第4話『模擬戦』
フィノの長ったらしい説明VS襲いかかる睡魔にふらつきながらボーッとしているうちに、説明が終わって私は力尽きる。眠気にはやはり勝てないかな。私はフィノの小さな身体へと倒れた。良くぞ耐え抜いた、私よ! フィノの小さき幼体に納められて幸せな眠りに就きました。それはまるで雲の上に浮かぶ花畑にそよぐ風に浴びせられたように、ふんわりとした気分だった。その後は、完全に夢に落ちてだらしなく弛緩した頬で笑顔を浮かべていた。
「かかってきなよ! 私があなたを美しく儚く、何より芸術的に、一枚のキャンバスとして扱ってあげる! 私の芸術の前に絵画となってひれ伏しなよ!」
長筆を手にした私は駆け出す。その背後を王道十二色インクの玉が浮遊しながら追従していた。目の前には体長五十は優に越す岩石の巨人。ビル工事の騒音に似たような轟咆を上げて手を振りかざそうとしている。私は脚力に魔力を一点集中し、大跳躍して一瞬で巨人の眼前まで飛んだ! その巨人の顔へと長筆を構え、王道十二色インクたちが筆先一点に集中する。
「――はどぉうっ! 『十二色の暴風弓』」
ソファーの上、壮大な寝言を叫び散らかす私は右腕を振った勢いでソファーから転落、ゴンッと大きな打撃音を響かせて目覚める。
「ごがっ! ……はっ?! こ、ここは……ゴーレムは?!」
と、まだ夢から戻ってこない私の頭が周囲を見渡す。どこかの小部屋らしい。壁に共通点の見当たらない道具類がいくつもかけられていて、どれもこれもボロボロで使い物にはならなそうなものばかり。そんな壁の真下ではフィノが机に突っ伏し幸せそうな寝息を吐きながら夢に落ちていた。私はそんなフィノちゃんの顔を見入る。滑らかな白い肌に、ふわりとした、うっすらと花の香りがする艶やかな赤い髪の毛。幸せそうなその寝顔……愛らしい、ものすごく愛おしい! 一言で可愛らしい! 今すぐ抱きつきたいよ、フィノちゃん! その小さな身体を身に沈めたい! 頬をスリスリしてあげたい! けど、フィノちゃんのこの幸せを阻害するのはあまりにも残酷無情すぎるね……。うぅー……辛抱たまらんです、神様! で、でもここは平常にならないと……。ウィンちゃんもフィノちゃんも、このままでずっといて欲しい。腐っていくことは私が許さないんだからね!
……どうしようもない腐女子である。
そんなタイミングでウィンディーネが扉を開けて部屋に入ってきた。顔をフィノちゃんの超至近距離まで近づけていた私の姿を見るなり、
「……え? き、狐火さん?!」
うわぁ~、見られたぁ~っ! ち、違うんだ! 勘違いだ! 不条理だ! ちょっと頬と頬でスリスリしたり、フィノちゃんが普段使っているシャンプーが何なのかを確認するために煌びやかな赤い髪に顔を近づけたり、ぬいぐるみのように抱きついて愛でまくったり、あげくの果てには同性だけに一緒に同棲しちゃったりしてあんなことやこんなことをしちゃったりとか、一ミリも思ってなんかないんだからねっ!
「その、すいません……心の声、漏れちゃってますけど……」
あっ、いつもの癖が!
「それはそうと――」
え? ここはスルーしてくれるの?
「――さっきはびっくりしちゃいましたよ。いきなり倒れたかと思ったら眠っちゃうんだもん」
「あぁー、そうだったっけ? ……自重だよ、本当に……」
「それで話、聞いてみてどう? どのタイプにするんです?」
「ん~、そうだねー……バランス、かな?」
ガバッ!
「じゃあ長筆だねっ!」
と、まるでさっきから起きてたのかという勢いで目覚めて顔を上げ、フィノはそう叫んだ。マジか……。子供のようなキラキラとした瞳――いや、子供だよ。
そしてフィノちゃんと闘うことになった。いや、何でそうなるの?! どうやら長筆の鍛錬だとか何とか……。フィノちゃんが講師をしてくれるそうで。え? それってチョー萌えるんですけどぉ! スーツとか着ちゃったり?! あはっ! 何か凄い熱くなってきたよ! ちょっと写メりたいなー。スタッフ! 今すぐカメラとか用意してくれない?! とにかく講師姿のフィノちゃんを永遠にフォトフレームの中に閉じ込めておく最初で最後のチャンスになるかもしれないんだよ?!
そして手渡されたのは長筆だった、ジーザスッ! その長さ170センチの細長い筆を振り回し、勢い良く突きつけて私は叫ぶ。『シャキーン』って効果音付きで(あとで作者にそう編集してもらうつもりである)。
「一発で仕留めちゃったらごめんね、フィノちゃん! 痛いかもしれないけど、手加減はしないつもりだから! ついでにカメラにも一撃でパシャっと撮ってフォトフ――」
「本気で来ないと負けちゃうよ♪ こっちは加減してあげるから、いつでもおいで」
不敵な笑みを浮かべ、フィノはそう言った。彼女はどう見ても手ぶらで武器というものは見当たらない。ということは、物理ではなくて魔法系統攻撃で攻めるスタイルと見た!
