自殺未遂
玄関に座ったままの彼は、私の声が聞こえてないようで未だに銃口を自分の頭に向けたままブツブツと何か言っています。そもそも、あの銃は本物なのでしょうか?専門的な知識のない私には分かりません。でも、一つだけ知っていることがあります。トリガーとよばれる部分を弾くと人間を殺すための鉛玉が発射されるという事を。彼が、トリガーに指をかけ……体が勝手に動いてました。彼の下へと歩み寄り、銃を奪います。そこで、やっと、彼と目があいました。その眼は、今時分のいる世界を見ているようで、実際はどこか違う常人には理解のできない世界を見ているような、空虚な色をしていました。
「あんた、誰だ?」
「私は、ナイトビジョンズ副リーダーの、恵理です。渡辺恵理。」
これが、私たちの交わした最初の会話でした。目を合わせ、会話をした今でも彼が同じ世界を見ているとは思えません。ふっと、空気に解けるかのように手にあった銃が消えていきます。それと、殆ど同時に彼が床にたおれこみます。
「駄目じゃないですか!ユリ。制限を早くかけなおしなさい!何やってたの!」
我らがリーダーのドリーマーことアキちゃんがリビングの方からやってきます。そして、怒っているのです。いつもニコニコしているところしか見たことが無いのでとても驚きです!
「ハ、ハイ!すいません。寝てなんかないですよ、寝てなんか……。」
と、明らかにさっきまで寝ていた感じに彼の影から出てきた、見たことのないドリーマーが出てきました。
「アキちゃん。この子は?」
「マスターから聞いてないですか?新人の十 羽石さんですよ。それと、彼のドリーマーのユリです。」
「じゃあ、彼があの?」
この業界で知らない人間はいない。と、言ってもいいほどの知名度を誇る、「十 羽石」の名前。勿論、その理由は、この世界の超能力者の出所をたどっていけば最終的に辿り着くと言われているからだ。それに、同時にこの荒廃した世界を作ったとも言われている。ある時を境に歴史からいなくなり、あるときまたふっと現れたとして、400年経った今。タイムマシンも実用化レベルとは言わなくても、ある程度の機関であれば、使えるのだが、過去に戻っても歴史から消えた時期ではどうしても見つからなかったらしい。謎の多く残っている人物であった。
「そう、彼があの彼です。」
「もしかして、歴史から消えと言われる時期というのは確か中学3年の4月からですよね?」
「そうです。」
「つまり、ここにきてしまったから、歴史から消えたのでは?」
「おそらくそうでしょうね。」
アキちゃんもそれは分かっているようです。
「とりあえず、彼どうするんですか?美里さんから何か聞いてますか?」
「勿論、ここに住むわけです。その話も今皆さんにしてきたところで、この彼が自殺まがいの事をしていたのです。ユリにはもっとしっかりしてもらいたいものですよ。伝説の彼のドリーマーに選ばれただけでも名誉な事なのに、まさか着任初日にその彼を自殺させてしまっただなんて言ったら、どうなる事か……。」
アキちゃんは意外と大変なようです。いつも皆さんに笑顔を振りまくムードメーカーだと思っていたのですが、裏で相当な苦労をなさっていたようですね。知らなかったです。
「とりあえず、部屋に運びましょうか。」
「じゃあ、恵理さんお願いします。私はこれで失礼しますので。」
「あ、ハイ。おやすみなさい。アキちゃん。」
エレベーターに乗ってアキちゃんが、下に降りて行ってしまいました。
「すいませーん。どなたか手伝っていただけませんか?」
大きめの声で呼びかけます。誰か手伝ってくれる人はいるでしょうか。
「おう!どうした。」
適任の方がいらっしゃいました。とても広い肩幅、見上げるほどもある身長、服の上からでも分かるたくましい筋肉。季節に関係なくタンクトップを着ている、私の兄こと渡辺 啓太です。
私達兄妹、全然似てい無い事でとても有名です。何故、私はこんなにも非力なのでしょう?