死の淵
「恵理!彼は平気か!」
マンションの最上階に着くなり美里はそう叫んだ。
「アレ、リーダーどうされました?」
状況が分かっていないのは当然だが、それにしても抜けすぎている恵理の返事に美里はいら立ちを覚えた。自分がどれだけ焦り、ここまでやってきたのかを考えると、のほほーんとしている恵理が憎たらしくてしょうがないのだが、このタイミングで私情を挟むわけにはいかないので、能力によって自分の心理を操作し、怒りを仲裁する。
落ち着いて要点を恵理に伝える。そこでようやく彼女も事の重大性に気が付いたようで、あせりの表情を見せるようになる。
「彼なら、先ほど兄に空き部屋に運んでもらいました。玄関で寝てしまわれましたので。」
「分かった、ありがとう。」
マンションの1階層まるまる使っているこのナイトビジョンズの寮には相当な数の空き部屋がある。その中のどれか、かを一つ一つ探すのは手間がかかるが、ドリーマーの場所を補足することができる美里にとっては場所を探すのは大した手間ではない。
扉には鍵がかかっていなかったので自動で扉が開いた。家の一部屋の扉でさえ自動というのは、彼のいた時代ではありえないことだったろう。エネルギー効率の上昇や、新エネルギーの発見などによって殆どの物が電動になっているのだ。
部屋のベッドでは衰弱しきった彼が横たわっていた。嫌な汗をかき、顔色も優れない。急いで彼の下へと近づき、右手を羽石の頭へと当て、集中する。今までに他人の内側に入ったことは今まで無いのだが、今はやるしかない。彼を失うわけにはいかないのだ。