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☆第十七話 赤とんぼ

 随分と日没が早くなった。

「正也、これくらいでいいだろう…」

 じいちゃんと共同作業で落ち葉を掃いていると、師匠から終了のお声が届いた。「うん!」と可愛く返事して熊手くまでの動きを止めた。空は薄紅色に染まり、日没の斜光がオレンジ色で射し込む。小一時間も掃いていたから落ち葉が小山のようになっていた。じいちゃんに視線を向けると、麦藁帽むぎわらぼうの上に赤とんぼがフワッと乗った。じいちゃんは気づいていない。師匠は無言で熊手片手に離れの方へ歩き始めた。僕も慌てて後方に従った。

「明日は焼き芋だな!」

 笑顔でそう言われると、やはり嬉しいものだ。僕のような昔人間は、市販のお菓子よりもなぜか美味に感じるのだ。人工の味ではなく、自然の味はいい。とか言って、その実、シュークリームは美味しいから食べたいのが本音なのだが…。

 熊手を物置へ収納して母屋へ戻ろうとすると、じいちゃんが寄っていけ、と言う。無碍むげに断ると、とばっちりの可能性もあり、そこはそれ、甘んじて招待に応じた。相変わらず警察の表彰状、剣道の允許状、刀剣登録証など数々のがくが所狭しと連なってかかる剣道稽古場を横切ると茶室がある。まだ赤とんぼは、じいちゃんの麦藁帽の上だ。僕は麦藁帽を見続けた。

「んっ? どうした、正也…」

 じいちゃんはそれに気づき、怪訝けげんな顔をした。

「じいちゃん、赤とんぼ!」

 僕が指さした瞬間、じいちゃんはピン! ときたのか、やんわりと麦藁帽を脱いだ。赤とんぼは逃げようともせずくつろいでいる。こんな赤とんぼは今まで見た記憶がなかった。

「ほう…度胸の座ったとんぼだ…」

 感嘆とともにじいちゃんは静かに麦藁帽を畳の上へと置いた。赤とんぼは、まだ逃げない。

「どれ! お茶でも一服、召し上がられますかな?」

 じいちゃんが赤とんぼに語りかける。赤とんぼは、『はい!』とばかりにうなずいたように僕には見えた。そのとき、母さんが愛奈をあやしながら声をかけた。

「お義父さま! そろそろ、お夕飯にしますから…。正也もねっ!」

 父さんが相変わらず下手なハーモニカを吹き始めた。次の瞬間、赤とんぼは聴きたくない! とばかりに飛び去った。

                   第十七話 完

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