表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/123

第18話『駆け出し勇者たち』

「……? どうしたの、モタシラルバ?」

《忘れ物》

 白と黒を織り交ぜた色合いをした小鳥が、少女の肩に乗っかる。嘴には橄欖色のスカーフを加えていた。少女はそれを受け取って右手首に巻き付ける。

「さあ、今日も張り切って仕事だー!!」

 大きめのショルダーバッグを肩にかけ、少女は家を飛び出た。小鳥を肩に乗せて。




 被災から一ヶ月、隣町の支援もあり、南部の瓦礫は少しずつ撤去されつつあった。負傷者の処置も行き届き、被災の影響で家を失ったものたちは、隣町の仮設住宅へ移住した。

 今回発生したネイゲル族侵攻の件により、北門の防衛はより強固に。隣町から新たに門兵を充填。侵攻への対策を張った。

「新刊楽しみだって言ってたろ……馬鹿野郎がよ」

 エシラ山麓の森林、フリューゲル北門前。空気を椅子にして座りながら、読書をする門兵の姿があった。その横で、隣町から派遣された門兵は呆れた顔を向けていた。

「……何で空気椅子?」

「病み上がりでね、立ちっぱなしは疲れるだろう? それに、お前はかなりの実力者だと聞いているからな。気が楽でいいよ、隣町ニェドラーの門兵」

「……ん? 空気椅子の方が疲れるくね?」


 一方の私はと言うと、生活費も兼ねて集会所にてクエストを受注し、日々ダンジョン走破に精を出していた。言うまでもなく、私は狐火木ノ葉。一人暮らしで浮かれてたら異世界転移したので厨病激発しちゃったりする話というロングネームを読者に叩きつける作者によって生み出された主人公である。

 あれから特にトラブルなく、変哲のない異世界ライフを謳歌する私。今日もウィンディーネは可愛らしく、ルフは可愛らしく、その姉のノヴァも可愛らしい。あと、弟子のエシは特段何も言う事ないので割愛しておくが、被災から一ヶ月が過ぎた。一ヶ月が過ぎたのに……フィノは未だに目を覚まさない。

「おはよう、ルフ!」

「ああ、おはよう」

 フリューゲル観測所一室。普段はルフが寝泊まりに使っているその部屋。ベッド上にはフィノが寝かされている。ノヴァに頼み込み、ルフと同じく特別扱いでフィノを寝かさせてもらっていた。

 負傷から回復したウィンディーネの治癒魔法により、フィノの傷口自体は塞がったらしいのだが、未だに目を覚まさない為に全身は包帯ぐるぐる巻きのままである。

「まあー、まだ寝てますよねー……」

「まだ起きねぇな」

 フィノを観測所に移して以降、私は一日一回、この一室に訪れてフィノの容態確認をするのが日課になっていた。

 こうして観測所やルフに、フィノを任せているからこそ、私は安心してダンジョンに乗り込んで行ける。次、目を覚ます時までに実力を上げに上げまくって、フィノちゃんに守ってもらう立場じゃなく、自分がフィノちゃんを守ってあげられるようになっていたい。フィノの姿を見る度に決意が強くなる。

「また擦り傷が増えてんな、狐火」

 ルフはソファーで寝転がったまま、呆れたような視線を向けている。大きい怪我は特にないが、擦り傷程度は知らぬ内についてしまう。なぜだろうなぜかしら。子供の頃なんて気が付いた時には細長いカサブタができていた。俗に言う所の『かまいたち』である。

「どうやら私はイタチちゃんに好かれてるみたいで」

 むしろ嫌われているからではないだろうか、そんな事を一人心の内でツッコんで置いて、私は今日もダンジョン走破の旅に出るとする。

「所でさ、ルフ」

「んんー?」

「ウィンディーネ、見てない?」

 ここ最近は、エシと共にダンジョンに乗り込むばかりで、ウィンディーネとはあまり関わってなかった。エシは今日からしばらく、用事があるらしく空いてなかったので、ウィンディーネでも誘おうかと考えたわけだ。

「ん? 聞いてねぇの?」

「え? 何が?」

「あいつ、今は国外だぜ?」

「わっつ?!」

 全く聞いていない。ルフ曰く、数日前に突然、ウィンディーネはラブカラクという街に行くと言って旅立ったという。人間界外端に位置する街、ラブカラクは水都市と言われる程、水に関して有名らしい。飲水から魔法に至るまで、水の全てを網羅する街である。人間界外端という事もあり、フリューゲルからラブカラクまでは片道で二週間。行きに関しては皆、クルィーロ国首都ロークの唯一無二の技術、ワープホールを利用して時短をするのが基本らしい。ウィンディーネも今頃はワープホールでラブカラクに飛んでいる頃だろうと、ルフは説明した。

