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ワシントン36

ケロッグ兄弟と姉尾、白井、佐々が会食の場に到着した。

ケロッグ4兄弟の一人が欠けている。月曜日なので、工場が稼働し、来客の予定も有って、一番上のトーマスは来ていない。


「チャーリー。今日は、日本人議員二人を連れてきた。白井と佐々だ。」

「初めまして、チャーリーです。ここに居ますのは、三男のサンダースと末っ子のカラルです。」

紹介され、各々が握手をした。


「今日は、昼食に誘ってもらって、有難う。先日同行の五陵は別の訪問先に行って、同席できない。五陵は、本当に残念がっていた。」

姉尾の紹介に、チャーリーもトーマスが来ていない事を告げた。


「チャーリー。ところで、今日は、ワシントンへ売り込みかい。」

佐々は、旧知の様に話し掛けた。

佐々は、日曜日の午後に十分な情報共有をしているので、4兄弟を知人の様に感じている。だが、ケロッグ達にとっては、初見である。

従って、佐々の妙に馴れ馴れしい態度に戸惑った様子である。

そこへ、飲み物が運ばれてきて、変な雰囲気になる事は避けられた。


姉尾は、慌てて、ケロッグ達に説明をした。ワシントンに戻ってきてから、佐々や白井に、ケロッグの工場を見学した事やその後の面談内容等、色々な事を話し、十分な情報共有を行った事である。

「あっ、そうか。いやあ、済まない。初見なのに、最初から突っ込んだ話をしてしまったな。」

佐々は、気付いて謝った。


チャーリーとサンダースは、納得し頷いた。

カラルは、初めから気にしていなかった様で、皆のグラスに麦酒を注いでいる。

「さあ、皆。今日の機会を祝おう。」

カラルは、注ぎ終わると、声を掛けた。


一口、酒を飲んで、グラスを置いてから、最初に話し始めたのはチャールズだった。

「今日は、午前中に国道整備の陳情に行ってきたのだよ。

今は、大陸横断が3本しかない。鉄道整備のついでに作った様な状況で、車で横断するには燃料の補給場所も少ない。

フォードが売り出した廉価版の車は石油を使うが、石油を国道の各所で補給できる様に各州へ働き掛けて欲しいといった内容だ。」


「おっ、そうすると、カラル殿。大型の荷物運搬車を作らせる目処が立ったのですかな。」

佐々の発言に、カラルは、驚いた様に佐々の顔を見た。

佐々は、微笑し、フォードで大声を上げていたカラルとすれ違った事を話した。


「ありゃあ。あん時の工場に居た東洋人だったのか。」

カラルが大きな声で驚いてみせた。

「おお、本当に大きな声だな。これなら、騒々しい工場の中でも声が通る。」

白井は、苦笑気味に言った。

「おっと、声が大きかったですか。それは、失礼。

まあ、未だ、大型車を作ってもらえると決まった訳ではないんだ。

フォードが作らないのだったら、他の会社で作ってもらう交渉をしてを回ってみたんだ。

その結果、車体の設計ができて、大型車を作る事に興味を持った奴が見つかった。でも、小さな工場なので、技術は有るが、資金が無い。だから、そいつに資金を出してやる事にしたんだ。

ただ、発動機の設計に苦労しているという事で、その設計ができる者を探している最中なんだ。」

カラルは、短期間で決めた事を自慢話の様に語った。


「そうか。車の設計というのは、全てを一人で行うのが難しいのだな。発動機は、フォードのガーリンが技術を持っていると言っていたが、彼にはフォードでの役職が有るから、頼むのは困難だな。」

