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東京時代25

議員である彼等には、国益を上げる使命があるので、議会が始まり、これに出席する義務を負っている。いつ迄も、個人的な懸案事項である文治のことに構ってはいられない。


文治は、居ないが、7名の貴族院の者は、議員立法や、その関連する分野に対する予算配分追加・見直しを提案していき、その理由を誰もが納得する内容での説明を行った。

理路整然と要求内容を述べ、それらの案に対して、不利益を被る可能性やその対象者についても提案の説明時に併せて述べ、対処をも提案した。したがって、誰も反論や問題の指摘をできる者は無かった。


血税を私物化していた議員から不利益を被る団体に対して、補償の要求は有ったが、正論を通し、逆に成果を上げていない団体の解散を要求する事になった。既存団体の目的と成果、それに費やした国費を見れば、何をかいわんやである。


そうした提案が、貴族院議員の7名から、色々な分野で同じように展開されたのであるから、議会は大混乱になった。そして、結果として、提案された全ての項目で、7名の提案は、議会の承認を得る事となる。

議会での討議では、藤神家で討議された内容に比べれば、他の議員の追及など、二段階も三段階も温いものであったのである。


7名は、議会の承認を得る事など当然で、その先に在るものを見ていた。

英仏米の強豪に対し、小さな島国を守り、そして、対等に意見を言える国にする事である。


先代の藤神と共に、緬国、羅国、越国そして、清国を旅した藤神が、体験し、見てきた酷い状態を7名は共有していたので、それに備えることを考えていた。


文治は、そうした彼らに、緬国や越国の人達も解放される協力をすべきだと、言っていた。

だが、現状は、自国を守り抜く事さえも難しいのであるから、先ず、守るに足りる状況にすることが優先される。

文治は、それでも、仁左衛門公の羅国での貢献を例に、同時進行を求めた。

その要求には、7名の誰も約束をする事が無かった。

ただ、7名全員が、文治の気持ちを受け取っていた事は、確かだった。


文治が居なくなって、一週間が過ぎ、自らが課した議員での役目を果たしていく7名が、實小路家に集まっていた。


「どうだ、白井。文治君の手掛かりは掴めたか。」

「だめだ。吉次とも連絡が取れぬ。吉次なら何か知っておると思うのだがな。」

實小路の問い掛けに、白井の答えは残念な結果でしかなかった。


「うちの梅吉が目覚めた。」藤神は、希望の一言を口にした。

全員が、藤神を見て、次の言葉を待った。

「だが、未だ、喋られる状態では無い。冬美は、それでも、喜んでおったがな。医師が言うには、明日位には話ができる様になるじゃろうということだ。」

話が聞けていないことに、全員が落胆したが、明日には、手掛かりが出に入りそうだという希望は感じていた。


「それでな。」藤神は続けた。

「奥が、それとなく各大使館に文治君の事を探らせたんだ。英仏の大使館の連中は全く感知しておらん様だったらしい。だがな、露国は、何か引っ掛かる所が有る様だ。」

「何だと。露国が関係するのか。」

露国に知り合いが居る佐々が、驚いた様に言った。

「まあ、待て。最後まで話を聞け。」大声の佐々を制して、實小路は藤神を促した。

「うむ。文治君とは関係が無いのだがな、樺太に進行しようとしておる様だ。」

「樺太には、通信施設を設けたばかりではないか。」

實小路は、先日のアラスカとの通信に関して、更に情報を蓄えていたので、直ぐに反応した。

「そうすると、米国よりも先に露国との交渉が必要となるな。」

實小路は、気を取り直し、藤神に向かって渉外の対応を求めた。


「露国の情報なら、自分も持っておるぞ。」白井が言った。

「ウラジオストックに軍艦を数隻集めておる。南進をするつもりであると思われる。」

白井の情報に、他の者達は、色めき立った。

「あ奴等、本気だな。何とかせねばならん。」藤神は腕を組んで白井を見た。


「白井よ。お主、露国に知り合いが居たな。」

「いかにも。だが、単なる一介の情報通であって、軍部とは無関係だぞ。」

「その方が、好都合だ。少々予算を、その者に、くれてやろうというのは、どうだ。」

實小路は策略を練りながら白井の知り合いを使う事を提案していた。

「おい、あいつには、家族が居るんだから、無茶させるなよ。」

白井は、實小路が考えている事に薄々勘付いて、知り合いの者に不利益が生じる事を恐れた。

「何も危ない事を頼むのでは無い。ウラジオに店を持ってもらうだけだ。」

「阿片巣窟にでもするつもりか。」

「それでは英国と同じで、人を畜生にしてしまうではないか。そんな事はせぬ。朝鮮半島からの美味い物を提供する食堂をやってもらうだけだ。」

「南進先を朝鮮半島に向けさせるという事か。」

「陸路の南進に軍力を割いて、海軍の力を減らすという事だ。食堂で儲けさせるだけだから、お主の知り合いには迷惑は掛けないと思うが、どうだ。」

「そんなに上手くいくのか。」

「無論、それだけでは、目論見が叶う筈も無い。情報操作じゃよ。軍部上層部に対してな。」

「ふむ。まあ、實小路が言うのだから、勝算は有るのだろう。分かった、ウラジオに店を持たせる様に説得しよう。」

白井は、實小路の提案を受け入れた。


「文治君が、露国に拐されたという事も有り得るのかね。」

黙って聞いていた五陵が口を開いた。

「いや、それは無いだろう。確かに、露国の諜報活動は目に余るものが有るが、拐しの対象として、文治君では得る物が少ないと判断する筈だ。未だ、田舎から出てきて3週間なのだから。まあ、実質的には我々の討論を全て仕切っているので、我々としては、重要な人物なのだがな。」

五陵の疑問に實小路は、経験を元に所見を述べた。


「果たして、何者なのだろう。梅吉の回復が唯一の手掛かりとなることは、確かだ。」

その後、文治の事について暫く話をして解散となった。


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