「なぜ私に何も言わぬのだ、ウィンディーネよぉお?!!!」

「…………嫌われてんじゃね?」

「やめろ! 言うなぁああああ!!!」

 ヒロインに嫌われる主人公がいるだろうか、いやいない。ウィンディーネは私の事が嫌いでは無い。そうだろう、そうに違いない。

「あれだ、お前に言うと絶対ついてくると思って言わなかったんだろ?」

 なるほど確かに。仕方ない、本日のダンジョン探索は休止とする。ルフに頼み込んでも私の事が嫌いらしく絶対について来てくれないし。

「俺、別にダンジョン走破とかどーでもいいからな」

 ノヴァでも誘おうかと考えるも、本業の観測士の仕事が忙しいから断られそうである。渋々、本日は暇潰しに街でも徘徊する事にした。

「方位磁針を忘れんなよ」

「迷子前提で話さないで貰えますかあ!!」




 そこは水都市と呼ばれていた。イツチゾク国、都市ラブカラク。大昔、活火山の噴火で形成された扇状地、その上に立つ街である。

 扇頂から流れる水は、街中に張り巡らされた水路を辿って住宅へ、常に新鮮な天然水が供給されている。上流から街を巡る水路の景観は美しく壮観で、観光スポットとしても有名だ。

 ラブカラクの天然水は各国にも重宝され、今日日、頻繁に輸出がなされている。

 扇頂部には配送機関が設置されており、独自のパイプライン輸送が確立。水属性の性質である状態変化を利用して配達物を液体化、パイプラインを通して蛇口から液体化した配達物を受け取れるようになっている。当然、住宅には必ず一つは、液体化した配達物を戻す専用の魔法器が設置されている。そうして、配達物を的確に配送できる仕組みがラブカラクにはある。その配達法は効率の良さが段違いで、長い歴史の中で完成した形であり、他国などが真似しようにもラブカラクのような独自の手法を真似ると逆にコストが跳ね上がるために、ラブカラクの独擅場となっている。

 総じてラブカラクは、水都市と呼ばれるようになったのだった。


 ラブカラク扇端部南門前、開かれた大扉を前にウィンディーネは立っていた。入口付近に設置されている管理室で入街の受付を済まし、門をくぐってラブカラクへと足を踏み入れる。ウィンディーネの他にも旅行者や業者、魔法車など、南門前は人々が行き交っていた。

 入って早々、扇頂から血管のように街を張り巡っている水路の光景が広がり、それは圧巻だった。ウィンディーネはその景色を前に、深呼吸を一度、そして背伸びをしてリラックスする。

「ふぅー……ただいま、ラブカラク」

 まずは何から始めようかと頭の中で整理するウィンディーネ。と、その前に突如、

「わぁああああああああああ!!! どいてええええええええ!!!!!」

 女性の大声がしたかと思うと、坂を転がって一人の人間が現れた。ウィンディーネは一歩身を引いて道を開けると、その人は勢いのままに、先ほどまで立っていた位置を転がって抜けると、延長線上の壁に思い切り激突して倒れた。

「っつぅーーー……出力ミスったあー!」

 そこには白髪の少女が転がっていた。大きめのショルダーバッグを掛けている。その様は配達員のように見える。

 と、その少女の頭に小さな小鳥が乗っかった。

《──》

「言うなれば、鳥の風忘れって所だね」

 少女は小鳥にそう話しかけると、パンパンと服についた砂埃を払って立ち上がった。

 その時、ウィンディーネはその少女と目線が合ってしまう。少女は前髪が長くて目は隠れているが、恐らく目が合ってしまった。咄嗟に視線を逸らすウィンディーネ。少女は不思議そうな顔をして、ウィンディーネに近寄ってきた。

「……やっぱり! ウィンディーネ! ウィンディーネだよね?! そうでしょ?!」

 目の前の見覚えのない少女は、ウィンディーネの名を吐いた。ウィンディーネは大焦りで記憶を掘り返す。恐らくは知り合いの人物を『こちらは忘れていました』なんて事になったら失礼極まれり。僅かに満たない酷薄な時間、脳に過度の負担をかけて記憶を掘り起こしているウィンディーネ。何せ、十年越しのラブカラクである。掘り起こすと出てきたタイムカプセルをこじ開け、ようやく目の前の正体に気づいた。

