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第1話『ファンタジスト・スターター』

「ここが契約した一軒家です」

 そう管理人に紹介された家はどこにでもあるような普通の一軒家だった。白を基調とした外壁、日光を浴びる茶色の屋根、緑美しい芝生の生え渡る小さな庭。二階にはベランダが設けられていて、柵が下からでも見て取れた。私は文字通りの猪突猛進、猪にも負けに劣らない勢いで一軒家へと足を踏み入れ、屋内全域をくまなく探索、ものの数分で全てを把握しきる。そして意味不明な満足感に駆られると、リビングに置かれたソファーにダイビングをかます。大きく伸びをして深い吐息をした。

「ここからがスタートだね!」

 なんて物語の始まりを予兆させる発言を吐き捨て、玄関に置かれた新品の家具諸々、業者にあれやこれやとしつこく指示して扱き(こき)使ってウンザリさせながら、それなりに使いやすい配置にして一人暮らしの準備を終えた。その頃には日は落ちて夜の闇が訪れていた。関係はないけど『夜の闇』ってワードすごい厨二がうずくよね閑話休題。

「あ、そうだ。そろそろあの番組の時間だ!」

 私はふと思い出して、真っ先にリビングへと滑り込む。ソファーに飛び込むと同時に、リモコンでテレビの電源をONにした。その様は、数十年の歳月がもたらした熟練者の動きのそれだった、と私は思っている。身体を突き動かし、夜飯なんか無視してでも見たい番組がここにある。昔から『花より団子を擬人化したような人間だね』と言われたことがあるが、それぐらいの食欲を抑圧できるほどには魅力的な番組なのだ、と私は思っている。

 だが、テレビがついて早々、流れ始めたのは白と黒のコントラスト、その名も砂嵐だった。チャンネルが違うのかと全チャンネル周回して見ても、結果は同じでホワイトノイズにラスター。いつからテレビ番組はASMRに染められてしまうようになったんだろうか。目的の番組がお目にかけられず、焦りつつも冷静になり、ひとまずアンテナコードを確認。コードが抜けているわけでもない。

「うわぁぁぁ! 馬鹿なっ! 電波がシャットアウトされているなんてぇ~っ! ま、まさかこれは……違法電波攻撃によるものか?!」

 こんな人間が一人暮らしを始めるのかと、ため息を吐きたくなるほどには幼稚な考えだった、と私は思っている事が自蔑的で哀愁が漂う。それだけならば良かったが、現実はもっと非情であった。アンテナの確認をする為に、屋外へと飛び出して、そこである光景を目の当たりにしたーー目の当たりになったからだ。外界、一見もない町並みがそこにはあった。


 夜分遅くに近所の見知らぬ人に尋ね、判明したこと。世論の伝わらない様や、日本の地名にも首を傾げる辺り、信じられないけれど凡そ把握できた。その結果から言うと、私は飛ばされてしまったらしい。飛ぶというのはこの場合、フライアウェイでもフライデーでもない、ワープとかいう名称で呼ばれる方のそれだ。つまり、ラノベで良くある『異世界転移』というものだろう。そして語呂感でテキトーに話してしまったことをここに謝罪しよう、と作者は思っている。

 家ごと転移してしまったのは幸いだけど、あの番組が見れなくなると思うと発狂しそうになる。と、思うじゃん? それが違うんだよ。

 あのごく普通の一軒家も、振り返って目に付いたその時には既に、事を終えていた。そう、私の一軒家は何処へ? いつからこんな町並みに溶け込むようなファンタジーな外装と化してしまったんだか……。いやいや、それよりこの世界を生き延びることを第一に考えよう!

 イメチェンした我が家に戻り、内装をチェック。間取りは変わらないが、テレビは消え失せ、所有物は手に持っていた携帯電話と着衣のみとなった。

 落胆より好奇心の勝る私は全把握を終えたはずの屋内を再び模索し始める。と、小一時間が経過する頃、突如、鳴るはずのないだろうインターホンの音が響いて、私はビクリと身体を震わせた。そう、これはファンタジーお決まりの展開! ここで仲間の一人に出会い、そして壮大なる冒険が幕を開ける。

