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第8話『初ダンジョンは危険な香り?』

 涙目で落胆するウィンディーネを引き連れ、解熱作用のある草を薬草屋へと買い出しに行くことに。今回はウィンちゃんを引率するのはこの私。そう、ついに生徒役の座から昇格したのだ! ここから教師である私と生徒のウィンディーネとの、ハチミツのように甘くてドロついた禁断の恋が幕を開けるのだった……。

「次回! 幻想色彩・紅葉! 舞い散る紅蓮の華がその世界を赤く染め上げる。絶対に見てね」

「……」

 あれぇ? 誰も突っ込まないの?! ってウィンちゃん! 何、その冷淡な目つき?! あー冷めましたわー、とか言いたげな表情……ちょっと、誰でも良いから突っ込んで! 誰でも良いから突っ込んで! もう誰でも良いからぁ~っ!

「あ、そうだ。ウィンディーネはさ、具体的にどんな薬草が効くか知ってる?」

 フィノちゃんが私をガン無視で尋ねる。うわぁー、心が冷めていくぅー……。

「……ヒートソウグラス、冷雪草、もしくは岩漿亜水です……」

 ウィンちゃんはか細い声で答える。なるほど、一重に熱治しにもいくつかのアイテムがあるんだ。薬草屋に目当ての物があると良いね。それはそうと――

「患者が熱にうかされず、悠々とついてきてるんだけどぉ?!」

 私とウィンディーネ、フィノの他にもう一人、熱にかかっていたはずの男の子が付いてきている。平然としていて正常体にしか見えない。

「俺は火属性だから平熱が高いんだぜ? 仮に俺が熱にかかったなら低温火傷にさせられるぐらいにはなるからな」

 胸を張って自慢げに話す男の子。じゃあ今回、薬草屋に行く必要はないじゃん!

「嫌です! 私は絶対に薬草屋に行って解熱アイテムを買い占めます! 絶対ですから!」

 ウィンちゃんは私の心の声を読んだのか、人差し指で私を差して言い放ち、それからプイッと明後日の方に顔を逸らしてプクッと頬を膨らませた。あはぁ~、かーわーいーいーっ! 怒ったウィンちゃんも良いよねー! いっそのこと、ウィンちゃんの表情一枚一枚撮り溜めて『ウィンちゃん表情百撰』というタイトルで写真集を出そうよぉ~っ! 絶対に儲かるって! 私だけで百冊ほど買うんだから!

 そんな可愛らしいウィンちゃんはらしくない大股で一人ズカズカと進みだした。いや、分かるよ? 意地張りたくなるの。悔しいのは分かる分かる。中学時代にテストの前にも関わらずNo勉で挑み、ワースト1位になった時の心情と同じだよね?

「違いますから!」

 と、顔を真っ赤にして振り向き叫ぶ。なぜ読まれたし?!


「で、来たわけだけど――」

 売り切れてるという災難だね、ウィンちゃん。

 頬を膨らませて分かりやすいように拗ねるウィンちゃんに参っている店主はオドオドしく答える。

「わ、悪いねぇ、嬢ちゃん。焔液流動警報が発令して商人たちが素材収集に出れなくなったんだよ。それでよぉ、民衆たちが一気に店に殺到してきてな。ほとんどの店舗がアイテムが品切れ状態だ。仕入れが入らないから俺の店も見てのとおり、売りもんなんてない。まぁ、店側の俺からしたら得の何でもないがーー」

「むぅーぅ」

 頬を膨らせたまま、ジーッと睨みを効かせるウィンディーネ。いや、全然怖くないっす。むしろ可愛いです。どーせならその表情で私の寝室を監視してもらいたい! 私の目の届く範囲で生息して欲しい。

 一方の店主は困り顔。

「ま、まぁ、確かに、焔液流動警報がこのまま続けば、商人が動けず商品を仕入れることも出来ないから、結局俺らは販売すらできなくて飢え死にだけどな」

 つまり今の状況は、震災などでコンビニやスーパーの商品が売り切れになる買い占めパニックと同じ状態ってことだね。相当深刻じゃない?! 異世界転移そうそう、これは神のいたずらですか?

