☆第十六話 主張
リリ…ンと虫が集く。いい塩梅の気温で、まだ肌寒いというほどではない。雌に対する雄の主張で、彼等は子孫を残そうと必死なのだ。主張しなければ成果を得られないのが地球上にいる生物の宿命のようだ。愛奈は泣くことによって身辺の異常を主張する。父さんは会社の宴会で得意の裸踊りを披露することで存在を主張する。ただ、彼の場合、仕事に関しての主張はないようだ。じいちゃんは豪快さで自分を主張している。家族の誰もが、じいちゃんを否定できないのだから、無言の主張と言えるだろう。僕の場合は、「はぁ~い!」と可愛く返事することで、お小言を未然に防ぐ、という僕独自の主張を心がけている。この効用は、可愛い子…と思わせるいい面もあるから、一挙両得の感が否めない。
「今日の松茸づくしは美味でしたね」
「お前は言うな! 部外者が…。それはわしと正也が言う台詞だ!」
父さんは今日もじいちゃんに叱られた。しかし偉いもので、言い返さず、自分の主張はしない。タマがそのとき、ニャ~と美声で鳴いた。僕達だけが美味いものを食べるというのも、いかがなものか…と思えたので、今日は缶詰めを食べてもらったのだが、どうもそれが好評だったようだ。動物は人間のようにそうは自己主張できないから、僕がそれを感じなければならない。植物に至っては動かないから、なお一層、難しい。母さんの主張…これも余り思い当たる節がない。家事に専念され、育児に専念され、更にはPTA役員に専念される彼女の主張は…と考えてみれば、やはりホホホ…ぐらいしかない。母さんは、やり切ることで自分を主張しているのではあるまいか…と思える。
個人的な主張は微妙に人間関係を良くも悪くもする。食卓に残った一片の松茸…。さて、誰が箸を出すか…。この主張は誰もしたいのだろうが、ジッと遠慮して沈黙を保つ。早い話、鋏で均等に四等分して食べればいいだけの話だ。
第十六話 完




