ワシントン37
「エミー。ここが、明日から通う学校よ。今日は、先生達が明日の準備で忙しから、あまり邪魔しちゃ駄目よ。」
實小路と藤神は、両方から恵美子の手を握り、その前を明菜が歩いている。
「うん。分かった。」
「明菜。今から、どこへ行くのかね。」
藤神が尋ねた。
「あっ、そうか。言ってなかったね。学校の理事長が来ているらしいから、挨拶よ。」
「理事長か。どんな人なのかね。」
「そうねえ、何だかの社長を退いて、慈善事業を始めた人らしい。私も会った事が無いので、良く知らないのだけど。」
「何だ。仕事では、事細かく調べるのに、私的な事は、いい加減だな。」
藤神は、娘の性格を知った上で、笑いながら言った。
「スタンダードオイルの社長だった人で、ロックフェラーさんよ。」
二人の会話に応えて、恵美子が言った。
「おう。ロックフェラー氏か。有名な人だな。日本でも話題になった事がある。」
實小路は、恵美子に向かって話した。
「ふーん。日本でも有名なんだ。じゃあ、賢い人なんだね。」
恵美子が参考時の問い掛けた。
「恐らく、賢いのだろうな。石油を米国中に売る商売で、お金を託せん稼いだらしい。そのお金を使って自船事業を始めたという事だからね。」
「ふうん、そうなんだ。慈善事業をするために、お金を沢山稼いだんだね。」
「さあ、それは分からないな。これから、その人に会えるらしいから、訊いてみたら良いと思うよ。」
「うん。じゃあ、そうする。」
前を歩く明菜は、苦笑いしながら聞いていた。この調子で、明日から世話になる教師達に迷惑を掛けてしまうのではないかと、少々、心配になってくる。
先ず、職員室に行き、校長の案内で、理事長室を訪れた。
理事長室の奥に置かれた大きな机で、ロックフェラーは書類を前にしていた。
校長と4人が入っていくと、ロックフェラーは笑みを浮かべ応接用の椅子の所へ歩み寄ってきた。
「こんにちは、ロックフェラーさん。」
最初に挨拶をしたのは、恵美子だった。
それを聞いて、ロックフェラーは破顔し、しゃがんで恵美子と同じ顔の高さになって答えた。
「はい、こんにちは。えっと、君の名は・・・」
「恵美子です。エミーと呼んでください。明日、この学校に入学します。」
ロックフェラーは、恵美子の対応に少し驚いた顔をして、分ったといった顔になって、頷いた。
「そうか。今日の来客予定の中に有ったな。日本の国務省職員の子がエミーだね。
そうすると、そちらが・・・」
「はい。母の明菜です。それと、御爺様と藤神の御爺様です。」
恵美子は、ロックフェラーの問い掛けより早く紹介をした。
「ロックフェラー殿、初めまして。日本で議員をしておる實小路と申す。今日は、お目に掛かれて良かった。」」
「同じく、議員をしておる藤神と申す。恵美子の祖父で、明菜の父です。」
實小路と藤神は、自己紹介をした。
「實小路・・・。ショーンの家族の方々ですかな。成程、この令嬢が大人顔負けの言動をするのは、血筋という訳ですな。
おい、アルベルト。疑って済まなかった。この子の入学を許可した君の判断は正しい。予定通りに進めてくれ。」
ロックフェラーは、校長のアルベルトに向かって指示をした。
「皆さん。申し訳ない。飛び級で入学を許可した子が居るというアルベルトの報告を見逃していて、今日の面接を設定してもらったのです。」
それから、暫くは、学校の方針や教育内容等が紹介された。教育に関する知見が高い實小路は、鋭い質問をアルベルトにして、何度も返答に困らせた。
「ロックフェラーさん。一つ質問をしても良いですか。」
ロックフェラーの正面に座っている恵美子が尋ねた。
「何だね。」
ロックフェラーは、子供相手の態度で恵美子に接した。
「ロックフェラーさんは、お金持ちで、稼いだお金を慈善活動に使われていると聞いています。」
「う、うん。」
ロックフェラーは突然の話題に思わず構えた。
