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副会長の恋愛迷走日誌  作者: 回めぐる
会計の恋愛逃走日誌
13/22

 烏谷迅の更生生活……もとい、一ヶ月間の生徒会活動が幕を開けてから、早一週間。

 全く、毎日がくそうざったいことこの上ない。


「もおー、うざいなー、ほんと毎日毎日うざいなー」


 会計席の机で頬杖をついて呟く。返答を求めていたわけではないが、会長はそれに頷いてくれた。


「全くだな。この一週間、胃がムカムカしっぱなしだ」


 はあ、と会長の口から吐き出された溜息は予想以上に深いものだった。美形の吐息には色があるが、それについて囃し立てるほど、今の俺のテンションは高くない。

 視界の端にちらつくのは、この一週間でもはや日常風景と化した、あのふたりの応酬。副会長と烏谷迅の会話。


「カナメちゃん腰ほっせえ。えっろーい」

「減らず口ばかり叩く人ですね。貴方の腰骨折りますよ」

「え、性的な意味で?」

「馬鹿ですね、物理的な意味です」

「だよなあ。あ。この書類、これでいい?」

「どれですか」

「これ。最後のとこ、慣れなくてあんま自信なくてさあ」

「ふむ。大丈夫ですよ、上手く出来てます」

「あ、ほんと?やっぱ俺てんさーい」

「自惚れるのはやめなさい。貴方は努力次第ではもっと伸びるんですから」


 あ、といつの間にか小さく声を上げてしまった。副会長の手が、烏谷迅の頭にぽん、と置かれたせいだ。

 副会長の所作に甘い雰囲気は一切なく、どちらかと言うとそれは、手のかかる子供に対する親愛の念のような類のものだったのだが、会長の目はぎらりと仄暗く光った。

 嫉妬の炎はバチバチと爆ぜて、危うくこっちにまで飛び火しそう。


「もう我慢ならねえな」

「おお、会長様もついに本気モードですかぁ」


 不穏な気配を隠しもせずに立ち上がった会長を冷やかす花ちゃん。

 度胸あるね、俺はそんな怖いもの知らずな物言いはできないよ。


「おい駿河、風紀室に書類届けるから着いてこい」

「九藤?そんなもの僕が済ますから、九藤は少し休憩でもしていてください。今ホットミルクを淹れますから」

「んなの、寮に帰ってからでも出来るだろ。それとも何、駿河は俺と一緒に行きたくねえのか?」

「……ふふ、そんなわけないでしょう」


 頰を緩めて控えめに笑う副会長。

 会長が話しかけた途端、副会長の相好が面白いくらいに柔らかくなった。やっぱり副会長は、会長が好きで好きで仕方がないらしい。

 恋をしている副会長は、普段の倍以上は綺麗だ。もともと美人だけれど、それに拍車がかかる。人は恋をすると綺麗になるというのは、どうやら本当らしい。

 副会長は徐に何枚かの書類を確認すると、それを烏谷迅に手渡した。


「では烏谷くん、次はこれをお願いします。僕はこれから会長に同行して風紀室に行ってくるので」

「ええ、カナメちゃんがいないとつまんね。つうかなんでユッキーに着いてくわけ?明らかにひとりでも済む用事じゃん」

「グチグチ言うんじゃねえよ、烏谷。お前は更生中の身なんだからな」

「あーあ、ユッキーそっけねーの」

「そのユッキーっていうのは、止めなさい。僕の九藤を気安く呼ばれるのは不愉快です」

「……うわあ。ねえ遊佐先輩、今の聞きました?僕の九藤、って断言しちゃってますよ」


 お熱いこと、と花ちゃんがニヤリと笑む。

 でもまあ、副会長の愛がどストレートなのは今に始まったことじゃない。

 バカップルなふたりに挟まれた烏谷迅が、口で勝てるはずもない。最後には渋りながらも書類を受け取った。


