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副会長の恋愛迷走日誌  作者: 回めぐる
副会長の恋愛迷走日誌
2/22

 今日の生徒会は忙しい。

 何故忙しいかといえば、学園祭が近いから。更にいえば、うちの学園の教師共は揃いも揃って役立たずで、仕事はほぼ全て生徒会に回ってくるから。


 更に更にいえば、その役立たずの教師共がうっかり生徒会管轄の書類をこちらに回すのを忘れて放置していたから。


「ああああもう仕事やだよぉっ!かわい子ちゃんとにゃんにゃんしたいよぉおお!」


 連日の書類地獄に泣き言を喚き半狂乱になりながらも、それでも手は素早くキーボードを叩いているのは、生徒会一モラルにも下半身にも緩いと評判の会計、遊佐ゆさ

 しかし、このクソ忙しい時期に火遊びなんかさせやしない。この僕が。


「遊佐先輩、落ち着いてくださあ〜いっ。学園祭が終わるまでの辛抱ですよぉ?いくらうちの先生方がクソほど使えない役立たず共でマジ絞め殺すぞって感じでもぉ、私たちが協力し合えばすぐに終わりますよぉ?」


 そんな会計を窘めているのは、庶務の職についている一年、花見はなみ。男子校であるはずのここで唯一普段から女子制服を着用している、いわゆる女装男子だ。

 可愛い顔も相まって天使だとか呼ばれている彼だが、徹夜のせいでうっかり本性が現れてしまっている。

 その横に座って黙々と仕事を進めている書記の狗飼いぬかいも、一見普段通りに見えるが、よくよく見れば目が充血し血走っている。

 皆が皆、ふらふらになりながらも自身に鞭を打ち、なんとか仕事をこなしていた。

 かくいう僕、副会長の駿河するがかなめもそのひとり。先程からずきずきと激しい頭痛を催していて、そのうち頭が割れるんじゃないかってくらいだが、なんとか我慢して書類をこなしている。

 だって皆頑張ってるから。僕がここで離脱したら、皆の負担が大きくなってしまう。

 それに何より、この人を失望させたくない。

 僕の隣の席で次々と書類の処理をこなしていく美形の男、九藤くどう雪隆ゆきたか。彼こそ、この生徒会の王様、生徒会長でありーー僕の最初で、そしてきっと最後の想い人。

 彼は誰よりも多くの負担を引き受けているにも関わらず、平然とした顔で仕事を続けていた。

 やっぱりすごいな、九藤は。辛いはずなのに、その辛そうな様子を微塵も見せない。

 すごいなあ、好きだなあ、と思いながら、たった今完成した体育館の割り当て案を九藤に手渡す。


「九藤、終わりました。体育館の割り当てですが、今年も軽音部と演劇部が午前と午後に分かれて公演、あとの空き時間を他の団体が使うという形を取ろうと考えています」

「ああ、それでいい。体育館を使用する予定のあるクラスは」

「二年B組がクラス演劇を上演予定です。演劇部の公演とは間を置いての上演の方がいいかと」

「俺も賛成だ。それと、親衛隊の方はどうなった」

「はい。学園祭当日に講堂を使用して大規模集会を開くそうです」

「そうか。お前と俺の親衛隊隊長もいるんだろう?なら問題はないな」

「はい。僕もそう思います」

「よし。それじゃあこれから、体育館割り当ての資料の印刷を頼む」

「はい。ああ、あと九藤」

「なんだ」

「好きです、愛してますよ」


 にっこりと微笑んで、九藤の手の甲にキスを落とす。

 九藤はいつものように呆れたのかなんなのかわからない微妙な表情を浮かべた。横からは、会計の「うわ出た、生徒会名物ふくかいちょーのラブコール。この忙しいときまでふくかいちょーの愛は深いねー……」というぼやきが聞こえる。

 僕はそれを聞き流しながら、書類を持って印刷室に向かった。

 


 ***



 誰もが憧れ敬い慕う生徒会長、九藤雪隆。

 僕が彼と出会ったのは、この全寮制学園の中等部に上がった日のこと。僕は、外部生であった九藤と同室になり、半年間ふたりで共同生活をした。

 僕は勉学でも運動でもそこそここなすオールマイティ型で、更に顔が良く家は茶道の家元とかで、初等部の頃からそれはそれはちやほやされた。告白された数は片手では数え切れない。

 なんで全寮制男子校で告白されるんだ、という疑問については、考えたら負けだ。

 そんな僕は当時天狗になっていて、自分が生徒会長になるということを信じて疑わなかった。

 しかし、だ。


『俺は負けない、絶対にな。お前みたいなプライド高そうな奴に認めてもらうには、こういうのが一番有効だろう。これでお前は、やっと俺を対等に見てくれるな』


 定期テストの結果が張り出された廊下で呆然とする僕にそう言って挑発的に笑った。

 僕はその日、初めて学年主席の座から転落した。奪ったのは無論、九藤雪隆。


 悔しい。

 情けない。

 こいつにはどうしたって勝てない、憎いーー!


 ……とは、思わなかった。

 むしろ、初めて現れた自分より格上の存在に胸が騒ぎ、気づけば僕は妙なことを口走っていた。


『……一目惚れしました』

『…………は?』

『九藤、貴方が好きになってしまったようです』


 音を伴って声にしてみればなるほど、自分も納得できた。どうやら僕は、九藤雪隆に恋してしまったらしい。

 以来僕は、ことあるごとに九藤に愛の告白を繰り返した。たぶん、一週間に二、三回はしている。

 実家の父さんには、「駿河家の人間たるもの、常に人より秀でていなければならないと言っただろう!この無様な結果は何事だ!」と、毎度のように学年二位しか取れなくなった僕を怒鳴って殴ったが、僕は、


『はい!ですから僕は誰よりも九藤雪隆を愛しているという点で一位を目指します!』


 と、宣言した。最初こそ「ふざけるな!」と更に怒り狂ってしまっていた父さんだが、帰省の度にそれを繰り返し、更に口を開けば『九藤雪隆がいかに格好良くて素晴らしい人間か』についてしか語らなくなった僕を見て、最近は諦めている。家督は長男が継ぐから、お前は九藤くんを落として幸せになりなさいとまで言ってくれるようになった。


 ちなみに、高等部二年になった今も、告白に対して芳しい返事をもらったことは、未だない。


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