17日目、わかった。
今日も寒気がしない。
「それでは……。聞いてください……。」
磁石で引き合うように、黒目が向き合っている。
ジゼルの方が少し磁力が強いのか、吸い込まれそうになる。
「クリスティーナは宙さんに語ってくれました……。」
ブフッと吹き出す音が聞こえる。
とっさに隣のヤツの太ももをパァンと叩く。
ジゼルは何事もなかったかのようにカップに手を添える。
その瞬間に何か破壊音が聞こえた。
よく見るとジゼルの手は紅茶まみれになっていた。
何が起きたのか理解できないが震えがとまらない。
隣の太ももからも震えが伝わる。
「ちょっと……。」
ちょいちょいと手招きをして執事を呼ぶ。
執事がのそのそとやってくる。
「なんでしょうか、お嬢様。」
ペコリと一礼して布巾で紅茶を拭きながら尋ねる。
執事からハンカチをもらって手を拭きながら答える。
「新しいカップと衣装を用意お願いいたします……。」
「かしこまりました。」
ペコリと一礼してハンカチを受け取りどこか違う部屋に向かっていった。
お嬢様も立ち上がり、友人の隣に立った。
そして何かを囁いて執事の後をついていった。
隣の震えがますます大きくなる。
そしてカクカクと首をこちらに向け口をパクパクと動かす。
「や……殺られる……。」
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「さて……。先ほどの続きです……。」
新しいカップを使って口を潤す。
友人の震えはいまだ止まっていない。
「クリスティーナは悩んでいます……。」
クリスティーナという単語が口から出るたびに友人はビクッと反応した。
もう奴隷だな、こうなっちゃったら。
「何を?」
友人なんてどうでもいい、のぞきみさんだ。
何を悩むことがあるのだろうか。
「クリスティーナがやってることは……。言っちゃえば犯罪ですよね……。」
それはそうだ。
でも、何をいまさら……。
もうかなり経つぞ……?
「それで……。最近宙さんとよくいますよね……?」
そういえばそうだよな……。
結構いろんなとこにも行ってるし、自分は楽しいけど……。
「それが……。怖いらしいんです……。」
怖い?
自分がよく友人を殴ったりするから?
「何が?」
「宙様に嫌われるのが……。」
「あの子、人とかかわるのが苦手なのです……。」
「それなのに……。犯罪を犯してまで会いたいんですよ……。」
「あの子も初めてなんですよ……。」
「もう……。わかりますよね……?」
頭が真っ白になって理解ができなかった。
最初の一言が大きすぎて。
けどわかる。
のぞきみさんに自分の気持ちを伝えなければいけないことが。
「のぞみさんの家を教えて!」
テーブルに両手を乗せて立ち上がる。
とっさにでたその言葉。
ジゼルは待ってましたと言わんばかりの笑顔を向けた。
そしてポケットから四つ折りになった紙を取り出して渡してくれた。
それをひらくと、どうやら地図のようだった。
「ありがとう!」
少し小走りで長い廊下を抜け、玄関に向かった。
靴を履き、扉を開ける。
「お邪魔しました!」
今日も寒気がしない。
「さて……。なにから話しましょうか……?」
「ひっ、え、ちょ、宙ー!待ってー!」
「逃がしませんよ……?このクソ豚……。」
「ぎゃあああああああああああああ。」