☆特別編(2の1) 胡桃[くるみ]
皆さんは胡桃を食べる…なんてことは、ごく稀じゃないだろうか。そこへいくと田舎暮らしの僕なんかは手馴れたくらいよく採って食べる。先だっても、いつもの森へ入り、少し早かったが実を採取した。まだ熟しきらない果肉は黄色くなっていたが、落ちるまでには至らず、柿を採る要領で竹竿に絡めて落とした。さて、落とした実はザラついた岩場で皮を擦り取り、その後、小川の水で洗って一端、袋へと入れた。誰もが知っている胡桃の形状だが、殻は頑強で硬いから、相当強い力で叩き割らないかぎり、中の実は食せない訳だ。その硬さはじいちゃんには及ばないだろうが、遥かに父さんよりは勝っている。ナッツクラッカーとかいう道具で割れば容易い。その実は栄養価に富み、僕のおやつ代わりにもなる自然からの恵みものなのだ。胡桃の木には夏だとクワガタとかカブトムシが集まっている。湿気のある日蔭を好む彼等は、幹の痛んだところに集まる。樹液がごちそうなのだ。今の季節はさすがに撤収ぎみだが、最近の温暖化で梅雨ごろにはその姿を見ることができるようになった。話が流れたので元に戻そう。
収穫した胡桃の袋はズッシリと重く、大黒さまのように♪大きな袋を肩にかけぇ~♪で、家に着いたときは少し疲れてしまった。
「おお! 大収穫ですな、正也殿」
「はあ、まあ…」
返す言葉に詰まり、僕はお茶を濁した。じいちゃんは茶通のお人だから、なかなか濁すのは難しい。
「殻のままだと腐らんからな。いつでも食えて重宝する。まあ、嵩のわりにはチョビッとだがな…」
「そうだね…」
ここは素直に返事するしかない。実は昨日、じいちゃんが胡桃の話を持ち出したからだった。
「正也、明日、胡桃を採ってこい。柿、栗、キノコとスケジュールが押してるからな。今のうちだぞ」
「…うん、そうするよ」
師匠に逆らうなどはもっての他だから、僕は従うことにしたのだった。
母さんは料理の隠し味に胡桃を使う。僕はおやつ代わりに食べる。父さんも、「これは健康にいいからなっ!」と、彼にしてはアグレッシブな能書きを垂れ、薬代わりに食べる。愛奈はさすがにバブバブだが、他の家族全員は食べる。…いや、味わう程度の少量だが、概して食べる訳だ。タマとポチは内容物がきわめて少ないから見向きもしない。じいちゃんは僕に合わせるようにほんの少しだけを食した。なんでも、入れ歯だから、この手のものは不具合らしい。そのフガフガ話は理に適っている…と僕は思った。
胡桃は他にも野趣ある利用法がある。二つを手に握り、殻同士を擦り合わせると、なんともいえないゴリゴリ…とかのいい音色を奏でるのだ。少し蛙さんの鳴き声にも似た音だが、僕なんかは、これでよく遊ぶ。テレビゲームなどは、まったく眼中にない僕だが、この胡桃合わせで俗界を離れる…とは、じいちゃんの影響、いや、師匠の影響が絶大であることは申すに及ばない。




