三日目
しゃん、しゃん、しゃん、しゃん。
うす暗い部屋、カーテンごしの光の中。
青、赤、黄、黒の塊がはねては落ち、はねては落ち。
くるくるとお手玉をあやつる女の子。
「ところでさ」
久しぶりに干した布団は香ばしい匂いが気持ちいい。
その中で体を丸めながら、私はヤツの方を振り返った。
何が面白くてこいつはここでこんなことをやっているのだろう。
まあ、妖怪に理路整然とそこらへんを答えられてもそれはそれで妙な気がするけれど。
でも、どこからこいつは現れたのだろう。
妖怪世界とか大霊界みたいのがあるのか、それともちゃんと住む家があったりするのだろうか。
どちらも何だかしっくりこない。
とりあえず当人を前にしてこのまま悩むのも馬鹿らしい。
「あんた、どこからきたの?」
布団の中からの私の問いに、初めてヤツのお手玉が止まった。
右手がおもむろに上を指す。
「へえ」
私も、軽い調子で言葉を次ぐ。
「んじゃさ、私に似てる年増女がいったはずなんだけど、見かけなかった?」
ヤツはゆっくりと首を横に振った。
「あ、そう」
突き放したような口調で言えただろうか。今のは少し、自信が無い。
「んじゃ、いいわ」
いつもだったらそこでしばらく沈黙が続くのだが、今日は様子が違った。
「あれには、いきばがない」
不意の返事に言葉が詰まる。行き場がない?
「おまえとおなじだ」
「私にはここが……」
「いきぐるしいのはいきばでない」
ヤツが私の言葉をさえぎるのは初めてだった。
「別に息苦しくなんてない」
半分は嘘。ここでの生活が楽になったのは一昨日から。
ヤツは私の返事など聞いていないように続ける。
手のお手玉はいつのまにか止まっていた。
「あれが、おまえのいきばをなくしている。おまえが、あれのいきばをなくしている」
今日のヤツはやたらと多弁だった。
「他人事でしょ。あんたの知った事じゃない」
「ひとごとだ。たにんごとではない」
「わかるように喋りなさいよ」
自然と語気が強くなる。何が悲しくてザシキワラシに説教たれられなきゃいけないのだ。
ヤツは私をじっと見つめると、軽く息を吐き出した。
「……ことのはをふるった」
そしてまたいつもの無機質な口調に戻ると、それきり口を閉じてしまう。
入れ替わるようにお手玉の音が再び響き始めた。
こうなるとヤツはしばらくは喋らない。
私は不完全燃焼のもやもやを腹の中でためこんだまま、ただでさえ悪い寝つきを倍化させる羽目になった。
いつの間にか、ヤツのお手玉は、五つに増えていた。