☆第七話 秋霖[しゅうりん]
雨が陰鬱にシトシト降っている。昨日は清々(すがすが)しい快晴で、学校の遠足がある日だったので助かったし、充分に満喫させて戴いて本当によかった。万一、今日だったらと思うと、ぞっとするな…と、僕は教室の机に座り、給食中、窓向こうに降りしきる雨をじっと眺めて考えていた。
家へ帰る道中も、帰っても、雨はいっこう止む気配を見せず、ただ降り続いていた。
某局のTV天気予報で、気象予報官がこの雨を秋霖だと解説した。その云い分は、初秋の頃にシトシトと降り続く長雨だそうである。ということは、秋でも一日しか降らなかったり、時折り止む雨は秋霖とは呼ばれず、仲間外れにされた雨なんだなあ…と思った。その後、雨は夜になっても降り続いた。
「よく降るなあ。まあ、今の雨は梅雨と違ってモノが黴ないからいいが…」
僕に話すでなく、庭に落ちる雨滴を見ながら父さんが云う。大人なんだから、もう少し子供を唸らせることを云えよ…とは思うが、一家の長である以上、そんなことは口が裂けても云えない。
「ほんと、よく降るね…」と、一応は暈して付き合い程度の言葉を返したが、気持ちは他のことを考えていた。
「間引き菜のオヒタシは美味いですねえ…」
母さんにヨイショするじいちゃんだが、確かに僕も美味しいと思った。じいちゃんが夕方、暗くなる前に畑で間引いたダイコン菜である。かろうじて葉がダイコンと分かる程度のものを傘を差しながら採ったお手間入りである。
「秋霖の時期は、すぐ苗が大きくなる。それに雨降りは、何故か畑へ行き辛い…」
じいちゃんは当たり前のことを、しみじみと云う。年を重ねた者の言葉は、当たり前だけれど、やはりそれなりの重みで聞こえる。秋霖に対して触れる言葉でも、父さんの言は軽く、じいちゃんのは重いのだ。体重は中年太りでじいちゃんよりは優に十キロは重い父さんだが、反比例して、言動の重さは逆に十キロはマイナスに思える。
「洗濯ものが乾かないから困るわ…」
母さんも、この秋霖にはお手上げのようだ。主婦泣かせの雨、それが秋霖か…と、思った。ただ、地面が濡れていると、土埃が家の中へ入らないから掃除は助かるとも云う。この観点だと、主婦助けの雨、となる。まあ、僕にすりゃ、どっちだっていいやと、最初は思っていた。ところが、よ~く考えれば外で遊べないから、やはり青空が広がる爽快な晴れの日がいいという想い至った次第である。晴れの日だと、じいちゃんの頭が某メーカーの洗剤のような光沢を増すという特典も加味されるから、それを観る楽しみもあり、そろそろ秋霖は御免蒙りたい。
第七話 完




