おでかけ日和
「……ユズさん、邪魔、なんすけど」
「気にしない気にしない」
いや、気にしないって……足の間に座られたらあたしなんも出来ないし。
仕事したいんだけどなぁ。
「あゆむ」
「……なんすか」
「あーゆむ」
「だから、なに」
「ふへへっ、呼んでみただけ」
「次それやったら殴るから」
「照れちゃって」
「…………」
どーしよう、可愛くない。
今イラってした、イラって。
あれ、あたしなんでこんなやつ好きになったんだっけ……まてまて、こいつ何歳だっけ。
パソコンとあたしの間に入り込んだ男に殺意が芽生えるのはいつものこと。
知り合って16年、付き合って7年。
同居し始めて3年のあたし達は、今年で23歳になる。
奇跡的に大学に入れたこいつは今年卒業。
大学に興味がなかったあたしは社会人5年目だ。
「アユちゃん」
「だーから、なによ」
“アユちゃん”は、構ってほしい合図。
確かに最近、仕事で帰りが遅くなることが多くて、ろくに顔合わせる機会を作れてもいなかった。
寂しいわけだ……面倒くさい。
「仕事忙しい?」
「忙しい」
「構ってくれる時間は?」
「ない」
「ですよねー」
ふくれっ面がこんなに似合わないなんて何事だろう。
こんなやつでも、少し前に大学の(多分学部の)“ベスト彼氏ランキング”とやらで1位になって表彰状 紛いなものを貰ってきてたっけ。
世の中の価値観下がってないか?
こんなのが彼氏なんて同情するよ……って、あたしか。
……やばい、悲しくなってきた。
「アユちゃーん」
「……わーかったよ、今日だけね」
「やった!」
こいつの言いたいことは分かってる。
昨日、帰ってきたらテーブルの上に置いてあったから。
「ってか、なんで動物園なの」
「だって歩、うさぎ好きでしょ?ここだったら“ふれあい広場”あるから癒されるかなぁって」
「小学生と一緒に戯れる会社員って、面白すぎない?」
「っあ、そっか……」
叱られた犬みたいにシュンとしたこの顔が好きだなんて、あたし、相当やばいな。
……いや、無意識の内にペットみたいに扱ってるのかも。
いやいやいや、笑えない。
「行くけどね」
「へっ」
「なに、行かないの?」
「い、行く行く行く!」
テーブルで待機中のパソコンを閉じて立ち上がる。
飲みかけのコーヒーを一気に煽って時計を見ると9時を少し過ぎたところで。
「後10分で準備できなかったら中止だからねー」
「やーっ、待って!」
慌ててクローゼットに駆け込んでいった譲に声を掛けながらコップを洗う。
化粧は……いっか、ユズだし。
疲れるであろう1日の始まりを、それでも楽しみに思ってしまうあたり、なんだかんだであたしもあのバカにベタ惚れだってことだろう。
そう思うと自然と口元が緩んだ。
こんな休日も、たまには悪くない。
end.