ワシントン31
一人の男が盆に箱を積んで持ってきた。
「お待たせしました。」
そう言って、男は、机の上に箱を並べた。
「これが、ドライですが我が社のもの、隣がハバナのコイーバ、パルたガス、モンテクリスト、パンチの順で、オランダのオリファント、そして、ドライですが、イタリアのアラベスクとなっています。お試しください。」
持参した男が説明をした。
「どれ」
神崎が、先ず最初に、地産と紹介された葉巻に手を伸ばした。
「おい、ダニエル。火種が無いぞ。」
オウルも神崎と同じ銘柄を持ったが、火種の無い事に気付いて言った。
「あっ、失礼しました。」
葉巻を持参した男、ダニエルは、小走りで灰皿を取りに行った。
神崎は、各々の葉巻の香りを確かめては、箱に戻す作業を行った。
五陵も神崎と同じ様に葉巻を取っては、香りを確かめていた。
「文治君。火を点ける前の葉巻ならば構わんだろう。少し匂いを嗅いでみてくれ。」
五陵は文治にも香りを確かめる様に促した。
「はい。臭い程度でしたら、構いません。」
言われて、文治は葉巻の臭いを嗅いだ。
「ほぼ、枯葉の臭いですね。少し、青さが残っています。・・これは、少し酸っぱさが混じっていますね。・・これも同じですが、酸っぱさの強さが違います。そして、葡萄の葉に近い臭いも混ざっていますね。」
文治は、次々と臭いを嗅いで、感じたままを口にした。
灰皿を持って戻ってきていたダニエルは、目を丸くして、文治の感想を聞いて、カークに向かって尋ねた。
「カークさん。この若者は誰ですか。若いのに的確に特徴を表現している。」
カークは、ダニエルの問いに笑いながら答えた。
「言っているだろう。彼が、文治さんだ。」
文治は、紹介されて、ダニエルに向かって微笑んだ。
「えっ、文治さんって、こんなに若い東洋人なんですか。誰もが一目を置く程の人だということで、もっと年寄りかと思ってました。
・・・あっ、ダニエルです。宜しくお願いします。」
ダニエルは文治に握手を求めた。
「文治です。誰にも一目を置かれるというのは、大袈裟ですよね。若くて済みません。」
文治は、握手に応えながら言った。
ダニエルは、続いて神崎、五陵とも握手を交わした。
ダニエルが、挨拶をしているのを横目に、カークは葉巻に吸い口の穴を空け、火を点けた。
「美味い。」
カークは、コイーバを楽しんだ。
「おい、カーク。勝手に吸うな。」
オウルはパルタガスを手に取って、吸い口を作りながら言った。
「そうだぞ。どうやって違いを見つけるかも決めていないじゃないか。」
ヨハンも、手に葉巻を持ちながら言った。
「ダニエルさん。悩みというのは、どういう内容なのですか。」
文治は、早速切り出した。
「えっと、先ず、プレミアムを作ってみるのですが、美味くできないのです。ドライは、伊国からの職人から作り方を伝えてもらったので、上手くできるのですが。」
文治は、ダニエルの話に、直ぐに反応して訊いた。
「プレミアムとドライでは、何が違うのですか。」
「えっ、ああ。プレミアムというのは、完全に乾燥しきらない状態で提供するもので、ドライというのは、完全に乾燥したものです。
ドライは、長期間の輸送に耐えられるという利点は有るのですが、味では、プレミアムが好まれています。」
「そうですか。何故、プレミアムと呼ぶのですか。」
「えーっと、完全に乾燥していないことで、煙草の葉の風味が広がって、風味が広がるのです。それを上質としています。」
ダニエルと文治が話をしている間に、オウル、ヨハンは当然として、神崎と五陵も葉巻に火を点けた。
「これが、試しに作った我が社のプレミアムです。」
ダニエルは、懐から一本の葉巻を取り出した。
文治は、受け取り、臭いを嗅いだ。
「少し、酸っぱさが強いですね。ハバナの様な甘い香りも無い。」
文治の感想に、ダニエルは驚いた。
「その通りなのです。私も含めて、何人かがバハマへ行って、プレミアムの作業を見てきたので、その通りに作っているのですが、豊かな香りにはならないのです。」
「そうですか。それで、私達がご協力する事になった訳ですか。
でも、私は、煙草をやりませんし、バハマでの作業の様子を見た事が有りません。どの様に協力させていただいたら、良いのでしょうか。」
「・・・。」
ダニエルは黙ってしまった。
「文治君。取敢えず、工場へ行ってみよう。
カーク。文治君が成果を保証できないと言っている。期待外れになっても、文句を言うなよ。」
神崎は、回し飲みしている葉巻をヨハンと交換しながら言った。
「まあ、それでも構わん。文治さんが通った後には、必ず何らかの花が咲く。
多分、ダニエルは何かを得るに違いない。それだけでも、十分だと考えている。
さて、これで、一通り試した。どうかな、感想は。」
カークは、神崎に答えてから、皆の顔を見た。
「やはり、ドライよりは、プレミアムが美味い。プレミアムについては、それぞれ味が違うが、好みの問題だな。」
ヨハンは、率直な感想を述べた。
オウル、神崎、五陵が頷いたので、総意ということになった。
神崎は、文治の手から自社製のプレミアムを取り上げ、火を点けた。
一口吸ってから、五陵に渡し、オウル、カーク、ヨハンへと回された。
「成程。確かにハバナに比べると風味が劣る。後味が、ドライと変わらん。」
カークが、真っ先に、感想を言った。
「ダニエル。では、工場へ行こう。」
自社製の葉巻に、他の者も、物足りなさそうな顔をしたので、他の者の発言を制して、カークは工場行きを促した。




