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副会長の恋愛迷走日誌  作者: 回めぐる
副会長の恋愛迷走日誌
10/22

「駿河」


 まだ夢を見ているのか、僕は。


「駿河。おい駿河」


 それにしても、九藤の声は耳に心地良い。ずっと聞いていたくなる。


「駿河」

「あー……九藤、もう少し喋っていてください。それを子守唄にしてもう一眠りしたいです」

「お前起きてんじゃねえか」


 びしっと額にデコピンされた。地味に痛い。衝撃で思わず目が開いた。そこに広がったのは、保健室の天井をバックに僕の顔を覗き込む九藤の姿。

 九藤の、姿。


「九藤!?」


 直後、額と額がごちーんといい音を立てた。


「ちょっ、ってえな!少しは落ち着け!」


 反射的に身体を起こした僕は、九藤に見事な頭突きを食らわせてしまったらしい。


「いったたた……すみません、九藤の顔があまりにも至近距離にあったので照れてしまって、つい」

「お前ほんと俺のこと大好きだな……」


 呆れ混じりの声に、僕は素直にこくりと頷いた。事実である。

 デコピンと頭突きでかなりのダメージを受けた額を押さえつつ、僕は尋ねる。


「あの後、どうなりました?」


 僕の記憶は、講堂の大ホールに九藤が風紀委員たちを引き連れて乱入、委員長も参戦し場を鎮圧したところまでで途切れてしまっている。

 あそこで気絶してしまった要因としては、流血もさることながら、溜まった疲れが一気に出てしまったことも大きいだろう。睡眠時間が不足していた中で、あんな騒動に巻き込まれてしまっては、そりゃあ過労が祟りもするだろう。無論、僕も睡眠不足ではあったが、九藤は僕よりも睡眠時間を削って学園祭の準備に当たっていたが。

 そんなこんなで、僕の体内時計は今、狂いまくっている。

 僕の質問に、九藤はベッドを囲んでいたカーテンをサッと引いた。そこには見慣れた保健室が広がっていて、窓からは僅かに傾いた日が差していた。昼下がりといった風で、壁掛け時計を見れば、時刻は一時過ぎ。


「お前はほぼ一日寝ていた」

「……みたいですね。ご心配をお掛けしました」

「いや、お前は寝言で『九藤好きです。愛してます』とかむにゃむにゃ言ってたから、意識が戻らなかったらどうしよう、みたいな心配はしなかったけどな」


 寝言でも起きてても言ってることは変わらないんだな、僕。

 自分のいっそ清々しいほど重い愛に苦笑するしかなかった。


「白石は停学処分と今後一切の生徒会への接近禁止、烏谷は反省文提出と風紀の監視がつくそうだ。あの場にいたF組の奴らも反省文の提出が課せられた。こんなんじゃ刑が軽いと言ったんだがな……」


 憂いを滲ませた九藤の横顔に思わずどきりとする。なんだこの色気は。ああもう、好きだ。

 そんな思考を霧散させるため、僕は思いっ切り首を横に振った。


「そんなことない、むしろそこまで厳しくしなくていいと思います。親衛隊隊員の皆さんには怖い思いをさせてしまいましたが、実害はありません」

「お前は酷い目に遭っただろう。金属バットで殴られただろうが」

「僕の危機管理能力の低さがいけないんです。それに、僕にもわかるんです」

「わかる、って何が」

「九藤を愛するあまり暴走してしまう白石隊長の気持ちが」

「…………変な同族意識を持つなよ」


 気持ちはわかる。だが、僕は絶対に白石のような真似はしない。

 あれは九藤の信頼に対する裏切り行為だ。九藤の親衛隊の不祥事は、九藤自身の評価を下げる自体にもなりかねない。それを理解できていない白石は、所詮隊長の器ではなかったのだ。

 でも、僕とて同じだ。副会長の器ではない。

 僕はゆっくりと身体を起こし、ベッドの上で正座した。


「駿河?何してんだ」

「お詫びです」


 両手の指先を揃えて深く深く頭を下げる。所謂、土下座だ。


「この度は申し訳ありませんでした。僕の判断ミスで、風紀委員会に迷惑をかけたのはもちろん、親衛隊の皆さんにも怖い思いをさせてしまった。それに、九藤も本当は怒っているでしょう?睡眠薬を盛ったこと」

「怒るっつうか、まあ驚いたけどな」


 九藤は土下座を続ける僕の頭をそっと撫でながら苦笑した。


「謝るな。今回の一件で不穏分子も炙り出せたし、いい機会だっただろう。尤も、その不穏分子が自分の親衛隊の隊長だったのは笑うしかないけどな」


 九藤が頭を垂れる僕の頰を両手で包み、軽く持ち上げた。平熱の低い、でもそれでいてやはり生きていることを感じさせる九藤の冷たい掌を、直に感じる。


「でも、今後はこんな真似絶対にするな。心臓が持たないから。……お前が無事でいてくれてよかった、駿河」


 低い声で名前を囁かれ、気づけば僕はきつく抱きしめられていた。痛いくらいの抱擁。甘いものを好んで食べているからか、微かに甘い九藤の匂いを至近距離で感じる。


「……って、あれ、え?……ええっ?」


 なんだこの急展開は。

 僕の脳内は九藤で埋め尽くされ、既にキャパオーバー寸前までに達していた。

 どうしよう、何これ、どうすればいいの、九藤は一体どういうつもりなんだ、ていうか九藤いい匂いがするもっと嗅ぎたい。

 状況が呑み込めず混乱に陥る僕に、九藤は更に爆弾を投下する。


「くそ、これから行かなきゃいけないところがあるってのに……離したくねえな、お前を」

「うええっ!?」


 離したくない?僕を?

