9日目、だれのこえ。
今日も寒気がする。
聞いたことのない声が聞こえた。
めちゃくちゃ可愛らしい声。
かなやん(じいちゃん)よりも可愛い声。
当然か。
何事かと辺りを見回すとのぞきみさんが震えながらなにかに指を指していた。
それからホワイトボードに何かを書きなぐり、ペンで何かを指す。
ギュギュッ
『G!!!』
指を指してる先を見ると・・・・・・。
ヤツだ。
カサカサ動いている。
「なんだぁ?虫かぁ?」
おばあちゃんがカウンターからほうきを持って出てくる。
まさか・・・・・・。
いや、そんな事しないよな、飲食店だもんな、
「どりゃああああああ!!!!!」
ばんばんばんばんばん
うわー。
こりゃたいへんだー。
なんで潰すんだよー。
てか潰しすぎー。
のぞきみさん倒れそうになってるよ。
めっちゃフラついてるよ。
おばあちゃんよりおばあちゃんみたいになってるよ。
「捨ててくるよぉ。」
無視潰す時のおばあちゃん生き生きしてたな。
こりゃあと三十年は生きるな。
キュキュキュ
『ありがとうございます(;^ω^)』
複雑だよね。
感謝したいんだけど心の底では感謝できないよね。
「なぁに、どぉってことないよぉ。」
そんなことは全くわからないおばあちゃんは相変わらずマイペースであった。
めでたしめでたし。
さて、ここからが本題。
さっきの声は誰の声なのか。
絶対のぞきみさんの声だ。
「のぞみさん、可愛い声なんだね。」
少し意地悪してやる。
のぞきみさんのリアクションが楽しみだ。
キュキュキュ
『え?何の話?』
しらばっくれるか。
なんだかんだで長い付き合いになるけど声は聞いたことがなかった。
今日の声をもう一度聞いてみたい。
「もう一回、声が聞きたい。」
素直に、なれたかな。
回りくどいのは気が付かないからね、のぞきみさん。
頑張ったつもりなんだけど、なんでのぞきみさんそんな表情してるの?
やべ、すんごい可愛い。
キュキュキュ
『今日、何時までいる?』
話をそらすんかーい。
え、なんか急に恥ずかしくなってきた。
顔燃えそう、熱い。
「そろそろ帰るかな。」
あー、なんか今日調子悪い。
いつもと違う感じがする。
なんでだろ、わかんない。
キュキュキュ
『そか、そか。』
「またくるよ。」
キュキュキュ
『またね。』
のぞきみさんは手を振ってる。
さて、そろそろ行きますか。
席から立ち上がり、扉を開けようとした。
すると後ろから肩を叩かれた。
振り返ると・・・・・・。
「ナポリタン代払えぇ。」
ちっ、いい感じだったから帰れると思ったのに。
無銭で出ようとしてたわけじゃないよ?
ただ、のぞきみさんが作ってくれたからサービス的な感じだと思ってただけだし。
「払いますよ、払いますよ。は?」
メニュー表の値段を見て自然と疑問形がこぼれる。
『ナポリタン¥600+のぞみさん代¥200』
何このオプション代。
のぞみさん代ってなんだよ、まじで。
いや、払うけどさ・・・・・・。
なんか腑に落ちない・・・・・・。
詐欺的なやり方をするのかよ。
「まいどありぃ。」
目がキラキラ輝いている。
それが尚更腹立たしい。
今度こそ取っ手に手をかける。
そのまま引くと外の空気が流れ込む。
夕焼けの色が差し込む。
なんだか寂しい、別れの色。
振り返らずに扉を閉める。
また会えるだろうし。うん。
「待って!」
はっとして振り返る。
「またきてね!」
「絶対行くよ!」
今日も寒気がする。
5分後
ふと寒気がして振り返ると・・・・・・。
「バイトしろよ!!!」
エプロンをしたままの黒猫を店に引き返した。