表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/175

ワシントン31

一人の男が盆に箱を積んで持ってきた。

「お待たせしました。」

そう言って、男は、机の上に箱を並べた。


「これが、ドライですが我が社のもの、隣がハバナのコイーバ、パルたガス、モンテクリスト、パンチの順で、オランダのオリファント、そして、ドライですが、イタリアのアラベスクとなっています。お試しください。」

持参した男が説明をした。


「どれ」

神崎が、先ず最初に、地産と紹介された葉巻に手を伸ばした。


「おい、ダニエル。火種が無いぞ。」

オウルも神崎と同じ銘柄を持ったが、火種の無い事に気付いて言った。


「あっ、失礼しました。」

葉巻を持参した男、ダニエルは、小走りで灰皿を取りに行った。


神崎は、各々の葉巻の香りを確かめては、箱に戻す作業を行った。

五陵も神崎と同じ様に葉巻を取っては、香りを確かめていた。

「文治君。火を点ける前の葉巻ならば構わんだろう。少し匂いを嗅いでみてくれ。」

五陵は文治にも香りを確かめる様に促した。


「はい。臭い程度でしたら、構いません。」

言われて、文治は葉巻の臭いを嗅いだ。

「ほぼ、枯葉の臭いですね。少し、青さが残っています。・・これは、少し酸っぱさが混じっていますね。・・これも同じですが、酸っぱさの強さが違います。そして、葡萄の葉に近い臭いも混ざっていますね。」

文治は、次々と臭いを嗅いで、感じたままを口にした。


灰皿を持って戻ってきていたダニエルは、目を丸くして、文治の感想を聞いて、カークに向かって尋ねた。

「カークさん。この若者は誰ですか。若いのに的確に特徴を表現している。」

カークは、ダニエルの問いに笑いながら答えた。

「言っているだろう。彼が、文治さんだ。」

文治は、紹介されて、ダニエルに向かって微笑んだ。


「えっ、文治さんって、こんなに若い東洋人なんですか。誰もが一目を置く程の人だということで、もっと年寄りかと思ってました。

・・・あっ、ダニエルです。宜しくお願いします。」

ダニエルは文治に握手を求めた。


「文治です。誰にも一目を置かれるというのは、大袈裟ですよね。若くて済みません。」

文治は、握手に応えながら言った。

ダニエルは、続いて神崎、五陵とも握手を交わした。


ダニエルが、挨拶をしているのを横目に、カークは葉巻に吸い口の穴を空け、火を点けた。

「美味い。」

カークは、コイーバを楽しんだ。

「おい、カーク。勝手に吸うな。」

オウルはパルタガスを手に取って、吸い口を作りながら言った。

「そうだぞ。どうやって違いを見つけるかも決めていないじゃないか。」

ヨハンも、手に葉巻を持ちながら言った。


「ダニエルさん。悩みというのは、どういう内容なのですか。」

文治は、早速切り出した。

「えっと、先ず、プレミアムを作ってみるのですが、美味くできないのです。ドライは、伊国からの職人から作り方を伝えてもらったので、上手くできるのですが。」


文治は、ダニエルの話に、直ぐに反応して訊いた。

「プレミアムとドライでは、何が違うのですか。」

「えっ、ああ。プレミアムというのは、完全に乾燥しきらない状態で提供するもので、ドライというのは、完全に乾燥したものです。

ドライは、長期間の輸送に耐えられるという利点は有るのですが、味では、プレミアムが好まれています。」

「そうですか。何故、プレミアムと呼ぶのですか。」

「えーっと、完全に乾燥していないことで、煙草の葉の風味が広がって、風味が広がるのです。それを上質としています。」


ダニエルと文治が話をしている間に、オウル、ヨハンは当然として、神崎と五陵も葉巻に火を点けた。


「これが、試しに作った我が社のプレミアムです。」

ダニエルは、懐から一本の葉巻を取り出した。

文治は、受け取り、臭いを嗅いだ。

「少し、酸っぱさが強いですね。ハバナの様な甘い香りも無い。」

文治の感想に、ダニエルは驚いた。

「その通りなのです。私も含めて、何人かがバハマへ行って、プレミアムの作業を見てきたので、その通りに作っているのですが、豊かな香りにはならないのです。」

「そうですか。それで、私達がご協力する事になった訳ですか。

でも、私は、煙草をやりませんし、バハマでの作業の様子を見た事が有りません。どの様に協力させていただいたら、良いのでしょうか。」

「・・・。」

ダニエルは黙ってしまった。


「文治君。取敢えず、工場へ行ってみよう。

カーク。文治君が成果を保証できないと言っている。期待外れになっても、文句を言うなよ。」

神崎は、回し飲みしている葉巻をヨハンと交換しながら言った。

「まあ、それでも構わん。文治さんが通った後には、必ず何らかの花が咲く。

多分、ダニエルは何かを得るに違いない。それだけでも、十分だと考えている。

さて、これで、一通り試した。どうかな、感想は。」

カークは、神崎に答えてから、皆の顔を見た。


「やはり、ドライよりは、プレミアムが美味い。プレミアムについては、それぞれ味が違うが、好みの問題だな。」

ヨハンは、率直な感想を述べた。

オウル、神崎、五陵が頷いたので、総意ということになった。


神崎は、文治の手から自社製のプレミアムを取り上げ、火を点けた。

一口吸ってから、五陵に渡し、オウル、カーク、ヨハンへと回された。

「成程。確かにハバナに比べると風味が劣る。後味が、ドライと変わらん。」

カークが、真っ先に、感想を言った。


「ダニエル。では、工場へ行こう。」

自社製の葉巻に、他の者も、物足りなさそうな顔をしたので、他の者の発言を制して、カークは工場行きを促した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