未来の神への試練
突如、出現した真っ白な空間。
奇妙な感覚に襲われた。”僕”という肉体と”俺”という精神が分離していくのだ。始めは、ここに来るまでに体験した白い空間をイメージしたのだが。今度は違った。この世界には白とは正反対の『黒』が存在している。闇といっていいほどのものが。その闇が迫ってくる。
本能的に悟るあの闇に呑まれてはいけない。俺は必死に逃げる。だが、その場から動いたのは”僕”という肉体だけで、”俺”という精神はついてこない。でも、そんなことを気にしている余裕は今の”僕”にはない。走って、走って逃げた。必死に逃げた。だが、”僕”が速度をあげれば上げるほど闇も速度を上げてくる。
一定の間隔が保てない。徐々に、徐々に。間隔が狭まっていく。
どれくらい走っただろうか。今の”僕”という肉体は疲れを知らない。だから、いつまでも逃げられる。だが、速度を上げれば闇は近づいてくる。しかも、速度を落としても近づいてくる。つまり、逃げ切ることは不可能なわけだ。でも、逃げないとまずい気がする。
もう闇とはそれほど離れていない。”僕”は、諦め立ち止まる。そして、闇に呑まれた。
次に自分が出現したのは真っ黒の世界。だが、こちらからは懐かしさを思わせる。能力使用時の世界だ。だが、懐かしさに浸る間もなく、闇が払拭されていく。
再び先ほどの白い空間。そして、闇。再び俺は逃げる。逃げて、逃げて、逃げた。
だが、最後はあきらめる。そして闇に呑まれる。その後能力が発動し、最初からになる。
このローテションが何回続いたのだろうか。もう、数える気力もない。それでも、逃げる。
そして、また闇に呑まれる。
ここまでは今まで通りだった。だが、今回は違う。自分の世界へ行く事なく、新しく白い世界が始まった。少し、希望が湧いてきた。
これが里見さんの言っていた、能力のレベルアップなのだろうか。喜びに浸る間もなく、闇が迫ってくる。もし、今の俺に少し空間を支配する能力があるのなら、この無限ループから抜け出せるかもしれない。
だが、希望はむなしく散った。何もできない。
再びのループ、白い空間。闇。白い空間。闇。白い空間。闇。白い空間。闇……
何度目かのループ。俺は後ろを振り返ってみた。今動いているのは”俺”という精神だった。”僕”という肉体はその場から動いていないのだ。
つまり、そういうことだ。自分の世界に行かなくなる前は肉体が動いていた。何度か繰り返すと、自分の世界に行かなくなった。
支配の分担があるのだろう。今の推測だと、肉体が時間を支配するのだろう。それで、精神が空間を支配する。そして、この二つは同時に成長する事が出来ない。だから、交代交代に成長していくわけだろう。肉体、精神、肉体、精神。といった具合に。つまり、この精神への試練の様なものが終われば、俺は空間を支配できるはずだ。
ループが永遠と思われるほど続いた。動く自分の変化はなかなか、訪れない。動いているのはずっと精神のままだ。推測が間違っていたのかと思ったが。能力を使うことによって、変化するのかもしれないので試してみる。
闇の方を見つめて”消えろ!”と念じてみたのだが、消えた様子は全くない。消すのは高等手段なのかもしれない。なら、出現の方は。と思い、自分の手を見て。”対抗策よ出ろ!”と念じてみたが何もない。もっと具体的なイメージがいるのか?
イメージするのは勇者の持っていそうな退魔の剣。イメージを強くして、言葉も変えてみる”剣を創造”だめだ、言葉を変えよう。”剣よ我が手に出現せよ!”
劇的な変化だった。手元に掌ほどの大きさの光が出現した。その光が前と後ろと横へそれぞれ大きくなっていく。色が着色されていく。そして、手には頼もしい手ごたえが。成功だ!
剣を両手で構え、闇へ対峙……