「も、もしかして……同じ職場の……」

「そう! ティア! ティア・スノウィズクロフだよ!」

 相手側から名乗ってくれたお陰で事故は間逃れたが、その正体は思い出した存在と一致した。十年の歳月で人は簡単に変わる。かつて同じ背丈だったティアは十年を経て成長し、身長は30センチも離されていた。そう、十年越しの再会だ。一見で気付けるはずがなかった。


「配達の仕事、あれからずっと続けてるんですか?」

「うん! 試行錯誤して素早く配達できるようになったのだ!」

 南門前の眺めの良い水路通り、ウィンディーネとティアは置かれていたベンチに座り、久々の再会に談笑をしていた。

「ウィンディーネって童顔? 僕の気の所為じゃないよね? 変わってないって言うか……」

「成長してないって言いたいんですか?」

 突然のじとっとした瞳と声に、ティアはまるで冷水を当てられたように縮み上がり、首を横に振って愛想笑いを浮かべた。

「あ、いやいや、そんな事言うわけないよ!! 顔も身長も変わってないけど、ウィンディーネは成長してるよ、多分!」

「むっ、ティアも少し身長が伸びただけじゃないですか」

 30センチを『少し』と形容する悲しき少女、ウィンディーネは頬を膨らませて妬む。

「へへっ、もうあと10センチは欲しかったかなあーーギャッ?!」

 ウィンディーネの気持ちなど露知らずか、お気楽に笑うティアに、ウィンディーネは八つ当たりで横腹を軽く小突いた。

《ティア、サボってる?》

「ちょっとくらい良いじゃん。久々の再会なんだからあー」

 ティアはウィンディーネではなく、肩に乗っている小鳥に向けて言葉を返した。小鳥は首を横に振って呆れているのが伝わる。

《程々にね》

「……? 声じゃない……遠感魔法とも違う……なんですか、この感じ?」

 ウィンディーネは恐らく小鳥から発せられている声ではない何かに、違和感を感じていた。遠感魔法のような、脳へと直接送り込む信号とも違う感覚。例えると、相手の思考がそのまま自分の思考に反映される感じだ。

「あ、紹介してなかった。この子はモタシラルバ。僕の波動『意思通達』で言葉を話せずとも会話ができるんだ。変な感覚でしょ?」

 ティアはそう語る。十年前のティアにはまだ波動が芽生えてなかったので、ウィンディーネはティアの波動を今、初めて経験した。

 波動『意思通達』 思考を脳へ伝達する波動。鳥であるモタシラルバには、意思通達を介する事で会話が可能になる。遠感魔法は言葉を脳に送るのに対し、意思通達は思考内容のみを送る。その為、言葉とは違い、脳内にスっと情報が入り込んで、理解するフェイズを飛ばして脳が既に理解した事となる。これが奇妙な感覚の正体だ。

「じゃあ、そろそろ仕事に戻るね!」

 ティアはベンチから立ち上がる。

「じゃあね」

「うん、また後でー!!」

 ティアは手をブンブンと振りながら、急ぎ足でどこかへとかけて行った。凄まじいスピードでかけて行く様に目を丸くして驚くウィンディーネ。良く見ると、足底部から霧のようなものを噴出し、加速している。ティアが言っていた試行錯誤の賜物か。

 そしてベンチで一人、ゆったりと流れる水流を眺めながら、これからどうするか算段を纏める。バッグからラブカラクのマップを取り出し、近場に目的の場所を見つけてそこを目指すと決めた。扇端部南門前通りの便利屋へ。




 さて、暇を潰しに街へ繰り出した私、狐火木ノ葉は、ふとバッグに眠り続けるアイテムについてを思い出した。それはエシと共にダンジョンに潜った際、ジェマイルから偶然残ったドロップアイテム、ジェムである。水滴を固めたように濁りない透明度の高い鉱石。希少性から高値で売買されているらしく、後で換金してエシと山分けしようなんて話をしていた。その後に色々があってバッグの底に転がったままであった。暇を持て余す主人公はどうせ暇だからと、ジェムの換金に便利屋へと向かうことにした。

 そして着くは東部地区、臨時便利屋。元は南部に店があったが被災により倒壊。東部地区に応急で新店舗が作られたとの事。扉を開いて中に入ると、臨時と言うだけあって、お粗末な内装と必要最低限の空間内に、所狭しと様々なアイテムがひしめいていた。そのアイテムに埋もれるように椅子が設置されて、そこに新聞を読み耽る男性店員がいた。