 ウィンちゃんは諦めきれない様子でまだ拗ねている。その姿がまた可愛いんだよね、うんうん! ペットにしちゃいたいくらい。あ、それは危ない発言だぞ、狐火木ノ葉。危うく小説が十八禁コーナーに並べられるとこだったよ(メタ発言はやめなさい。色々めんどうだから)。

「まぁ、売り切れなら仕方ない。諦めることも時には必要だよ。ね?」

 そう言ってウィンディーネの肩を叩いた矢先、無残にも手で弾かれ、

「じゃあ、いいです! 自分で取りに行ってきますから!」

 なんて上涙目使いで叫んだウィンちゃん。一瞬可愛すぎて昇天しかけたけど、必死で堪え、今目の前にある天使を保護すべく、ウィンちゃんを両腕で拘束する、不可抗力で。そう、決してやましさなんてなく、これは天使を保護するための不可抗力なのだぁ、ジュルジュル。おっと、危ない危ない、ヨダレが……。

「まぁまぁ、待とうよ、ウィンちゃん! 今行っても単なる自殺行為だからね? まぁ、ウィンちゃんと駆け落ちなら悪くなゴホッゴホッ! 死んじゃうから、ね?」

 ドタバタするウィンちゃんをしっかりと抱きしめる。

「は、離してくださいです! 私はこの世の全ての薬草を取り尽くすのです!」

 どこかの当アニメで聴いたことあるようなフレーズ使わないで、ウィンちゃん! 削除されかねない! 本当に出版社から削除されかねない!

「そんなのどーでも良いのです! 魔法でどうにかなります! それより収集の方が大事なのです! だから離してください!」

「あー、狐火ちゃん。離しちゃって良いよ。その子は焔液流動警報ぐらいじゃ死なないから」

 フィノちゃんがそう言う。ひょっとして、ウィンディーネは結構強いキャラ設定?! ヒーラーなのに攻撃型? 守りできてるように見せて、隙を突き攻め倒すドS系鬼畜キャラですかぁ?! あは、ウィンちゃん、私で良かったら実験台にでも――

「そうですか。なら狐火さんもご一緒に」

「え? ちょっと、それって、わぁっ?!」

 さっきまで拗ねてたウィンちゃんが嬉々とした表情で私を引っ張り連れて行く。ちょっと?! 初心者! 私、初心者! 死んじゃうから! ね、死んじゃうよ? 私、死んじゃうよ?! 良いの?!

「腕が吹っ飛んでも足がちぎれても、私が治してあげますから、安心して一緒に収集しよ?」

 ニコリと物騒なことを天然発言するヤンデレ。怖すぎっ! それが本当に純粋だからなおさら怖すぎる! じょ、冗談だよ?! 実験台は冗談! 本当に冗談だから! 誰か助け――


 ダンジョン地下一階層、勇者旅立ちの最初に必ず訪れる試練であり、輝けるステージ。なんてのは雲散霧消の塵と化すのさ。勇者が初めから強いだなんて、そんな物語はつまらない。そう! 最初は誰でも弱いのだ!

「だからやめよう? 帰ろうよ? 一緒にヒキってニートしよ?」

「外に出なくちゃ世界は広がらないのです! とある画家が言ってますよ。『進めよ、勇者。死せるその日は遥か先』って」

「勇者は勇気があるから勇者であって勇気のない勇者は世間一般では『意気地なし』と言うではないか、ウィンディーネよ。とあるヒキニートが言っている。『まだ死ぬ時ではない』と。そんな装備で大丈夫か?」

