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尾張名古屋時代4

権座組の若衆、若頭を集めて権座は、吉次の姉の話しをした。そして、吉次と亀蔵が忍びの者に監視されていることも話しをした。吉次の姉の話しをした時点では、正義感の強い者達であるので、直ぐにでも阿片に侵された女郎達を助けに行きそうな雰囲気だったが、忍びの者が監視していると聞いて、その熱気は直ぐに凍り付いた。得体の知れない者達が蠢いている未知への恐怖である。

その上で、これまで通り廓へ行って遊んでくる事を止めないとした。ただ、その時に、松風での捕り物を話題にして女郎達の言った言葉を覚えておいて、報告することを求めた。

血気盛んな連中であるので、馴染みの女郎と遊ぶ事に躊躇することはなかった。

それから数日間の間に8件の報告が寄せられ、毎日、夕方に遊び人の風体で亀蔵がやってきては、その報告を一言残らず書き留めて帰っていく。可哀想な人の不幸を心配そうな声で噂して、自らを慰めるのは女性の得意なことで、布団の中で裸で話す内容は、文字通り包み隠さず話が聞けた。

更に数日の報告の後、廓で大規模の捕り物が行われ、廃人同様の女郎達が座敷牢から救い出されたという噂話が瞬く間に広がっていった。

噂が広まった日も、亀蔵は権座組にやってきた。吉次も同行していた。亀蔵は、いつもの遊び人姿、吉次は、かつての人足頭の姿だった。

「おやぁ、亀蔵、昨日、捕り物は終わったんじゃないのか。制服で来たって構わないんだぜ。吉次も、なんだい、その恰好は。」店番をしていた辰吉が、二人をからかう様に言った。

だが、二人は至って真面目な顔で、「親分居るかい。文治さんも。」と、ぼそりと言っただけだった。

只ならぬ気配に、辰吉の顔から笑みが消えた。そして、奥へ権座と文治を探しに行った。

権座は寄合で不在であったので、文治だけが出てきた。

「亀蔵さん、吉次さん、どうなさいましたか。お二方がお揃いという事は、また、お困りの事が有りそうですね。御話しは、御座敷で伺った方が良さそうですね。権座さんは、生憎ご不在ですが、お上がりください。」

権座が戻ったら座敷へ来てもらう様に辰吉に告げ、文治は二人を連れて座敷へ入っていった。

「さて、亀蔵さん、吉次さん、御話しを伺いましょう。」文治は二人を前にして正座し言った。

「文治さん。聞いてるとは思うが、廓の巣窟を急襲し、阿片で女郎達を縛り付けている奴らを捕縛した。親玉は清国の蘇という奴だった。だが、こいつは組織の下っ端だということが分かった。こんな格好で来ているのは、未だ監視が居なくなっていない、いや、監視が強くなっている。我が国の阿片の組織の大物は、神戸と浦賀、いや、横浜に分かれているという事らしい。」

と、ここまで話しをした時に、権座が帰ってきた。「文さん、居るか。」

「おう、亀蔵、吉次。遅くなったな。」3人が、囲碁をする様な距離で話しをしている状況を見て、権座も只ならぬ状況と感じ取った。

吉次が文治に話した内容を繰り返し、その上で、もう暫く廓の女郎達の話しを聞いて集める要望をした。

「おう、そんな事ならお安い御用だぜ。今なら、あんたらの大捕り物についての噂で持切りだからな。」権座は、二つ返事で了承した。

「吉次さん、今日、お二人でわざわざいらっしゃったのは、それだけでは無いのではありませんか。」文治は、継続だけなら亀蔵一人で十分なのに、吉次も同行してきたことに探りを入れた。

「文治さんには敵わないなあ。ご推察通りで、もう一つお願いがあります。親分の顔が広い所を使って、私を大阪神戸の人足紹介業に紹介して欲しいのです。先ずは、神戸の警察と連携をして、阿片の流通を止めたいと考えているのです。」吉次は、実の姉が阿片の犠牲者となったことで、阿片撲滅のためなら何でもするという強い気概で取り組んでいることが分かる。

「吉次よ。大阪の桂を紹介して、そこで人足頭をさせることはできる。だが、おめえ、東長官にちゃんと仁義を切っているのか。今日も、東と一緒だったが、そんな話しは一切出てこなかったぞ。」

「はい、未だ報告していません。そこで、親分にお願いなのですが、長官を説得願えないでしょうか。と言うのは、全く違う管区へ行っての捜査ですので、自分は大阪の管区へ移動したいと考えています。こちらで得た内容を元に大阪管区での捜査に対応できるのではないかと考えているからです。来週には大阪管区へ移動したいと考えています。」

「おいおい、えらい急な話だな。それで、亀蔵はどうするんだ。」権座は亀蔵の今後について尋ねた。

「へい、自分は、残党対応ということで、こちらに残って、何らかの新しい情報が入ったら吉次さんへ伝達する役目を果たすつもりです。」

「吉次さん、名古屋で検挙された情報で、神戸の組織が地下に潜ってしまうことを恐れていらっしゃる様ですね。私は、松風に勤めていましたが、全く、阿片のことについては気付きませんでした。大阪は海運が名古屋よりも広い範囲で行われていますので、容易には対象となる海運商社を見つけることができないのではありませんか。」文治が懸念事項を口にした。

「文治さん、ご懸念される内容は御もっともです。松風と大阪の海運で取引のあった商社は、確かに7社あります。ですが、阿片を荷の中に入れて運ぶ様なことができる商社は、1社だけです。私は、そこの船長を知っていますので、潜り込むことは難しくありません。」

権座は、万端、準備が整っている吉次の話しを聞いて、東長官への口利きを約束した。そして、決めた事を行動に移すのに躊躇しないのが権座である。直ぐに、長官に電話をして、これから会う約束を取り付け、出掛けて行った。

翌朝、吉次は大阪へ向けて旅立っていった。


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