ね除けるほどの破壊力で進んでいくよっ! いざ、出陣っ!」

 私は一人、元気良くダンジョンへと駆け出す。これからどんな物語が繰り広げられるのか、考えただけでテンションが上がってくるよ! 私は筆使いで頂点まで登り詰めてみせる! それこそが、この世界に来た宿命なんだと思うから!

「狐火さんっ! 武器、買ってないよっ!」

 『ジェマイル』はスライムです。ちょっと文字をずらしただけです。

 では問題です。ゴーレムは何になるでしょう? 答えは次回の後書きに記載しておきます。

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