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第二話 親友が好きな彼女の話

「あー胃がいてえ」

「大丈夫か吉野。お前、最近忙しいから、胃をおかしくしたんじゃないか」

「ちげえよ。お前のせいだよ。どうしていつまで経ってもデートのひとつも誘わねえんだよ。一応一緒に飯行ったよな?とりあえずちゃんと顔見知りにしてやっただろ?どうしてデートに誘わねえんだよ」

 思わず大声で怒鳴りそうになったのを、ぐっと堪えながら小声でどすを聞かせて言う。ここは会社だ。かっこよくてイケメンな逸見さんの話に聞き耳立てている女どもの耳に入ったらぜってーめんどくさそうなことを、逸見のために堪えてやってんのに、こいつはいまいち俺の努力ってものが分かってない。イケメンむかつく。高学歴滅びろ。絵美とくっついた

ら、ぜってーうまいもん奢らす。ってか今日奢らせる。

 仕事が超絶忙しくてフラストレーションが溜まっている俺はそんなことを考えながら逸見をまくし立てる。しかし逸見はいつも通りクールでカッコいい感じで落ち込んでみせる。

「それなんだが……どうやらうまくいかなくて」

「は?」

「きちんと誘っているつもりなんだ。なんだが、どうやら彼女、社交辞令ととっているみたいで…」

「あー……」

 まあ仕方ないか。逸見だもんな。それに絵美だもんな。

 ふつうの女だったら、例えそれが社交辞令でも逸見の誘いは喜んで受けるだろうが、絵美はめんどくさがり屋だ。実りのないイケメンとのデートより、家でごろごろお気に入りの日本酒片手に漫画を読むコースの方が魅力的だったんだろう。

 というかとりあえずありがとうございますぐらい言って食事くらい行っとけよ。お前彼氏いねえだろ。とりあえず逸見は無理でも次に繋げるとかあるだろう。

 と、絵美に対して女友達のようなつっこみをしたくなってしまうのは、なんだかんだ言って絵美のことが友人としてすごい好きだからなんだろうなと自己分析する。

「まあ絵美だからな…」

「吉野、お願いだ。どうにかもう一度だけ吉野さんと会う機会を作ってくれないか。」

「……分かった。今回だけだからな。あとはお前、自分でがんばれよ」

 そう言って俺は逸見のお願いを聞くこととなり、逸見を引き連れて絵美の働くフロアまで足を延ばしたのだった。



「どうしたの吉野……と逸見さん?」

 絵美連れ出してフロア出て、廊下まで引っ張ってきたはいいが、逸見を連れてきたことに若干後悔していた。

 忘れてた。こいつ、モテるんだった。さっきからやたらと女子社員の目が痛い。絵美が働く部署は一般職の女子社員が多く、そいつらの多くは総合職の中のエリート、取り分け若手有望株の逸見のことを虎視眈々と狙っている。機会あればお近づきになりたいとすり寄ってくる女たちを俺は今まで何人も見てきた。いや。別にそういう女が嫌いなわけじゃないんだが。

「目立つな……」

「?」

「まあね」

 分かっていないのは本人ばかりである。

 さて。外野はさておき(いや。逆に絵美と噂になってくれたら外堀から埋まるかもしれない)俺は本題に入ることにした。

「茂知野。今日業後暇か?逸見とうまい飯食いに行こうって言ってるんだけど、お前もどうかなって思って」

「美味しいごはん…?」

「そう。茂知野が好きそうな飯屋だったからさ。お前好きだろ。九州料理」

「東一!れいざん!鷹来屋!」

「あるんじゃないか?酒の種類も豊富だって、な?」

「あ、ああ……」

「でも、逸見さんいるのに、なんで私…?あ、もしかして…」

 そう言って絵美は俺の隣にいる逸見を見やる。逸見は絵美に見つめられてたじたしだ。こんなイケメンなのに、うろたえる逸見が面白い。

「真壁さんですか、それとも宮下さんですか……?」

 絵美は神妙な面持ちで小声で逸見に話かけた。

「え?」

「あ。分かりました。藤野さんですね。分かってますよ。私だってそんなに鈍くないです。ようするに、逸見さんと経理課の意中の女の子の間を取り持ってほしいんですよね。分かります。男性と女性の比率おかしいですもんね。もう一人女性が必要ですよね。分かります。じゃあ私、藤野さん誘ってきますね」

 どうやったらそうなる。

 ぐっとサムアップした絵美は、それからだっとフロアにかけてった。

 なんていうか、さすがに可哀想すぎる。

 横をみるとさっきの姿勢のまま固まった逸見がいた。

「……おい」

「…え?」

「あんなののどこがいいんだよ。察し悪いし恋愛神経ないし。」

「うん…」

「俺がもっといい女紹介してやるって」

「ありがとう。吉野。でも、やっぱり茂知野さんがいいんだ」

「なんであいつがいいんだよ…」

「うん。いつだったっけな。吉野が泥酔したときに茂知野さんちに運んだことあったの、覚えてる?」

「覚えてないけど…覚えてる」

「そのときの吉野さん。会社とは全然違っていてさ」

「あー」

「顔がいつもと違ったし、服もなんだかおばあちゃんみたいだったし。でも、突然押しかけた俺たちにちっとも嫌な顔しなかったんだ。部屋もこざっぱりしてて、なんだか好感を持った。おまけに寒いからって熱燗だしてくれたんだよ。俺こたつ使ったのも、半纏つかったのも、女の子のうちで熱燗飲んだのも、雑魚寝っていうのしたのも、それが初めてだったんだ」

(あいつ、なにやってんだ…)

「なんか、すごく嬉しくってさ」

 イケメンの考えることは、俺にはよく分からなかったが、友人は確かに俺の元彼女のことが好きらしかった。

「分かった。とりあえず目的は達成したんだ。これからはお前の努力次第だからな。とりあえず次に続けろよ」

「うん」

「それと、知ってると思うけど、俺、藤野と付き合ってるから」

「うん。知ってる」

「でもぜってー絵美には言うなよ」

 そう言いながら、俺は自分の彼女である藤野雪にどう言い訳したらいいものかと、頭を悩ませていた。



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