作戦A
「本当にここでいいんですね?」
とあるマンションの一室の扉の前。羽石が私に問いかける。月明かりの中で二人見合わせる。このマンションは昔ながらの押し開き扉を使用しているので、扉があいた場合に死角に来る扉の裏で待機している。
「ええ、間違えないはずよ。ここから彼女の、ゆみのドリーマーの反応が来てるわ。あれは、切り離そうとして切り離せるものではないし、切り離すなら私の承諾が必要になってくるわ。」
「分かりました。」
「あなたは武器でも作って待機してて、私が先に行く。でも能力の系統が似てるから失敗するかもしれないわ。貴方にはそうなったときに物理的にゆみを排除してもらうわ。」
「物理的に、って殺せってことですか!?」
「しっ!声がでかい!!」
いつの間にか小声で会話していたのが、普通の大きさに戻ってしまっていた。聞かれてることは無いだろうけど、それでも念には念を入れてだ。
「大丈夫、貴方ならできるわ。もう一度作戦を確認する必要はある?」
「平気です。行きましょう。」
その声を合図に、ゆっくりと影を伸ばし始める。普段の任務の中で自分の能力を使うにはこの影を媒介としなければ使う事が出来ない事にもどかしさを覚えていた。だが、今回は感謝する、夜なので黒い影は気付かれにくい。影を扉の手前に円状に留める。
ピンポーン。羽石がチャイムを鳴らす。ここでゆみが出なければ作戦はBパターンに変更される。まず、出てくることは無いだろうと踏んでいるのだが、羽石がどうしても。というので最優先に設定されたA。
1分待っても反応の無いインターホン。この時点で作戦はBパターンに変更だ。
俺は出来れば危険なBパターンで作戦を遂行したくなかった。だが、Aパターンの限界待機時間の1分が過ぎてしまった。ならば、Bパターンをとるしかないのか。仕方がない。
「美里さん、お願いします。」
「分かったわ。」
そういって美里さんがふっと微笑む。