「しゃいませー……お、誰かと思えば英雄様々ではないか」

「あ、あの時の」

 被災で溢れかえった負傷者の面倒を見ていた便利屋店員、彼がそこにいた。

「見ての通り、物が散乱していて見苦しいが、どうせ暇なんだろ? ゆっくりしてな」

「いや、否定はしないけども!」

 私はバッグからジェムを取り出し、店員にそれを見せる。

「これ、換金とかできたりします?」

「ほぉー、これはこれはまた貴重なもんを」

 店員はジェムを受け取り、それを光に通しながら鑑定する。

「最低でも10はくだらないな」

「10円? うまい棒も買えんて」

「エン? どの世界の単位だ、それは? 品質は悪くない、50万オズが妥当だな」

 便利屋店員はそう言う。が、換金に関しては断られてしまった。

「こちらとしては喉が出るほど欲しい。欲しいが生憎、被災で手持ちがなくてな。暇なら隣町に行くのが良い」

「隣町?」

「隣町のニェドラーには鉱石類専門店がある。そこなら、しがない便利屋よりも高く買い取ってくれるだろう。ちょうど集会所に隣町の役人たちがいる。帰還に合わせて魔法車に乗せてもらったら良い。暇だろ?」

「いやまあ、否定はしないけども!」

 店員の提案に乗っかり、私は隣町ニェドラーへと向かう事とする。悲しいかな、暇は有り余っている。隣町観光と洒落こもうか。


 それから暇人はすぐさま集会所へ。ホールの席について雑談中の隣町役人たちへ、私は非常に申し訳なさを露骨に呈して話を割り、帰還に合わせて魔法車で隣町へ送ってくれるよう頼み込んだ。すると、堅苦しい雰囲気の役人たちは意外にもフランクに了承してくれて、その場はやんわりと和んだとさ。

 役人たちは昼頃に魔法車で帰還するらしく、私はそのタイミングでついでに乗せてもらう事に。


 そして昼。特にこれと言った込み入った話もあるわけも無いので、時間はあっという間に昼を帯びた。暇人は役人たちと共に魔法車へ。一度に複数人が乗車できる大型の魔法車。その魔法車に乗り、席に座る。周囲は役人たちがほとんどで、一人服装がラフ過ぎて空気読めない感が否めない。と、乗り込んで早々、同じ香りが漂う人物を見つける。

「……何してんの、エシ?」

「し、師匠?! 何してるんですか!?」

 そこに座るはエシ。全身カラフル金髪巨人絵師、説明終了。その派手さは嫌でもすぐに目に付いた。そりゃ、周囲にいるのは皆、フォーマルな服装の役人。エシも私と同じく浮いている。

 心細かったのでエシの横に座った。

「あれ、用事があるって言ってたのって?」

「ニェドラーに私用がありまして。……それより師匠、もしかしてデートですか?」

 真っ白になった。聞き間違いかと思ったがそうではないだろう。エシは私に好意がある、そういう事なのだろうか?

「え、なに、どういう意味?」

「え? いや、その……」

 なぜか気まずそうな顔で喉を詰まらせるエシ。チラチラと私の後ろへ目線を逸らしている。

「……?」

「師匠、念の為に確認ですが……なぜここにいるんですか?」

 そう言われて、前述を全述した。今回はジェムの換金がてら暇潰しに観光しよう、そう言った話。

「ちょうどいいから私用が終わったら、一緒に換金でも行こうよ!」

「あ、お二人で?」

 エシは当たり前の事を改めて訊ねる。何やら様子がおかしい。エシは私に好意がある、そういう事なのだろうか?

「……どした?」

「師匠、もう一度確認させてください。お一人で観光に行こうとしている……で合ってますよね?」

 何を改めて確認されているのだろうか。ひょっとするとエシは、一人観光に向かう私がとても哀れで見ていられない、お友達ゼロ人の悲しい奴だ、そう思っているのかもしれない。それか、自分を観光に誘わなかった事に怒りを覚えているのかもしれない。

「せっかくだからエシ、一緒に観光でも行くかい?」

「……お邪魔になりませんか?」

 エシは極端に声を抑え、囁き声で私へと訊ねた。

「今更何を言うのかね、エシくん。私と一つ屋根の下で寝た事を忘れたのかい?」

「そ、そんな勘違いされかねない発言しないでくださいよ、師匠!」

 何を慌てふためいているのか。意外とエシは純粋なのかもしれない。推定が過ぎて凡そが大方を占めている。

「……師匠、ひょっとしてですが、今はお一人ですか?」

「え、なに、どういう意味?!」

 ひやりと背中に冷たいものが走る。もしかして、幽霊の類が私に憑いているのか、そうなのか?! そう、何を隠さぬ私、狐火木ノ葉はいい歳して幽霊が苦手である。ちょっと心霊番組を見たらもう、夜間のトイレはエベレスト登山、風呂は沖ノ鳥島だった。

