世界脳
驚くことの多かった食事も終わり、今日はどうしたらよいのかと悩んでいると、ポーン。とエレベーターが来客の訪問を告げる音を鳴らした。400年経ってもこの音は変わらない名だなー、などと思った。エレーベーターから降りてきたと思われる人物の足音がどんどんこの部屋に近づいてくる。ガチャ、と音を立てて、現れたのは
「おはよう。」
そう、眠気も吹き呼ぶようなはっきりとした声とともに現れたのは、我らがリーダー。十 美里だった。
俺を除いた二人が、美里さんと目を合わせると何かを受けっとたかのような、タイミングの良さで立ち上がり、
「私たちごみを出しに行かなくちゃ」
と言って部屋から出ていった。二人が出ていった部屋に二人取り残される。あの、と口を開くに前に美里さんがしゃべり始めた。
「君の学生としての時期を過ごさずに置くのはもったいないと思ったので、君には学校に転入してもらうことにした。」
「え、学校ですか?」
「そう、学校だ。だが、君にはこの時代についての基本的な知識についてなど色々と欠落している部分があるので、今すぐに転校というわけにはいかないがな。」
「じゃあ、その知識不足をどうやって補ったらいいんですか?今から何週間も勉強漬けなんて嫌ですよ…。」
前にいた時代でも基本的に勉強とつくものは大概避けてきたのだ。別に頭が悪いわけではないが、特出していいわけでもなかった。よくて中の上ぐらいだった。
「大丈夫、準備をすれば半日もあれば済むさ。まず、その準備をするために出かけるぞ。」
もしかして、二人きりでのお出かけってことですか!
「では、出かける準備を…って何もないか、なら行くぞ。」
~半時間後~
俺は、ビル一面ガラス張りの病院のようなところの玄関口にいた。天気は快晴。ガラスに反射する日光がまぶしいくらいだ。
今は美里さんの姿はない。ここで、できるだけ人に見つからないように待っていろとだけ言われて、そこにいた。かれこれ15分ほど、ここで待たされている。全く知らない世界で一人取り残されているこの状況にかなりの不安を覚えている。
「早く、美里さん戻ってこないかな…。」
誰に言うわけでもなくそうつぶやいた一言。だが、それに反応した人物がいた。
「お兄さん、どうしたの。彼女でも待ってるの?」
ちょうど、俺の目の前を通り過ぎようとした、婦人がそこにいた。服装も、特に薄汚れているわけでもなく、逆にきれいな紫色のドレスのようなフリフリが付いたものを着ている。
「え、あ。その。」
できるだけ人に見つかるなと言われていたのに、さらにその先の会話にまで発展してしまった。これは、受け答えをしてもよいのかと思っていると。
「あら、ごめんなさい。私、こういう者です。」
と言って手を胸の前から手前に向かってスライドさせた。
「え、?」
わけがわからない、直前の会話の流れから考えて名前を名乗るなり、何かしらの自己紹介があるわけでもなく、手をスライドさせたのだ。意図が掴めない。
そして、タイミングを見計らったかのように
「ごめん、遅く…。」
そういって建物から俺の待ち人、美里さんが出てきた。
「あら、こちらは?」
「え、っと。」
そう問われても俺自身も知りたいのだ。
「えらく別嬪さんね。私は」
そうして、また同じ動作をして
「こういうものです。」
俺とは違って美里さんはそれが何を意味するのか、分かったようで、
「ご親切にどうも。」
と言った。
「え、あなたがあの、東野 一美さんですか!」
「あら、あなた私のこと、ご存じ?」
「勿論です!私、毎日あなたの設計した『世界脳』を使わせていただいています!」
……。
しばらく俺を放置して、二人の会話に花が咲く。俺は、二人の会話の内容の半分の意味が分からずにいる。聞きなれない単語を並べられて、困る。
そんな居づらさを覚えてから5分程したところで、美里さんは俺のことを思い出したようで
「あ、私用事があるので、そろそろ…。」
「あら、そうね。彼氏さんを待たせちゃいけなわ。早くしてあげなさい。」
「また。お会いできますか?」
「そうね、近いうちでも連絡して頂戴。『電子証明』に、私アドレス書いてあるから。あなたみたいな熱心なファンに会える機会もそうそうないしね。じゃあ、また近いうちに。」
と、言って、婦人は先に建物へと入っていた。
「あの、美里さん。あの人は?」
「あー、まぁそのうち教えてあげるわ。まずは、手術が先よ。」
「え。手術って何のことですか!聞いてないですよ。」
「そりゃそうよ、私あなたに言ってないもの。当然だわ。痛くないし、日帰りだし問題ないわ。行くわよ!」
まだ、興奮冷め切らぬ。といった具合のテンションで俺を引っ張りながら建物へと入っていく美里さん。手術って何をやるの!?