「大丈夫です! さぁ行きましょう!」

 あ、異世界でも通じるんだ、このネタ。

「そもそもぉ、警報でダンジョンには――」

「じゃーん♪ 許可証」

 うがっ?! そ、それはぁぁぁあっ!!! 今から数年前、当時中学二年の頃――


 当時の私には漆黒たる闇の契約紋が右腕に刻まれていた。ルシ○ァーとの契約交渉により、一年間。私は神たる力を手にすることを許された。

 鳴り響く『時を刻みし円盤(タイムズキーパー)』を支配する『五つの金字塔創造神(ワールドクリエイター)』に抵抗すべく、『契約書類メモリアルセイバー』に古代文字を書き記した、まさにそれではないか! ←訳すと、五教科のテストに嫌気が差して、暇だからテスト用紙に落書きしてた、そのイラストとたまたま似ている許可証だったということ。長くなってすみません、読者の皆様方。今後、狐火木ノ葉には厳しく言っておきますので、どうかこの脳内暴走ガールを許してあげてくだ――

「その脳内暴走ガールを作り出した本作者に言われたくないんですけどぉ?!」


「じゃ、じゃあ……その、つまりぃー……」

「ダンジョンスタートです!」

「ぎゃあああぁ――」


 スライムとは素晴らしいものだ。見てください、この艶やかなボデーィ! 滑らかさを厳選して選ばれた素材だけを存分に使い、お客様のことも考えて低コストで仕上げることで低価格高クオリティーを実現しました! 爽やかな青色の塗装と冷却効果で、クールに、そしてスタイリッシュさを表現してみました。でもやっぱりお高いんでしょう? そんなあなたに特報です! こちらのスライム、タイムセールにてお値段半額なんですが、さらに出血大サービスでスライムをもう一匹付け加え、お値段はそのまま! えっと――うにゅらうにゃ円です! 実際に購入してもらったお客様のお声を聞いてみましょう。

「ヴァポレース!」

 じゅゅゅぅううう……。

 見てください、この美しい蒸気! お客様も大喜びです!

「戦ってよぉお……」

「あ、ごめんごめん。だってウィンちゃん一人で十分じゃない?」

 ダンジョン一階層の洞窟内。壁に立てかけられた松明で肉眼行動はできる。目の前にいた二匹のスライム、この世界名では『ジェマイル』がウィンちゃんの熱魔法であっという間に蒸発する。さぞかし気持ちよかったのだろう。じわりじわりと痛めつけられゴホンッ――暖められていくその様は、飛翔するペガサス、はたまた天使たちによって天に昇っていく男の子と名犬のコンビのように、安らかであった。あはぁ、それ良い! 私にもちょっとお願いしま――

「人に使うと人体が爆発するそうです」

「うぎゃあああ! やめようやめましょうやめてください小さな堕天使様!」

「しませんよ、もぅ。これはお風呂沸かすためぐらいにしか普段は使いませんよ」

 にしても、良くやったウィンディーネ、大儀であった。これで私が手を下さずともダンジョンを攻略できるではないか! 俗に言う虎の威を借る狐……あ、私の名前通りの、ってウィンちゃん、虎ですか! あのゆるふわ深海ガール……あ、あなどれない!

「負けるものかぁぁぁぁああああ! ぬおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 青ざめた顔でビクっと震えたウィンちゃんを置いて、厨病激発熱血漢は一人疾走していく。というか、背負っている筆がすでに炎を吐き出す勢い。この女、勝負事では血が上って理性を失いがち。高校生活でセクハラ体育教師による柔道で、何の辱めも感じず挑み続け、セクハラ体育教師は最初こそは大喜び(ポーカーフェイス気取り)で調教するものの、負けず嫌いな狐火にさすがに嫌気が差してわざわざ負けにかかる始末。

「今のは絶対わざとだから! もう一回いくよぉぉおっ!」

 なんて狐火に文字通りの火を灯してしまった体育教師は、日が暮れるまで狐火に付きまとわされたとさ。それ以来、その教師はセクハラチックなことをしなくなったという。クラスメイトの女子生徒からは『対調教師調教システム』と呼ばれたとか。

 な、何かとてつもなくゾワっとした気が……。

 そんな私の前にジェマイルが現れた!

