戻りたい今日へ
周りを見渡してもホームレスもいない、ならこの二人を殺したのは“俺”しかいないだろう。
そういうことか、俺が殺したのか。
遂に俺は殺人を犯してしまったのか、いつかはやると思っていたがまさか今とは思ってもみなかった。どうしよう、このままでいたらいつかは見つかってしまう、埋めよう。でも今は地面を掘れるようなものは持っていない、本当にどうしよう。辺りを見回してみる。
そこで思い出したこの公園は膨大な数の木に囲まれているのだった、ということは隠れる場所も多いはずだならそこらへんに放置しても『暫く』は見つからないはずだ、あくまで『暫く』だが。それで明日もう一度来て、この時間にこれを埋めに来よう、そうだそれが一番だ。とりあえずこの死体を置きに行くか、でも二人同時に運ぶには無理がある、まず水上から運ぶとするか。
「よっこらせ、っと」
意外とまだ温かい、人間は死後すぐは温かいらしい、それに意外と彼女は軽くて驚く。中学3年の女子というのはこれくらいの物なのだろうか、しかしそんなことは、今はどうでもいい、とりあえず運ぶのが先だ。血が付くが彼女を背負うことにした。同年代の女子を、地面の上を転がしなら運ぶというのも気が引ける。
雑木林の中に都合のいいくぼんだ場所を見つけた、ここがいいだろう。水上の体をゆっくりと穴の中におろす。ドサっと普段物を落とした時なら、小麦粉を落とさない限り聞こえない音がした。今回は白い粉ではなく、落下地点にあった砂が舞う。急いでさっきの場所に戻って風間の死体を処理しなくてはいけない。
もと来た道を歩いて戻る。もう少しで風間の死体のもとにたどりつく。というところで変化が起きた。 どうやら、俺が二人を殺している間に辺りは夜の帳が降りきっているようで、辺りは暗い。だが、その暗いはずの空に赤いものが夕日のようにいくつか輝いているのだ、それに生きてくれば自然と聞こえる音も聞こえる、サイレンだ。そうパトカーが来ているのだ。
そんな馬鹿な、やはり所詮中学生の浅知恵というなのだろうか。何でこのタイミングで警察が出てくるんだよ、おかしいだろ。いや、おかしくは無い。誰かが俺が二人を殺しているシーンを見たのか、処理しているシーンを見たのか、たまたま公園に来たら見つけてしまったのか、なんでもいい。警察がいるという事が問題なのだ。茂みに隠れていよう。動かなければ見つからないはずだ。そう、信じることが大切だ、昔読んだ本にも書いてあったはずだ。そういうことで、茂みの中の隠れられそうな場所を今いるところの近くで探す。しょうがないので、さっき水上を入れた穴の中に一緒に隠れる。
そういえばカバンが無い、どこにあるのだろうか。あいにくと俺は目があまり良い方ではない、さらに暗いので視界も限られてくる。まさか風間の所に置き忘れたのではないだろうか、一気に不安感が高まっていく。あの中には生徒手帳やら何やら個人を特定するには十分すぎるものが入っている、どうしよう。
だが、今から鞄を探すために外に出ると見つかる可能性が高くなってしまう。だから、隠れているしかできないもどかしさを感じながら耐える。その時。
「カバンがあるぞー!」
成人男性の声が響く。見つかった!どうする、逃げるか。どうしよう、どうしよう、どうしよう。あせりが波紋のように広がっていくのを感じる。怖い、怖い、怖い、どうしようもない気持ちになっていく、
そこでふっと我に返る。そうだ、俺は人を二人も殺したのだ、裁きを受けてもしょうがない人間なのだ、あきらめて裁きを受けるとしよう。
悪かったな水上、転校初日で夢と希望をたくさん持ってこっちに来たんだろうけど殺してしまってさ、風間もいつも何もしないけどそれでもみんなを温かく見ていたあんたを呼び出して殺してさ、多分許されないだろう。でも二人とも本当にゴメン。
手を合わせる、二人に最後になるかもしれない侘びの気持ちを送ってから茂みから立ち上がる、一斉に光を浴びせられる。今までこんなにたくさんの光を浴びたことは無かった。これが何かのステージの上で浴びているものならよかったのだが、警察に捜査のためにあてられていると思うととても悲しくなる。
「少年を一人発見!服に血が付着してる!」
ここでもう俺が犯人だということが分かっただろうか、
「2040年4月5日23;58容疑者確保」
ああ、父さん母さんごめんよ、おじさんやおばさんもごめん、そして最後に風間先生、水上本当にすまなかった、今日をやり直したい、久々にそう思ったところで意識が薄れていく。