ワシントン33
「おう、ザジ。ちょっと来てくれ。」
ジュリアスは、丁度、通りかかった男を見つけて呼んだ。年配の男である。
「ジュリアス、どうした。ありゃ、工場長も一緒だ。何か、用かい。」
「ザジ、あんたは、長い事働いているよな。」
ジュリアスは、ザジに訊いた。
「え、ああ、そうだな。もう、40年になるかな。」
「最近、箱ごと駄目になる葉が増えているのかな。」
「そうだな。昔は、滅多に起きなかったが、最近は、ここ2か月で、3杯も駄目になったらしいな。」
「ん。駄目になったらしい、というのは、ザジは、知らないのか。」
横で聞いていたダニエルが訊いた。
「え、ああ。腰を痛めて、今は出荷の事務方だ。だから、今の上司は、エドだよ。」
「ザジさん。昔と今では、何が違うのですか。」
後ろから、文治が言った。
ザジは、文治を一瞥したが、答えずに、ジュリアスに向かって言った。
「ジュリアス。それで、用件は何かな。」
ジュリアスは、先ず、文治に向かって失礼を詫び、ザジに向いて、文治の質問に答える様に指示をした。
「ジュリアス。この人達は何だい。見掛けない東洋人も居る。
「ザジ。この前、ダニエルから説明が有っただろう。工程改善に協力してもらえる人達だ。」
「あー、そんな話だったかな。聞いてないな。第一、工程を改善する必要なんか、有るのか。」
「ザジさん。昔は、箱ごと捨てる様な事は無かったのに、最近は増えているということですが、何か変わったのでしょうか。」
文治は、割り込んで、話に入った。
ザジは、ごねるのを諦めて、文治に顔を向け、首を縦に振った。
「ああ、変わった。先ず、箱だ。昔は、あんなに大きな箱じゃ無かった。1つの袋で、一杯になる程の小さな箱だった。今じゃ、4袋か5袋、もっとかな、入る様な大きな箱になっている。
上の方が、丁度良い具合になってたら、一番下は、熟れ過ぎだ。それに、箱に、何時入れたのかを書く事にしていたが、今は、誰も書きゃしない。」
文治は、ザジのぼやきに微笑した。
「ザジさん。有難うございます。ジュリアスさん。この変更は、どうして行われたのでしょう。御存知ですか。」
ジュリアスは、ザジの話を聞いて、渋い顔になった。
「箱を大きくしたのは知っている。箱が小さい頃は、薄い板で作られていて、数回使ったら、釘の部分が錆びて、修理をしなくてはならない。
板を厚くして、数理回数を減らす事にしたが、厚板の箱が重くなってしまった。そこで、車輪を付ける事になって、そうすると、昔の箱の大きさのままでは、車輪が大きくて、半分の容積が取られてしまう寸法になった。
だから、箱を大きくしたという事だ。
御蔭で、1箱に沢山入れられ、車輪が付いて、仕事が楽になったんだ。」
「そうですか。その代償として、発酵状態を細かく確認できなくなってしまったのですね。」
「うーん。だが、昔に戻すというのは、簡単ではない、」
ジュリアスは、文治の指摘に、腕を組み、首をかしげて唸った。
「ザジさん。何かご提案をお持ちですか。」
文治は、ザジに問い掛けた。
「うーん。そうだなあ。ある程度時間が経ったら、上下を逆にすれば何とかなるのかも知れんな。上からの水分が下に溜まっていくからな。」
「なんだって。ザジ、この巨大な箱を、どうやって反すんだ。それに、逆さにしたら、底から取り出さなくてはならないじゃないか。そんな事は、できない。無理だ。」
ジュリアスは、直ぐに、ザジの提案を否定した。
「何だあ。じゃ、俺は戻るぞ。」
ザジは提案を否定されて、怒った顔で行ってしまった。
「おい、ジュリアス。ザジが怒ってしまったぞ。お前は、何故、人を怒らせてしまうんだ。班長連中から、お前について悪口を聞かされる。
仕事に支障が出ているのは、お前の、そういう所なのではないのか。」
ダニエルは、客の前である事も忘れて、ジュリアスに文句を言った。
そいsて、客の前である事に気付いて、ばつの悪そうな顔で、カークを見た。
言われたジュリアスも、そっぽを向いて、黙って行ってしまった。
「済みません。見苦しい所を見せてしまいました。」
ダニエルは、顔を赤くし、恥じて小さな声で言った。
「おい。ダニエル。ジュリアスを責任者にしているのは、何故なんだ。」
たまらず、カークが尋ねた。
「はあ。ジュリアスは、社長の甥でして、社長から、責任者にする様に言われています。お恥ずかしい話ですが、彼を厄介払いする事はできないのです。」
「先程、班長が悪口を言っていると言っていましたな。」
五陵がダニエルに尋ねた。
「いや、お恥ずかし。ジュリアスは、色々な事を独断で決めるので、失敗が多いのですが、それを部下の責任にするのです。
先程の箱への日時記載ですが、箱が汚れると言って、止めさせたのもジュリアスなのです。
目的が有ってやっている作業を、何も聞かずに指示をして止めさせるのですよ。
箱ごと駄目にした者に、罰として箱代を給料から天引きしてしまって、班長が会社を辞めてしまったのです。
技能を持つ者から辞めてしまうものですから・・・。
済みません、愚痴になってしまいました。」
「おい、ダニエル。今の話は初耳だぞ。道理で、クランベルやマッケンリが居ない訳だ。辞めたんだろう。」
ダニエルの話に、カークが反応した。
「・・・・。」
ダニエルは、何も言わなかった。そのことが、自分の責任であるかの様に下を向いた。
「カーク。クランベルとかマッケンリとは、班長の名前か。」
オウルが訊いた。
「ああ、そうだ。去年来た時には、2つの作業班が競って仕事をしていて、どっちが良い品を沢山生産できるかを競い合っていた。」
「そうか。その班長が、2名共に辞めたという事か。」
カークの話に、オウルは溜息混じりに言った。
「それで。」
ダニエルは肩を落としたまま話し始めた。
「今は、代わりの者を班長にしているのですが、2人が辞めた経緯を知っている者が務めていますので、士気が上がりません。
流石に、ジュリアスは、駄目になった箱の費用を天引きする事は、止めましたので、若い班長が辞めてしまう事はありません。
でも、生産量は、3割も落ちてしまいました。煙草の質も落ちている様で、先週、大量の返品が有りました。こんな事は、私の経験では、初めての事です。原因は、乾燥が不十分だったのか、カビが発生してしまったということです。」
「ダニエル殿。そんな状況では、プレミアム葉巻どころでは無いのではないかね。」
黙って聞いていた五陵が口を挟んだ。
「葉巻の部署は、ジュリアスが担当していない部署です。そちらを我が社の重点にする事を考えているのです。」
ダニエルの、せめて売れる商品の質は死守したいという思いが伝わってくる。
「ダニエルさん。葉巻も、元となる葉は、ここで発酵させているのでは、ありませんか。ここが上手く回らなければ、良い商品は得られないのではないかと思われますが、如何でしょう。」
文治は、当然の話として、指摘したが、ダニエルは混乱しているので、気付いていない事を懸念して、忠告をした。
「あっ。」
ダニエルは、気付いて固まった。