「待ってたぞ、勇者。貴様を潰せると思うとゾクゾクするぜぇ、ぐへへへ――とか言いたげな表情じゃないか、スライム君。良いよ、相手してあげる。だけど、残念ながら今の私は猛烈に戦闘したい気分だぜぇぇぇえええっ!」

 駆け出す私は背負っていた長筆を引き抜く。長さ170センチ弱の茶褐色の筆を勢い任せで振り抜き、ジェマイルへと一撃を決める。

「燃え盛れ、赤き焔! 幻想色彩フィクションカラー夕景フレイム

 白銀の筆毛から業火が乱れ、ジェマイルへと一撃を――外す。筆の重さで狙いがそれるという凡ミス。そうだった、、昔から筋力だけは『ひ弱な小動物並で可愛いな、筋力だけ』って言われてた。筋力だけ可愛いってどういうこと?! それ、かなり失礼じゃない?!

「――っ?! おわぁぁ、ちょっと待って、まっ――」

 隙だらけの私を、突如膨張化したジェマイルが押し潰した。


 一方のフィノサイドでは――

「なぁ、アンタ。さっきから何してんだ?」

 病患者のはずの男の子が、フィノの後を付いてダンジョンを散歩感覚で巡っていた。フィノはというと――

「ん? あぁ、これね。ちょっとした武器を繕ってたとこ」

「武器?! そんなの簡単に作れんのかよ?!」

「え? 逆にできないの?」

「できねぇよ」

「できた!」

「お? なにそれ?」

 フィノの手には半透明の青い板を球状に固めたような物体が握られていた。男の子も見たことのない、そのアイテムを興味ありげに見つめる。フィノは自信満々に説明を始めた。

「少年よ、これはだねぇ――っあ!」

 掲げようとしてタイミング良く手を滑らせるフィノの手から球状のアイテムが転がり落ちて、運悪く穴へと落ちていった。

「うわぁぁぁぁ、私の爆弾がぁぁぁぁああ!」

「それ爆弾だったのか」


「狐火さーん、あのー、どこですかー?」

「うぅ、あ、あ、の、ここ、だ、よぉ」

 私の弱々しい声に気づくウィンちゃんは声の方へと大急ぎで駆け出す。そこには、膨張したジェマイルに取り込まれつつある私の姿。

「き、狐火さん?!」

「ヌルヌルするぅ……気持ち悪いぃ……」

「……ディスター」

 ウィンちゃんの魔法がジェマイルを消滅させる。キラキラと粉のようなものが舞い散って消え去った。私は疲れきってヘタレ込む。そこにウィンちゃんが手を差し伸べ、

「大丈夫?」

 なんて声をかけてくれた。と、尊い……。結婚しよう、うん。

 手をとって立ち上がる。

「にしても――」

「にしても?」

「――ジェマイルってなかなかのテクニシャンだったよぉ?! なんか、意外と悪くなかったかもなんて思ったり! いやー、確かに気持ち悪かったけど、あのヌルヌルも少しは――」

 青い顔で引いたままのウィンちゃんが冷酷に私を見つめる。き、キモイのは分かってるよ自分で? だけど、その目はやめてぇぇぇぇ!

「あのままでいたら消化されてたと思――」

 その時だった、地面から身体が離れた……。


 思うんだけど……この小説さ、書けば書くほど、自分が変態に思われる気がするんだけど。主人公の狐火木ノ葉に脳内侵略されそーなんだけど。

 否!! 僕はこれを書き続けなければならない。なぜなら僕は!

 変態ゴホンッ! 小説作家なのだから!

 否!! 変態ではない。決して変態では、ない! はずだぁっ!

 自信がなくなってきた今日この頃……。

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