「慈善活動をするために、お金を稼いだのですか。それとも、お金を稼いだから慈善活動をすることにしたのですか。どちらでしょうか。」
「うっ。」
ロックフェラーは、思いも因らない質問に答えを詰まらせた。
暫く、黙り、それから、笑顔になって答えた。
「会社というのは、利益を生む事で存続ができる。利益は、会社で働く人達に給料として支払われ、そして、会社を大きくするために使われる。大きな会社は、税金を多く払って、地域の人達に貢献することになる。
大きな会社は、その他の地域への貢献を広げるために、慈善活動をすることになるのだよ。
会社が沢山給料を出せば、働く人達に食事や着る物に心配が無くなって、余裕ができる。
イエスは、隣人に施しをしなさいと言っていて、皆は、そうしようとするが、食べ物の心配が有っては、施しができないよね。
そうならない様にしているのだよ。」
ロックフェラーは、自分の答えに満足気だった。
「ふうん。じゃあ、沢山お金を稼いだから慈善活動をしているんだね。分かりました。」
恵美子は、結論を簡潔に言ってのけた。
校長のアルベルトは勿論、ロックフェラーも答えに窮した。
「エミー。あんまり大人を困らせないの。ロックフェラーさん、御免なさいね。ショーンと話をする事が多くて、あの人と同じ様な事を言うものですから、大人は困ってしまう事が少なくないのですよ。
でも、子供同士の時は、普通に話をしてますから、明日からの学校生活は大丈夫だと思います。」
明菜は、口をつぐんでしまったロックフェラーに謝った。
實小路も藤神も苦笑するばかりだった。
「今日のところは、帰ってもらって結構です。有難うございました。」
ようやく、アルベルトは口を開き、恵美子の質問と結論に動揺を隠せないままでいた。
「さあ、恵美子ちゃん。お昼を食べに行こうか。」
藤神は、恵美子を急かす様に声を掛けた。
恵美子が、腰を上げた所で、ロックフェラーが思い出したとばかりに言った。
「おっと、忘れる所だった。實小路殿。それと、藤神殿。明日の夕方は空いているかね。」
實小路と藤神は、振り返り、そして、明菜を見た。
「ちょっと待って。」
明菜は、鞄から手帳を取り出して、栞の頁を広げた。
「明日は、文治さん達が戻ってきて、お義父さん達は全員で会議という事になっているわね。多分夕方には空く筈。
ただ、水曜日は、オウルさん達とニューヨークに行く事になっているから、泊まりは駄目よ。」
實小路は、ロックフェラーを見て言った。
「お聞きの通りだ。」
「全員で会議と言われたが、全員というと、何名で米国に来られているのかね。」
ロックフェラーは、明菜の言葉を聞き逃さなかった。
「我々、議員団は、文治君を入れて8名だ。もしかして、全員を招待するつもりでいるのかね。」
「ああ、構わんよ。こちらも、何人かに声を掛けることにしよう。」
ロックフェラーは、人数を訊いた手前、引き下がることもできず、全員を招待すると答えた。
「恵美子ね。御爺様の所で食べたアップルパイが食べたい。とても美味しかったので、忘れられない。」
藤神と手をつないで理事長室を出ながら、恵美子は實小路を向いて言った。
「うーん。米国のアップルパイとは、確かに違う味だったよね。今度、日本へ行った時に、料理長の由井さんに作り方を聞いておくからね。それに、未だ、林檎の季節じゃないからなあ。アップルパイを食べるのは難しいと思うな。」
明菜は、恵美子の我が儘を理由を言って止めた。
「そうかあ。そういえば、林檎は冬の果物だったね。分かった。じゃあ、スイートポテトは、食べられるよね。市場で売っているから。」
「よし。御爺が昼食で出してもらうようにしよう。明菜さん。スイートポテトを出してくれる店に行こう。」
實小路は、恵美子に応えたくて仕方ないといった表情をして、明菜に注文を出した。




