四
生徒会室を飛び出したその足で向かったのは、校舎四階の北端に位置する第三音楽室。
音楽室とは名ばかりの、楽器のひとつもないその教室ーー別名会計親衛隊会議室の扉を、無言で開ける。
「おい、てめえ何様だよ。ノックのひとつもできねえようなら遊佐飛羽親衛隊を名乗る資格はねえ……って、はい?」
遊佐様?と、振り返りざまに目を丸くする、癖毛と大きな黒縁眼鏡が特徴的な男子生徒。
机と椅子と黒板しかない、ピアノすら取り払われたその音楽室には、彼ーー俺の親衛隊隊長・鳴滝禅の他にも、数人の親衛隊隊員がちらほらといて、俺の姿を見るなりそわそわと落ち着かなくなった。
ここは、鳴滝禅率いる遊佐飛羽親衛隊の集会場だ。
普段なら可愛い隊員のみんなに、甘い言葉をサービスしたりもするのだけれど、今の俺にはそんな余裕はなかった。
俺はにこりともせずに真っ直ぐ、鳴滝の元に向かう。
「遊佐様、どうしてこの時間にここへ?まだ生徒会の仕事が残ってるはずじゃ……」
なるたっちゃんに会いたくて来ちゃったんだあ、とか軽口のひとつでも言えたら良かったのに、出てきたのは正反対の言葉だった。
「………………鳴滝」
そのまま鳴滝の胸に倒れ込めば、当然のように受け止めて抱きしめ返してくれた。
烏谷とは全然違う、安心できる匂いに包まれる。
「おれ、つかれた」
ぽつりと呟いた声は、思った以上に震えていて、情けないったらない。
「……なら、休んだらいいよ」
鳴滝の手が、ぽんぽんと俺の背をあやすように軽く叩く。
甘えてもいいと言われているような気がして、俺はますます強く鳴滝に抱きついた。
ここはいつでも俺に優しい。あの生徒会とは違って、全てが綿あめのような甘さと柔らかさでふわりと俺を包んでくれる。怖い存在も嫌な存在もない。俺の親衛隊なのだから当然といえば当然なのだけれど。
だから俺は、この親衛隊という微温湯につかって、ぐずぐずに甘えきってしまう。
いつの間にか他の親衛隊隊員たちは、音もなく教室から出て行っていた。音楽室には、俺と鳴滝のふたりきりだ。
「飛羽、どうした?やなことあるなら俺に言えばいいよ、全部受け止めるから」
人目を気にする必要がなくなって、鳴滝は俺の名前を呼んでくれた。
やっぱり、遊佐様なんて呼ばれるよりもこっちの方が断然いい。
「鳴滝」
「ん。何、飛羽」
「俺の話、聞いてくれる?」
「聞くよ、なんでも。聞かせて」
もういい加減、ひとりで抱え込むには重すぎる。
俺はこの日、初めて自らの過去を打ち明けた。
「俺と烏谷の話」
俺、遊佐飛羽と烏谷迅は、幼馴染だ。
幼馴染で、親友で。打算と情愛とほんの少しの友愛が入り混じって混濁とした、俺とあいつの関係。
「あいつは俺の、幼馴染で、親友で、主君だったんだ」
短くてすみません…
次から遊佐と烏谷の過去回想が始まります。




