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☆第四話 遺伝

 秋ということで、食欲の所為(せい)か、ついつい食べ物の話が多くなってしまったので、今回は他の話題を真摯(しんし)に考えてみたい。

 じいちゃんは剣道の師範免許を持つから体育会系、対する父さんは、これという運動も学生時代からやっていないと聞くから文系とは即答できないものの一応は文系で、決して体育会系ではない。さて、メインの僕は? というと、チョコマカとよく動くものの(これは遊びが多いのだが、母さんの手伝いもある)、かといって、机に(かじ)りついているガリ勉でもないから文系とも云い難く、玉虫のような存在なのである。玉虫色の答申…とか、よく政治では云われるが、僕の場合、どちらでもなく、どちらでもある。云わば、いい加減な部類だと云える。だがこれは、遺伝の影響を受けたものであることは父さんを見れば疑う余地がない。

「お前…年の割には白髪(しらが)もなく、禿(はげ)もせんな」

 今夜も将棋の大一番が展開する居間で、じいちゃんから、そんな言葉が飛び出した。

「えっ? ははは…。そのうち、父さんみたいになりますよ」

「そうかぁ?」

「ええ…間違いなく、遺伝的なものがありますから…」

「そうとは限らんだろう…」

「まあ…そうとは限りませんが、…王手!」

「ウッ! …しかし、相変わらず付和雷同だな、お前の性分は…」

「そうかも知れません」

「やはり、付和雷同だ。そこは、『いいえ、違います』だろうが?」

「はあ…」

「お義父さま、ビールとおツマミ、ここへ置いときます」

「あっ、未知子さん。いつも、すまないですねえ」

「俺のコップは?」

「あなたの分も、あります!」

「そんなこと訊くか? 普通…。(せがれ)とはとても思えん。(わし)なら当然、持ってきて下さったと思う。これが双方の信頼関係だ。お前、儂の遺伝子を持ってる筈なんだがなあ…」

 僕は台所でテレビを見ていたのだが、丁度、スイッチを切ったその時、二人が掛け合う頃合いのいい音声が聞こえてきたのだ。途中で母さんも加わったのだが、これは、ドラマよりも数段、優れた番組に思えた。しかも生の実況なのである。で、そのままテーブルに座ったまま、風呂上がりのジュースを堪能していた。居間から戻った母さんが、「正也、もう寝なさいよ…」と云って横切り、盆を置くと洗濯機の方へ行った。母さんがバタバタしているのは家事であり、遺伝によるものではないだろう。

「いや~、今日は参った、惨敗だ。頭がいいのも儂の遺伝か?」

「はい、そのようです…」

 笑いを交えた会話が続いている。僕は部屋へ戻ろうと、居間の前廊下を通った。二人は笑顔で同時に首筋を撫でていた。これは遺伝によるものに違いないと思った。某メーカーの洗剤Xで磨かれたような光沢を放つじいちゃんの頭。こんな頭に父さんがなるのが大いに楽しみだ。

                                                                                   第四話 完

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