「では、後ろの方は偶然ですか?」

 声を抑えて、エシはそう聞く。私は生唾を飲み込み、じわりじわりと後ろを振り返ると、そこには役人たちが席についている姿、と私の背後に目深にフードを被った人物が座っているのが目に入った。背後の人物は、振り返った私に気付いて咄嗟に顔を逸らす。そして、私は事を察した。

 一旦席を立つと、背後の人物の隣に無理やり座り込む。フードを被った人物は慌てて横にスライドし、若干距離を取った。

「な、なんs……何でしょうか?」

 呂律が回らない言葉は女声。車窓へ顔を逸らしている。核心でも突いてみる事にした。

「やあやあ、こんにちは。お仕事は順調ですか?」

「あー……順調っス」

「隣町から大変ですよねえ」

「はは、そ、そうっスねえー」

「私はこれから隣町に観光でも行こうかと思ってましてねー。空は晴れ晴れ観光日和この上ないですわ。所であんさん、今日はお休みですか?」

「そ、そうですけども?」

「……へえ、お仕事中にお休みするんですねえ! 随分と器用な役人だこと」

「あっ、い、いや、それはっスね、その」

 明らかに動揺し始めるフードの女性。もう、その声と言葉遣いにはフードじゃ隠しきれない個性が滲んでいる。

「次は防水性能を重視しないと。じゃないと、衣を着ても浸透しちゃって意味ないからね、レヴィアちゃん?」

「あ、はははぁー……」

 私は目深に被っているフードを勝手に下ろした。そこには、深緑のセミロングをした女性の姿。顔を赤く染めてモジモジする彼女はフリューゲル受付嬢、レヴィア。

「で、何してるの、レヴィアちゃん? 受付は?」

 聞くと、どうやら集会所にて私が隣町の役人に話をしている所を、受付カウンターから見ていたらしく、後輩に受付をバトンパスしてこっそりとついてきたとの事。つまり仕事をばっくれてストーキングしている変態さんだと言う事だ。

「うう……そ、それは否定しないっスけど……」

「じゃ、一緒に行こっか、レヴィアちゃん!」

「いいんスか?!!」

 しょぼくれていたレヴィアは私の誘いで一気に目を輝かせた。私としても、やはり一人観光は寂しいものがあるし、何より可愛い子ちゃん歓迎である。結局この世はルッキズムなのだろうか。

 かくして私の隣町観光に仲間が編成され、賑やかになった所で魔法車は隣町へと向けて発進した。フリューゲルの東門をくぐって山中へ。隣町と言えど距離があるらしく、到着頃には日が沈んでいるだろうと役人は言っていた。その間、私は隣町に着いてからの計画を頭に浮かべてワクワクしながら、気付かぬうちに眠りについていた。それを良い事にレヴィアちゃんに寄りかかっておく。いや、不可抗力、不可抗力ですから! レヴィアは満更でも無かったのか、それを受け入れていた。

 魔法車は進む。まだ見ぬ地、隣町ニェドラーへ。

 どうも、万年ヒキニート絶賛糖尿病予備軍スタメン落ち、星野夜です。11月の寒気に歓喜しながらカフェオレがキンキンに冷えて飲み損ないます今日この頃、僕は今、何の話をしているのだろうか。

 さて、クリスマスが背後に迫り来る中、更なる後ろにスタンバっている元日が末恐ろしい。何なんだろうか、クリスマスが終わって大晦日も終わったその後に来る、あのスローリーで憂鬱な時間は。そう、元日……冬休みは素晴らしいが、元日からのあの、なんか、こう、なんとも言えない暇の空気があまり好きじゃない。とか言いつつ、引きこもりやすくて満更じゃなかったりする。どうせ来年の三が日はヒキニート確定申告だから。


 そしてまたもスローリーな執筆でお送りします、第三章後編。後編とか言ってますが、結局尺調整が下手な当作者の事。これはまだ中編かもしれない。なんなら起承転結の承かもしれない。真相は僕のみぞ知る訳ですが。


 今年のクリスマスも部屋にこもって一人パーティーしながらダラダラするに限る。腐った生活だが、何だかんだで悪かあないんですよ、これが。そう、これが引きこもりの末路である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