佐々は、感想を口にした。

「そうだな。手に職を持って、それなりの役職に就いていれば、好んで町工場に下る事は、あるまい。」

白井は、佐々に同感した。


「何。ガーリンは発動機の設計ができるのか。それなら、奴を引っ張った方が良いな。」

カラルは、うそぶいて、麦酒を一気に空けた。

「サン兄。悪いけど、金を都合してくれるかな。」

カラルは、サンダースに向かって言った。

「カラル。金を積むだけで、そのダーリンは、話に乗ってくれるのか。」

サンダースは、カラルに釘を刺した。佐々の発言も有って、カラルの発案に慎重になっている。


「ガーリンは、カラルの注文に応えて、大型の発動機を作ってみたいと思っている様だったな。」

佐々は、先程は、困難だと言ったばかりなのに、カラルの引き抜き話を煽る様な話をした。

「おい、佐々。先程は、交渉は難しいと言ったではないか。」

白井は、佐々の発言の矛盾を指摘した。

「うん。交渉は難しいと思う。だが、全く脈が無いという訳ではないと思う。それだけのことだ。」

佐々は、矛盾など無いと言いたげに白井に答えた。


「はあ。分かった。

カラル。幾ら用意すれば良いのだね。」

サンダースは、諦め口調で尋ねた。

「さすが、サン兄だ。取敢えず百万ドルで良いや。」

「分かった。来週中に用意する。」


姉尾は不思議そうな顔をして、チャールズに尋ねていた。

「チャールズ。サンダースは、人事担当と言われていたと思うが、違うかね。」

「ええ、そうですよ。」

「カラルはサンダースに資金拠出の要求をしている様だが、経営はトーマスなのではないのかね。」

「ああ、そんな事か。トムは経営を担当しているけど、金の計算はサンダースに任せているんですよ。細かな配慮は、サンダースが得意なので、資本全般は、サンダースが判断するのです。」

「成程。人事、庶務、経理担当といった事ですな。」

給仕が食事を持ってきたので、話は、そこで中断した。


食事が始まって、カラルは西海岸への道の話を始めた。

佐々は、フォードが思い描いている米国の未来も似ていると話した。ただ、車を全ての人々に普及させたいと思う者と、車を運搬の手段として考えている者の立場が対立しているのだとも話した。

「欧州では、トウモロコシの生産は殆ど無い。米国大陸で初めて手に入れた食材だから当然だ。

我が社で提供しているコーンフレークは、焼き菓子より手軽で日持ちもする。そして、栄養価も高い。

だから、欧州市場へも、今後、展開できると考えている。その前に、米国全体に拡販する事が先だ。

米国拡販の販売拠点としては、道沿いの給油場が良い。手軽、日持ちがする、軽いという利点が有るからな。

販売拠点として給油場を作ってもらうに当たって、道路整備が必要なのだ。」

カラルは、大きな思いを語った。


「そうすると、大きな荷台の車が必要という訳だな。だが、その前に、そうした拠点に石油を運ぶ車が必要となってくるな。」

白井は、文治に倣って、色々な事を考えながら話を聞き、思い付く事を口にした。

「うっ。」

カラルは、白井の発言に、言葉に詰まった。

「白井。大きな荷台の車が作られるのなら、石油もまた、その車で運べば良かろう。コーンフレークは軽く、石油は重いので、同じでは無いが、発動機が強力ならば、どちらも運べる。」

佐々は、当然の事を、話している白井に、笑いながら言った。


「佐々、そんな事を言っているのではない。石油は南部の一地域でしか手に入らん。それを精製して、車の燃料にするのだが、その石油をどうやって拠点に配送するのかという事だ。」

白井は、佐々が単純な発想しかしていない事を逆に指摘した。

「確かに、そうだ。」

カラルはパンの切り口を見詰めたまま言った。

「スタンダードオイルと交渉をして、配送させる必要が有る。米国全体への配送網を確立させるのが先だな。

そのためにも、石油を含めた大量の荷物を運搬できる車が必要となってくる。

我が社の荷物配送は、次の次だ。」

カラルは下記決すべき内容を独り言の様に言って、パンを口に放り込み、麦酒で流し込んだ。


「カラル。百万ドルで足りなくなるのではないか。」

サンダースは、話の大きさに驚いていた。

「いや。サン兄。資金が有り過ぎると危機感が失われてしまって、市場投入の機会が遅れる。

そうすると、他社に先行されてしまって、市場占有率を持っていかれてしまう。だから、足りない位が丁度良い。

ただ、販売を始める時に宣伝を打つので、ケロッグ社に宣伝のスポンサーになってもらいたい。」

カラルは、自信を持って、そう言った。


「分かった。好きに動いてくれ。トーマスの説得は、俺とチャーリーでしておく。」

サンダースは、末っ子の頼もしさに応えて言った。


「今日は、貴方達と昼食を共にする事ができて、有意義だった。トーマスが見立てた通りだった。

ただ、本当は、違う内容を話すつもりだったのだが、それ以上の話ができた。」

チャールズは、姉尾、佐々、白井の顔を順に見て礼を言った。


「何もしてはおらんよ。カラル殿の話し相手をさせてもらっただけだ。

我が国も石油の入手には、色々苦労が有る。誰もが行き当たる事なので、いつかは気付く。それが、早いか遅いかの違いだよ。」

佐々が、自国のこれからの展開を思い描きながら言った。


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