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☆第二話 吊るし柿

 僕の家には、かなり古い柿の木がある。それは、僕が生まれるずっと以前から家にあると云うんだから、これはもう、大先輩と云わざるを得ない。腰のひとつも揉みほぐし、温泉にゆったり浸かって貰いたいくらいのものなのである。今年も、たわわに実を付け、採るのがもどかしいほどだった。母さん、じいちゃん、そして僕の三人で何度かに分けて収穫し、捌いていった。捌くといったって、せいぜい都会の親戚へ送ったり、或いは柿の木が無いご近所にお裾分けしたり、母さんが熟れた実を調理して柿ジャムにする程度なのだ。後は全て皮を剝き、吊るし柿にする。

「今年も嫌になるほど出来ましたね…」

 我が家で柿に関しては唯一の部外者が顔を出し、柿の皮を剝くじいちゃんにひと言、吐いた。

「フン! いい気なもんだな。お前に手伝って貰おうとは云っとらん! なあ、正也」

 流れ矢が分別する僕めがけて飛んできた。

「ん? うん…」

 と、気のない返事で曖昧に暈し、僕はその流れ矢を一刀両断した。暈したところが技の妙で、どちらに肩入れするでもない風な言葉を発したのだ。僕にとって父さんは、給料を貰ってないまでも大事な社長だし、じいちゃんは会長の重責を担うから、どちらも捨て難い。

「これでいいんですね?」

「はい、それを持ってって下さい。熟れてますから…」

「美味しいジャムが出来そうですわ」

 母さんが台所から柿を取りにやって来て、これで我が家のオール・キャストが一堂に会した。

「吊るして、どれくらいかかるの?」と、僕が訊くと、「ひと月もすりゃ食えるが、正月前には、もっと美味くなるぞ」と、じいちゃんは柿の実のように色艶がよい顔で云う。

「毎年、我が家の風物詩になりましたね」

 部外者の父さんが口を挟む。

「ああ…、それはそうだな…」

 珍しくじいちゃんは父さんに突っ込まず、穏やかな口調で答えた。

「吊るし柿は渋柿じゃなかったんですか?」

 父さんが、いつもの茶々を入れた。

「やかましい! (うち)のは、こうなんだっ!」

 じいちゃんは、さも、これが我が家の家風だと云わんばかりに全否定した。よ~く考えれば、この二人の云い合いこそが我が家の家風なのである。

 西日が窓ガラスから射し込んで、じいちゃんの頭を吊るし柿のように照らした。某メーカーの洗剤Xが放つ光沢にも似て、ピカッ! と光るその輝きは、並みのものとは思えなかった。                                                 第二話 完

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