あ、ちなみに私は可愛げ幼女とセクシー女子をこよなく愛して崇拝するスタイルですっ!
いや、聞いてないし。
私とフィノちゃんのいる場所は戦闘には不向きな小部屋の中。ちょっと暴れただけで小物とか、壁にかけている物とかを破損してしまう恐れあり、ドゥーノットムーブ!
「ここで闘うの?! 何か壊しちゃっても弁償しないよ? 保証もしないよ?」
「大丈夫、君が何かを壊すよりも前に決着はついちゃうから♪」
むむっ、今のはカチンと来ちゃうね~♪ 主人公も随分と舐められたものですよ……舐められる?! うん、それ良いぞ! 良いぞ! あの幼女の優しい抱擁と舌触りが私を――イヤッホーィッ! ってそれは完全変態発言だよ、私! 自重だよ、自重! ま、主人公なんだから、ズババっと決めちゃってあげないとね。
私とフィノ、二者間距離はおよそ三メートルほど。
「じゃあ行くよ~。スタート!」
部屋の片隅にあるソファーで座って傍観しているウィンディーネの清らかな声で開始を告げる。ここで猪突猛進に突っ込むバカ主人公がお決まり展開かもしれないけど、この私はそんなバカでは――
「うぉーかくごーっ!」
いや、バカですか?! ってフィノちゃん動いてないし! 動く気ないでしょ?! のんきに本立ち読みし始めちゃってるけどぉ!
能天気な私の初撃は筆による殴打。フィノちゃんの小さき身体をGPS機能のような繊細さでピンポイントに捉え、テクニカルノックアウトさせちゃう――そんな妄想だったのにー。フィノちゃんったらステップ一つで軽々と避けちゃうんだから、もぉーシャイだな~。目も私より本に釘付けだし、きっと恥ずかしがってるんだね? うん、そうだね。大丈夫、心配しなくても辱めるような負け方はさせないから。あっ、でも縮こまって恥ずかしそうなフィノちゃんも良さげですけどぉーっ! マジ萌え1000%ですけどぉーっ!
んなこと考えていたら、視界が突如として一転し、白色の床が眼前に出現した。フィノちゃんに足元を掬われたみたいだった。正確には、突撃の勢いのまま通過していこうとした私に足を引っ掛け転ばせたらしい。
「なぬっ?!」
「戦い方が違うんだよ、狐火ちゃん。ほら考えてごらん。燃え盛る烈火の赤色をね」
ペンギンのごとく腹ばいで床を滑ってしまいそうになる前に、左脚で床を踏みしめる。振り向きざまに筆を横になぎ払った。空を裂き、筆の一閃が残像を作りながらフィノちゃんの横腹へと吸い込まれていく。痛かったらごめんね。あとで治療を施してあげる。ついでスリスリして痛いの痛いの飛ばしてあげるから。だからもうやられちゃっても良いん――ってうわぁっ!
「パワーだけじゃダメだよぉ? 得意の妄想はどうしたの?」
もしかして、片手だけで攻撃を受け止めたの?! こんな可愛げで小さな幼女にそんな怪力が?! 可愛くて、それでいて強いって……惹かれるね~! そんな可愛いフィノちゃんを痛めつけるのは心が痛むけど、不意打ち足蹴り喰らえっ! 容赦なく腹部狙いで! だけど、それも容易く回避された。
「ほら考えてごらん。全てを包み込む深海の蒼」
「考える前にまず動くのが私のスタイルだよ、フィノちゃん!」
こうなったら数撃ちゃ当たる戦法だ! 筆を適当乱雑に乱舞する。一方のフィノちゃんは身体をふらつかせるように全攻撃を避け捌いていく。
「命中率が低くて当たらないなら、考えることにしようよ。落雷のごとき迅速さの黄色の一閃を」
フィノちゃんは楽しげにそう呟く。そこでやっと何かに気がついて、私は筆を止めた。そうか……そうだったんだ。それに気がつけて、私は笑いがこみ上げてきた。
「お~? もしかして気づいた?」
「うんっ! おそらくね!」
私は筆を構える。うぉ~っ! 今なら絶対にいけるぞー! 萌えよ、私のコスモォ! そして私は駆け出した、そう、それは未来へと向けての第一歩だった。
「次回! 桜火炎乱! 散りゆく焔は儚く美しい」
「どうしたの、狐火ちゃん?」
「ううん、何でもない! さぁ、始めるよ! ここからが私の世界だよ!」
どうも、こんにちわ。
k本的にコミュ症ボッチで非リアな星野夜です。
今回の話は主人公VS商業人『フィノ』の前半です。戦いはここからデッドヒートしていきます――いえ、死人は出ません。
そして次回予告は狐火木ノ葉ちゃんが勝手にしちゃいました、すいません。
次回、桜火炎乱! 世界はここから始まる……。




