荒廃への先導者
「超能力……ですか?」
「そうよ、あなたの時間を超える時間は超能力なの。」
「つまり、俺は超能力者ってことですか?」
「話し変わるんだけど、あなたの一人称の「俺」ってやめてくれない?「俺」にはちょっと嫌な思い出があるから。」
彼女には彼女の人生があった。その中で生まれてしまった心の傷は仕方がない。人間という欲深い生き物が共存している世界なのだから、その一部が傷を負うのは必然だろう。その、傷に関することは誰でも触れられたくないし、触れたくない物だ。やめて、と言われたことはやめるべきだろう。
「じゃあ、『僕』にします。」
俺は一人称を変えることにする。この人めっちゃかわいいし。嫌われたくない。できるだけの事はしておきたい。
今気づいたのだが、美里さんは床に座っている、僕は立たされている。つまり見下ろしていることになるのだが、そこらへんはいいのだろうか?
「それで、俺・・・改め、僕は超能力者なんですか?」
「そうね、そういうことになるわ。」
「あなたは、自分で思っているほかにかなり重要なポジションにいるのよ。」
「どういうことですか?」
なんか、自分の事なのにすっごい無知で恥ずかしい。まぁ未来の自分について知らないのは当然の事なのだが。
「今この時代には最低でも500人以上の超能力者がいるわ、その発生元をたどっていくと必ずと言っていいほどあなたにつながるの。」
どういう事だろうか。僕が超能力者たちの親玉みたいな言われようなのだが。
「それってどういう事ですか?僕の子孫たちが超能力者になったんですか?」
「そういうわけでもないわ、あなたと全く関係の無い人間も超能力者になっているのよ。」
「つまり?」
「あなたはとあるものを制作します。具体的な形や、製造方法や、材料などを伝えてしまうと、それを作る時期が早まってしまうかもしれないから、詳しくは言わないでおきます。」
「じゃあ、簡単にでもいいです。何を作ったんですか?僕は?」
もし、この会話のここだけを聴いた人なら大きな疑問を持つであろう、この台詞。言っている僕自身をよくわからない。なんだろう、良くわからない設計図を見て作ってそれが誰かにばれてその作っていたものの真の力を教えられているみたいな気分だ。勿論そんな場面遭遇したことないのだが。
「簡単に言えば超能力製造マシーンね。上手く使うと自分の望む超能力を作れるものかしら。」
「なんかすごそうなものを作っちゃうんですね、未来の僕。」
「それ自体は失敗に終わったの。でも、そこからが問題だった、始めにそのものを見つけた人間が悪かったの、この時代がこんなになっちゃったのもそのせいよ。」
とんだ、カミングアウト!この荒廃した世界を作ったのが僕だというのか。精神面にキツイところがある。でも、今の美里さんの話だと作ったけれど、失敗に終わったみたいだったから、100%僕が悪いわけじゃなさそうだ、その先に何かあるのだろう。
「それで、誰がそれを見つけたんですか?その僕の発明品。」
「残念ながら、まだ国籍しか分かっていないの。」
「国籍は何処ですか?」
「日本よ。今の国際社会における頂点に日本が君臨しているのもあなたの発明のおかげなの。」
もしかして、僕って英雄なのかな?と、ちょっと期待してしまう。でもそれだけなら、こんな荒廃はしないだろう。
「あ、質問です。」
「どうぞ。」
「今の日本は、僕のいた時代よりもさらに強くなり、世界を支配してるわけですよね?」
「そうね、そうなるわ。大戦直後はある意味平和だったわ。」
その平和を壊す元凶が俺となるのか。
「あ、話し戻してもらって結構です。」
「その発見者、仮に『X』としておくわ。そのXがちょっと問題のある人物みたいだったの、あなたが制作に失敗したものを完成させてしまうほどの天才でありながらも、精神面が病んでいたの。利用方法を間違えてしまったのね、上手く使えば人類最高の宝ともなったかもしれない、発明だったのだけれどね。」
「そのXがどうしたんですか?」
何をどうすればこんな世界になったのだろう。ちょっと立ちっぱなしというのが辛くなってきた。ゆみさんはどうしているのかと見てみれば、彼女は彼女で部屋の隅っこの方に胡坐をかいて座っていた。スカートなのに大胆な!と、思ったのだが丈がとても長くて中身は見えそうにない。
近くにあったクッションは避けて座った。何故避けたのかと言えば、なんとなく嫌な予感がしたからだ、動物の勘というやつだ。文句を言わるかと身構えたのだが、思いのほか何も言われなかった。
「それで、僕の発明は今どこにあるんですか?」
「ここにあるわよ。」
「この施設内ですか?」
「そう、しかもこの部屋にあるわ。」
「え、それじゃどこに……?」
「もうあなたは見ているはずよ、というか見ていないとおかしいわ。」
「はぁ。」
あれ、なんかマシーンみたいなの見たっけかな?
「あまりに、危険だから私のもてる力で、小さく個別に分けたわ、あなたはその一つを見てるはずよ。ド素人以下の知識しか持たない人間が、手を加えたせいで力を殆ど失ってしまっているわ、分割したすべてを合わせても、最初と同じだけの力は出せないでしょうね。」
小さい。個別。一つ。
……お。
「もしかして、カイ君ですか?」
「やっと気が付いたのね。」
予想外だった、ゆみさんが言っていた通信機能は副産物で、本質は別にあるというわけか。
「カイの他にも数十に分けて他のメンバーに持たせてあるわ、まだ組織の人数的に渡しきれていない分もあるのだけれど。」
「もしかして、あなたがリーダーをやっている組織って超能力者の組織なんですか?」
「そうよ、私が声をかけて賛同してくれた人に能力を与えているわ。」
「カイ君の他にも何体もいるんですね……。」
「そうね、ちなみに私がつけた名前になるのだけれど、彼らは『ドリーマー』よ!」
えー……。ネーミングセンス無さすぎ!僕だってもう少しまともな名前が付けられる気がする。ちょっと彼女がかわいく見えてきた。それが、顔に出てちょっとにやけてしまう。
「な、何を笑っているのよ!」
「いや、別になんでもないですよ。」
と、いいつつも笑ってしまう。
「だめ?『ドリーマー』夢いっぱいでいいじゃない!」
怒ったようにほほを膨らませる。相変わらずに目が笑っていないので、何か物足りない。
「そんな感じに、感情を顔に出した方が絶対可愛いですって。」
「そ、そう・・・?」
まんざらでもなさそうだ。