 思わずがばりと九藤を引き剥がし、その顔を凝視する。


「本物の九藤、ですよね」


 顔のパーツのひとつひとつも、その並びも、黒子の位置ひとつ取っても、寸分の狂いなく、目の前にいるのは本物の九藤だ。毎日眺め続けていたのだから、九藤を見間違えるはずがない。

 じいっと見つめていると、形のいい眉は八の字になり、眉間に皺が寄った。


「いきなり何を言うかと思えば、なんだそれ。俺が九藤雪隆じゃないなら一体なんなんだ」

「だって九藤、おかしいです」

「何が」

「言動全部がですよ!さっきからどうしちゃったんですか!」


 九藤の肩をぎゅっと掴み、力説する。


「僕の知ってる九藤は、僕がどれだけ告白しようが永遠の愛を誓おうが、なんとも言えず微妙な顔してスルーする人です!九藤は『離したくねえな、お前を』なんて小っ恥ずかしい台詞を言うようなタイプじゃない!」

「小っ恥ずかしくて悪かったな!」


 顔を若干赤くしてそっぽを向いてしまう九藤。ほら、こういうところもおかしい。普段の九藤はこんなことで取り乱して赤面したりしない。

 九藤は訝しむ僕をキッと睨んだ。


「甘い言葉のひとつも吐きたくなるだろ。俺は誰かと付き合うのは初めてなんだよ」

「なんと。九藤の初体験を頂けるなんて光栄です」

「お前その言い方語弊があるからやめろっ、あー調子狂うな!俺はもう行く!お前も動けそうになったら生徒会室に来い!」

「はい」


 なんだか知らないが自棄になった九藤が保健室を出て行くのを見送る。……と、そのとき、何かを思い出したらしい九藤が振り返った。


「……おい駿河。一ヶ月記念はスイーツバイキングだから開けとけよ」


 それだけ言って、今度こそ保健室を後にした。

 ふむ、一ヶ月記念はスイーツバイキングか。九藤は甘党であるが、どうもそれを隠したがるきらいがある。ひとりでスイーツバイキングには行きづらいのだろう。


「………………一ヶ月記念?」


 ちょっと待て。さっき九藤はなんと言った?『お前その言い方語弊があるからやめろ』、違うもっと前の言葉だ。


『誰かと付き合うのは初めてなんだよ』


 付き合うのは、初めて。誰と付き合うって?僕とだろう。それで、一ヶ月記念は一緒にスイーツバイキングに行こうと九藤は言ったのだ。


「……え。僕、九藤と付き合ってる……?」


 確かに告白したけれども。何百回何千回と吐いた愛の言葉はスルーされたのに、たった一回の告白は……受け入れてくれたのか?

 

「くっ……九藤っ!」


 気づけば僕はベッドから飛び降りて、上履きも履かずに保健室を飛び出した。遠くで学園祭を楽しむ生徒たちの笑い声が聞こえる中、人気のない廊下に九藤の後ろ姿を見つける。

 だいぶ小さくなってしまったその背中を呼び止めるため、僕は怪我人であることも忘れて彼を呼ぶ。


「九藤!くどぉおお!」


 僕の声はぼんやりとエコーしながら辺りに響いた。振り返った九藤は思いっ切り眉を顰める。


「ああ!?何やってんだ!まだ寝てろ!」

「そんな場合じゃないんですー!九藤!」

「なんだよ!」

「不束者ですがよろしくお願いします!愛してます!」


 僕と九藤の距離は、およそ二十メートル。僕の視力では、ギリギリその表情が認知できる距離。

 その距離を詰めて、愛を叫ぶ。

 距離なんかないかのように、愛を伝える。

 九藤は一瞬呆気にとられていたが、きちんとそれに返事をくれた。


「おう!知ってる、でも俺の方がよっぽど、お前が好きだから!」


 やたらめったら大声で騒いだりしない九藤なのに、そのときばかりは年相応に高校生らしい笑顔で叫んだ。

 こういう九藤も新鮮で、好きだ。

 結局のところ僕はどんな九藤も好きだ。

 さあ、保健室に戻って休もう。学園祭が終わる前までには回復しなければならない。閉会式は九藤と一緒に出席するのだから。

 それが終わったら、九藤を後夜祭に誘おう。学園祭を一緒に回るという目論見は潰えてしまったが、問題ない。大体、九藤と一緒なら僕は何をしたって楽しいのだ。

 そして、一ヶ月後は一緒にスイーツバイキングに行く。夢の中で僕らが何処に行ったのかは忘れてしまったが、別に構わない。

 九藤と一緒なら何処に行くのも楽しい。例えそこが、出口が見えない迷路の中で、そこを彷徨い迷走していてたとしても、僕は大丈夫。


 

 だから今度は睡眠薬なんか入っていない、甘い甘い蜂蜜入りのホットミルクを一緒に飲もうか、九藤。

最後無理矢理終わらせた感が……(汗)

そのうち番外編とかも書きたいなって思ってます。

ちなみに駿河要と九藤雪隆、ふたりは付き合ってしばらくした後、お互いを「かな」「ゆき」って呼ぶようになります。バカップルになります。


らびゅらびゅバカップルはかわいいと思います!

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