「ユッキーってば嫉妬深すぎ。ちょっとちょっかい出しただけなのにさあ」

「悪いか。駿河は俺のなんだから、独占して文句言われる筋合いはねえよ。おい駿河、行くぞ」

「はい」


 副会長は会長の半歩後ろに颯爽と付き従う。副会長の中での等式は『会長>烏谷迅』で完全に固定されているようだ。……いや違うな、『会長>会長以外の全て』か。

 会長と副会長がいなくなったことで、生徒会室には俺と花ちゃん、わんちゃん、それから烏谷迅の四人だけとなった。

 普段なら生徒会ツートップがいなくなっても、俺と花ちゃんがべらべらと喋っているから(わんちゃんは終始無言)、生徒会室から会話が途切れることは滅多にない。

 だが、烏谷迅というイレギュラーがいる今日は、生徒会室の空気もどこか重苦しかった。

 気を利かせてなのか、花ちゃんはいつとより大きな声で話題を振ってくれる。


「それにしても、会長と副会長は相変わらずのイチャラブぶりですよねぇー?あーあ、私も彼氏ほしいなー」

「へえ、花ちゃんって今付き合ってる人いないの?」


 会話がなくなるのもかえって落ち着かないので、その話題に乗ってみる。

 花ちゃんは「そうなんですよぅ」とぶりっこポーズでしきりに頷いた。


「私、ここ三ヶ月はずっとフリーなんですよぉ。あ、遊佐先輩はどうです?私、お買い得物件ですよ?」

「ええ、やだよ。花ちゃんてば理想高そうだもん。俺、人に合わせるの苦手だしね」

「あー、それは知ってます。遊佐先輩はゴートゥーザマイウェイですもんねぇ」


 あはは、と花ちゃんが笑って、和みかけていた空気感。だが、その流れはけたたましい着信音によって引き裂かれた。鳴っているのは、生徒会室の内線専用固定電話だ。

 いちばん近くにいた花ちゃんが、電話に応じた。


「はぁーい、生徒会室でーす。庶務の花見がお伺いしまーす。……あ、副会長?……書類が足りない?もぉ、何やってるんですかぁ?あー、わかりましたよ、届けに行けばいいんでしょぉ?」

「……はっ?ちょ、花ちゃん?」


 届けに行く発言に俺が動揺しているうちに、花ちゃんは受話器を元に戻して、会長の机から書類を取り上げた。


「とゆーわけで、私行ってくるんで、後のことよろしくお願いしますね?」

「ちょちょちょっと花ちゃん!待って!待って!?」


 あっさりと出て行こうとする花ちゃんを必死の形相で引き止める。

 冗談じゃない。花ちゃんがいなくなって静まり返った部屋で烏谷迅と一緒にいるだなんて、絶対にごめんだ。


「やめてよ花ちゃんっ。烏谷と一緒だなんて、俺ぜえっっったい嫌だかんね?」


 花ちゃんを引き寄せて小さく耳打った。

 花ちゃんは「そう言われても」と困り顔だ。


「そんなに嫌がることでもないじゃないですかぁ?別にふたりきりってわけでもないし」

「へ?」

「ほら、狗飼がいますよ」


 花ちゃんが指差した部屋の隅には、黙々とタイピングしているわんちゃん。静かだ。静かすぎて置物と大差ない。


「……わんちゃん、いてもいなくても変わらなくない?」

「そんなことないですよぅ!じゃ、私行ってくるんで!さよならっ!」

「あ、ちょっと花ちゃん!」


 裏切り者!と叫ぶが、既に花ちゃんは視界から消えていて、返事はない。

 後に残ったのは、俺とわんちゃん。…………そして、烏谷迅。

 ……仕方がない。ここは俺もわんちゃんに倣って、静かに仕事を進めよう。仕事に集中すれば、そのうち気まずさも忘れられるはずだ。

 無理矢理自分を納得させて、会計席に座り直した。

会長のキャラ迷走中?(汗)

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