「次回! 私こそが真の勇者! 来週も見てよね!」

 と、一芝居打って、どこかを指差す始末。自分が自分で自分自身を心配している。

 茶番を一度打ち切り、私は軽快なステップを踏みながら玄関口へ。

「はいはーい! 勇者ですが、何か~?」

「ゆ、ゆゆ、ゆっゆ、勇者様ですか?! えっと、その……」

 扉を開けて出てきた不審者に、大慌てでパニクる一人の少女がそこにいた。腰まで届く長い蒼髪をまとめ、三つ編みにして垂らしていて、それとは対照的に瞳は真紅色。不似合いのブカブカパーカーを着ていて、下はスカート姿。不思議な独特な印象を放つ少女だった。やっぱりお決まりのヒロインキャラかな?! こんなにも愛おしい幼女がこの世に現存するなんて……神は理不尽なものですね。私は結構な問題発言ですね。

「えー……君は一体何者かな?」

 この時、私は歴戦の教授風に(こしら)えてない髭を(さす)っているモーションをとる。

「わわっ……私……私は、ウィンディーネ……です」

 少女は困惑しながらも何とか小声で答えてくれる。名前を訊いたわけではないが、頬を赤らめて恥ずかしそうにモジモジと、目線が右往左往していて……えっ、何この子……可愛いすぎる! ってダメダメ! もっと平然になるんだ、私! 主人公はいつでもクーリストなものだから!

 そんな勝手な思想を信じて冷静を装う。

「ウィンディーネ……悪くないじゃん♪ 私は狐火木ノ葉、よろしく!」

 そう言って、ウィンディーネへと手を差し出して握手する。少女は戸惑いながらも小さな手で握った。

「それで? この私に一体何用かな?」

 二度目の教授役に没頭し、再び要件についてを問い質す。

「そうでした! あなた様へのお届け物をと……」

 お届け物? この世界に来て早々、まだシステムもモラルも分かってない中でお届け物ですか?

 何だか良く分からないが、手に取ろうとした時、

「その届け物は俺あてだ」

 いつの間にか現れた一人の男がウィンディーネの背後から持っていた小包をヒョイっと奪い取り、気配に気づかなかったウィンディーネは慌てふためいて足を玄関側へと踏み入れる。一方の顔は背後の男へと回っていったために、身体が捻れてバランスブレイクし、私の身体へと倒れてきた。柔らかで艶やかな頬の弾力が胸部に当たって感じられる。ささやかで優しい暖かみがほんのりと伝う。やばい、どうにかなってしまいそうになる。この瞬間だけ幻想郷ユートピアに飛ばされたような感覚。上目使いのウィンディーネの顔が間近にぃ……ファンタジー最高!

 困惑するウィンちゃんに狂喜していると、小包を持った男がこちらに冷ややかな視線を送っているのに気づいて冷静になる。

「さて……早速始めるとしようか。準備はできてるんだろうね?」

 その男はこちらへとそう尋ねる。ウィンディーネと知り合いなんだろうか。二人の会話を呆けて聞いていようかと立ち尽くしていると、男がじーっと私を見つめた。えっ? もしかして私に言ってる? いや、知らないんだけど、誰? この胡散臭いオッサンは? 明らかに老魔術師やってそうな身なりだよ。魔術書の呪文で黒魔法とか唱えて怪しく不敵な笑みを浮かべてしまう人種だよ。胡散臭さがカンストしてるよ。

「あの……あらかた声に出ちゃってますけど……」

 眼下のウィンディーネが可愛らしい小声でオドオドと教えてくれる。つい心の声が漏れてしまった……。昔から嘘は吐けないタイプで陰口がすぐ出てしまう体質なのです……。何だその体質は?

 私はせっかくだからと異世界転移した経緯を話してみる。正直――じゃなくても信じられない事実で、信じてはもらえないと考えていたけど、この異界の環境下あって、二人とも疑う様子はない。

「……つまり、俺のことは忘れている……のではなくて別人ということか」


 とにもかくにも、私はここで生きていかなければならない。何事もなく平和に暮らせるなら、と思っている今の私は現実を甘く見ていたのだった。

 さて、これが記念すべき第1話目となります。非常に残念な回でしたね。実はですね、こちらの主人公は半分ほど自分です。痛々しい作者の妄想劇です。それを知っておいてのこの『小説』ですねw

 あと、ウィンディーネちゃんが大好きだ!

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