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☆第二十話 長袖(ながそで)

 秋も深まると、そろそろ肌寒さを意識するようになる。この頃になると虫のすだきも弱まり、そろそろ冬将軍の『こんちわっ!』が気がかりになるのだか、今年は割合と早く、その声がした。木枯らし一号である。

「おいっ! 長袖にしてくれ」

 父さんが風呂上がりに母さんへ注文をつけた。それでなくても雑用が多い母さんは愛奈まなをあやしながら迷惑この上ない顔をした。無言で、『それくらい、自分でしてよっ!』とでも言いたげな視線だ。

「分かった、分かった…」

 父さんもそれを感じたのか、自らクローゼットへ向かった。久々に見るか細いパンツ一枚の父さんの姿…ああ、なんと貧相で哀れを誘うことか、と僕には思えた。じいちゃんには一年中、長袖という言葉が不要だった。我が師匠だけのことはあり、冬は寒風摩擦で身体から湯気を昇らせ、雪道を裸足はだし闊歩かっぽされるお人なのだ。ましてや、今の木枯らしの季節だから不要なのは必然だった。

「ふん! 情けない奴だ…」

 じいちゃんは父さんを一瞥いちべつすると、風呂上がりの一杯をグビッ! と飲んだ。今夜はかなり早く出来上がっているのか、師匠の顔はすでに赤く、僕の前にはゆだった大蛸おおだこが一匹、くつろいでいた。…この表現は少々、師匠に失礼になるから修正すると、赤ら顔の仏様が鎮座しておられた、となる。しかしこれは、逆にヨイショし過ぎに思える。要は、赤ら顔のご老人がおられた、くらいが相当だろう。まあ、長袖が年中不要なお人だから並みではない。そこへいくと僕は並みの代表だ。父さんほどではないから今は不要だが、もう少しすれば長袖が必要となるだろう。愛奈まなはセレブで至れり尽くせりだから、そんな気遣いは一切、必要がない。すべては母さんによって快適に暮らせるのだ。すでに風邪をひかないよう厚手の衣装に身を包まれておいでだ。タマは長袖を着る訳にはいかないから、冷気を避けるように毎年、お決まりの部屋の片隅で眠るようになった。そこへいくとポチは夏場のようにハァ~ハァ~とせず、益々、元気に動いている。どうも寒い方が向いているみたいだ。むろん、タマと同じく長袖は着られない。両者とも着られないが、厚手の毛並みがある。これからの季節、僕はそれをうらやましく思う。母さんは家事労働で動き回っておいでだから寒い方が返って好都合なのだろう。とはいえ最近、薄手のブラウスはお召しになるようになった。セレブな実家から送られたブランドものだ。

                   第二十話 完

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