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☆第五話 お月見

━ 名月を 取ってくれろと 泣く子かな ━ 

 こんな句を、じいちゃんから聞いたことがある。僕の場合、別に泣きはしないが、名月には付き物の月見団子を頬張りたいとは思う。

「明日はいよいよ十五夜か…。朧月もいいが、何といっても中秋の名月だ。━ 月々に 月見る月は 多けれど 月見る月は この月の月 ━ というのもあるからな」

 よく分からない僕は、じいちゃんの隣りで、ふ~ん…と、適当に合いの手を入れておいた。まあ、早口言葉のようだから学校で流行らせてみよう…とは思ったのだが。それで、じいちゃんに訊ねると、道長とかいう平安時代の偉い人が詠んだ和歌だと云う。しかし、これには逸話がある。実は、じいちゃんが解説したこの和歌の作者は不詳で、道長さんが詠んだのは、「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思えば」だと、じいちゃんが珍しく、僕の部屋へ訂正しにきた…という逸話だ。さて、本筋の話に戻ると、その後、僕はじいちゃんの離れから自分の部屋へと撤収した。

 次の日も天気はよく、夜になるとじいちゃんが云っていた中秋の名月が僕の家に挨拶にやってきた。我が家としては、ススキにお団子で歓待しているのだから、それも当然のように思えた。

「なんか、ススキと月が似合いますねえ…」

 居間で将棋を指しながら、父さんが庭先を見遣り、じいちゃんにそう云った。

「…そうだなあ。秋の月には確かに合う」

 次の一手を長考していたじいちゃんは、父さんの言葉で我に返り、同じように庭先を見遣った。

「おい、正也。すまんが電灯を消してくれ」

 唐突に、じいちゃんが声をかけた。

「ああ、…ハイッ!」

 僕は師匠に即答して、ご機嫌を伺った。

 電灯を消した居間は妙な静寂が流れ、蒼白い月明かりが煌々と文明以前の時代を照らし出しているように思えた。特に、じいちゃんの禿(はげ)頭は、某メーカーの風呂用洗剤Yで磨いたタイルのようにテカっていた。しかもそれは、電灯光とは違う、一種独特の微妙なテカりで輝いているのだった。

「さあ、団子をお相伴(しょうばん)にあずかりますか?」

「おっ、そうだな」

 そこへ母さんが現れた。

「綺麗なお月様…。今、お茶にしますね」

「未知子さんは、いつもタイミングがいい!」

 ベンチャラの積もりでもないんだろうが、じいちゃんは、いつも母さんには一目、置いているように思える。

 静まり返った居間に月明かりが射す風景、そこで黙して月を()で、団子を頬張り、そして茶を啜る。これぞ、日本文化の醍醐味ではないか(とか云いつつ、その実、僕は団子を頬張ることだけに醍醐味を覚えていたのだが…)。

「父さんに叱られないんで、今夜は返って気味が悪いですよ」

「ははは…。今日ぐらいは、な。まあ、そのうち(まと)めさせて貰う」

「怖いですねえ」

 中秋の名月が照らす居間に、いつまでも四人の笑い声が響いていた。                                                     第五話 完

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