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☆第十話 マフラーの夢

「もういいよ! 古いのがあるから…」

 と、僕が夕飯時にゴネているのには、明確な理由がある。実は明日、巻いて出ようと思っていたお気に入りのマフラーが見つからないのだ。

「確か…このタンスへ入れたんだけど…」

 嘆きながら、母さんは場当たり的にアチコチと三十分以上も探している。宝探しでもあるまいし、ところ構わずイジれば出てくるというものではないだろう…とは思うのだが、稼ぎのない居候の身の上では返す言葉もなく、好きにして戴くしか手立てはない。

「…なんだ、探しものか?」

 新聞を読み終え、居間から奥の間へ入ったのか、父さんの声がして、母さんに問い掛けた。僕は台所のテーブル椅子にいて、母さんが持ってくるマフラーを意味もなく待っていた。夕飯前だから、母さんも小忙(こぜわ)しい時間帯なのだ。夕飯準備の途中にマフラーのことを云った僕にも責任があるから、悪く思った僕は、茶碗とお皿ぐらいは…と、テーブルの上へ並べ始めた。少なからず後ろめたい気持がした為である。そこへ武士のじいちゃんが満を持して入ってきた。

「なんだ? 飯はまだか…。正也、未知子さんはどうした?」

「ん? 探しもの…」

「探しもの、とな? …よく分からんが、飯より大事なものらしいな」

 僕は敢えて答えなかった。武士に対して、『僕のマフラーを…』などとは、とても尋常に語れたものではない。まず、そんなことはないとは思うが、場所が台所だけに、茹で蛸に変身した武士に包丁でスッパリ斬られては元も子もなくなる。それは飽く迄も有り得ないシナリオなのだが、そんな気持も心の奥底にチビリとあり、僕は敢えて答えなかったという訳である。

 五分後、とうとう()をあげたのか、母さんは無言でテンションを下げ、夕飯準備の続きをしようと台所へ入ってきた。後ろから、付き合って探していた父さんも入り、その日の夕飯はいつもより雑然とはしたが、それでも平穏に終わった。

 その晩、僕はマフラーの夢を見た。夢の中へ探していたマフラーが現れ、「ドコソコにありますから…』と、告げたのである。

 朝、目覚めた僕は、朝食の準備をしている母さんに、そのことを云った。母さんは、ドコソコへ小走りした。すると、不思議なことに、そのマフラーはドコソコで見つかった。この一件は我が家で物議を醸し出し、一週間に渡り、この話題で持ち切りとなった。

 今思えば、僕の記憶のどこかに、マフラーを収納する母さんの映像が残っており、それが単に夢となって現れたのだ…と思える。また、そう思わないと、秋が更けていくというのに夏場の怪談めいて寒くなる。まあ、某メーカーの洗剤Xで磨いたようなじいちゃんの神々しい頭だけは、夢ではなく、紛れもない事実なのだが…。                                                      第十話 完

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