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ワシントン42

議員達の訪問結果で、日本から技術研修に来させる者の人選をさせる連絡をする必要が毎日発生する事になった。

その内容に、高村は青くなった。

電信は、高村自身を含めて、得意な職員が居ない。したがって、言い訳を高村がすることになった。


「済みません。本日、日本からの電信を聞き取るのに、10回も再信してもらいました。今後、電信の量が増えますと、我々の通常業務や、皆さんへの対応ですとか、帰国手配ですとかいった業務に支障をきたす可能性があります。

帰国前日の結果で、日本へ電信をしたとしても、日本からの返信は、皆さんへお知らせする事はできません。

明日からの内容につきましては、皆さんが帰国された後に、国内で指示をしていただく訳には参りませんでしょうか。」

「あら、高村さん。電信のお手伝いでしたら、ベンに来てもらいましょうか。」

明菜は、高村が苦慮している様子に、提案をした。


「明菜君。ベンとは、あのベンか。」

五陵が、ベンという名に反応して訊いた。

「そうよ。五陵さんが連れてきた子。彼も、いい歳だから、子って訳じゃないけど。」

「おお、彼か。だが、確か、ユピクに戻ったのではないか。」

藤神が、懐かしそうな顔で言った。

「そうね。ユピクに戻ったのだけれど、アラスカのシトカ市の連中が、酷い仕打ちをするということで、苦労していたらしいの。

中央から来た役人が、役に立たないので、彼がワシントンに直接、訴えに来たところで、うちの人と会ったの。」


「確かに、ベンなら、電信を任せられるな。だが、彼がワシントンに来た用件は、解決したのかね。」

五陵は、ベンの技量を知っていて、信頼をしている様子だったが、ベンの地元の状況を気にした。

「勿論。正ちゃんが、国務省の関係者と掛け合って、強い金採掘権をハリスとジュノーに与えたので、シトカの連中は青くなって、ユピクの人達への対応が変わったという事なの。

詳しい話は聞かないでね。知らないから。」

「そうか。正太郎の対応に、ベン君が信頼を高めたという事だな。よし分かった。

高村、ベンに手伝ってもらえ。電文送信と日本からの受信から解放されるぞ、良いな。

明菜さん、ベンの手配を頼む。」

實小路は、早々に結論を出した。


月曜日、予定通りに全員の訪問が始まった。

その日の夕方、高村の下には10件程の電文指示が届いた。

その後、毎日、何件かの電文指示が有り、日本からの電文が届いていた。


全員が、一堂に会することが無かった。したがって、日本からの電文は、都度、報告される事になった。

報告の結果で、判断結果を伝える指示も発生した。

伝える対象は、日本だけでなく、他の議員への伝達も含まれた。


土曜の夜は、三々五々、電文指示をするために公館へ訪れてきたが、翌日が日曜日なので、次の目的地へ行く準備が不要であり、公館の会議室で他の者達を待つ対応となった。


公館に勤める者は、日本人が5名と現地の直接手伝いの者が3名程居るが、直接手伝いの者達が心配する程に、職員達は疲れ果てていた。

公館の通常業務は、日本への渡航申請対応処理や日本人の滞在者の管理、西海岸等、在米の公館との連絡等が主な業務で、緩い日々を送っていた。今年は、大統領選挙に向けて、正太郎や明菜が様々な要求をしてきて、十分に忙しい日々となっていた。

更に、實小路以下の議員に、多くの業務を指示され、日本との通信を行う様になって、夜昼逆転している事も有って、文字通り寝る間も惜しんで対処しているのである。


公館の会議室には、軽食が用意してあって、公館に着いた議員達から軽食を頬張った。

職員達は、日本への電文を暗号化する対応等、慎重な対応が必要となっているので、議員達は会議室で大人しくしている。


「姉尾。欧州と米国の差を、どう見るかね。」

藤神は、姉尾の印象を尋ねた。

「ああ、大いに違う所が幾つか有る。先ず、君主が居ないというのは、こんなにも自由なものなのだという事を実感できた。」

「ほう。仏国や独国も、今は、君主が居らん。君主が、そんなに重しとなっておるのか。」

藤神は、姉尾の意図を測れずに訊いた。

「あっ、いや、そうでは無く、階級から解放されているということだ。

仏国は、未だ、古い階級が残っておるし、独国も領主が世襲で、土地を治めている。それに対して、米国は広大な土地で、志が有れば、そうした階級など無視して、独自の対応が可能だ。」

「ふむ。そう言う意味ならば、確かに、そうであるな。文治君に適した環境やも知れん。」

藤神は、文治の顔を思い浮かべた。

「藤神。そんな事を文治君に言ったら、いつもの調子で、謙遜してくるだろうな。」

姉尾も文治を思い浮かべ、二人して笑った。


順次、会議室に人が増え、夕闇が辺りを包み、会議室の小さな窓を開けても、煙草の煙が籠ってしまう状態になった頃、最後の實小路、佐々、文治が到着した。

「さて、これで全員が揃った。」

藤神は、待ちくたびれた様子で、何杯目かの珈琲を飲み干して、言った。


文治は、高村に紙を渡し、「ご苦労様です。」と、一言添えた。

實小路、佐々は、取敢えずの珈琲を注ぎ、パンにチーズを挟んで、椅子に座った。

文治は、湯飲みに茶葉と湯を注ぎ、パンにメイプルシロップを塗って、椅子に座った。


「今日で終わりだが、未だ、訪れたい所は少なくない。それでも、明日は帰国の途に就かなくてはならん。

出発前に、日本で調べた限りでは、2週間というのは、予備日を計算しても、数日を観光に充てられる見積もりだったが、現地に来てみると、日本に伝わっておらぬ情報が、余りにも多い事が分った。

今回の我々の情報が、次の訪問者に正しく伝えられる様にしなくてはならん。この事は、皆も痛感していると思う。

文治君が記録してくれた内容で、大半の情報が網羅されるとは思うが、我々議員も、自らの言葉で報告をまとめる事としよう。

共著では無く、自らの報告を、各自が綴ってくれ。」

實小路は、パンを珈琲で流し込んでから、全員に向けて指示をした。

誰も、異論を唱える事は無かった。


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