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過去回想と夢(1)

ラズの過去がようやく少し書けたー。よろしくお願いします

 夢を見た。

 ラズの父方の祖父、クラウスが夢の中で笑っていた。

 二十代といっても差し支えない容姿なのは何故だろうか?、などとラズは疑問に思わなかった。

 そもそも、夢の中で疑問に思ったとしても、夢の中では聞くことはできない。これは過去を思い出しているに過ぎないのだから。

 黒い髪に金色の瞳。姿はとてもラズに似ているが、兄の方が今思うとより似ているようだった。

 祖父は、天才的な魔道具の作り手だった、と聞いた。

 ただ天才故の辛さのために、一時いじけていて色々やっていたらしい。

 その祖父の因果が今の自分に降りかかってきているとは皮肉なものである。

「最高傑作の一つさ」

 彼に連れて行ってもらった、昔見たイリス教団の五番目の教会。“真摯なる祈り”と呼ばれる教会。

 表から良く見える位置に、女神をかたどったであろう円形状の大きなステンドグラスと、その手前に壮麗な石の彫刻が施された台および剣が一振り。

 日の光の中銀色に輝くその剣の美しさに、ラズは一瞬目を奪われた。

「ラズは剣士になりたいかい?」

 その問いかけに、ラズは即座に首を横に振った。

「僕は、魔法使いになりたい」

 はっきりと意思を伝える。その様子にクラウスは目を細め、笑った。

「まあ、がんばれ。お母さんやお父さん、果ては他の人達がラズを剣士にしたいというかもしれないからね」

「なんで?、僕は魔法使いになりたいんだ。こう、ドカーン、バキーンみたいな」

「ならば、なればいい。ラズには剣の才能があるからみんなが言うが、決めるのはラズなのだから。決められたレールでも、本当に先まで続いているのかわからない。私のようにね」

 全てを理解できなかったが、その時ラズは認めてもらえた事が嬉しくて頷いた。

 そこで、クラウスはにやりと人の悪い笑みを浮かべた。

「あの剣は、一応、世界が危機に瀕したとき英雄となる勇者の前に落ちるだろう、としてある」

「へー、そうなんだ」

「が、本当は、私はそんな事を微塵も考えていない」

 きっぱりとクラウスは言い切った。

「そもそも好きで作っていた魔具がだんだん強力になっていくにつれて、“責任”が生まれた。ただ作りたい、だけでは済まなくなった」

 何処か寂しそうな祖父の顔を、ラズは見上げた。

「厚意で作ったものが、なんだかんだで騙されて、陥れられて非難されて。なら、使う奴の責任に全てしてしまえ、と。作ったら全てを捨ててしまった」

「あの綺麗な剣も?」

「あれは少しというか……かなり気合を入れて作ったものだ。名を、“猛禽類の剣”という。もっとも、あの剣が落ちてくるのはいつになるか分からない。そして、“女神”すらも手出しできないようにしてある」

「そうなんだ。でもそうなるとあの剣が落ちてくるその時は、平和かもしれないという事?」

 そんな無邪気なラズの質問に、祖父は少しだけ目を細めてから首を横に振る。

「平和だと思っているのは気のせいだ。必ず何処かで何かが起こっている」

「そうなんだ。でも平和だったらどうするの?」

「そうだな、こじつける事は可能だろう。そして、大変な思いをそいつはするわけだな、剣に選ばれたと誤解されて。つまり……」

「つまり?」

「運が悪かったと思うんだな!」

 そこでラズは目が覚めた。

 頭にくる夢だった。

 ちょっと懐かしくなって大学の卒業式の前日あの剣を見に行った。

 そうしたら本当に偶然目の前にあの剣が落ちてきて。

 気がついたら勇者になっていた。

 勇者の宣伝になると、勇者連盟が裏で色々手を引いて、気がつけば働き口が勇者しかなくなっていた。

 それに聞いた話によると、もう一人宣伝となる勇者がいるらしい。

 何でも、馬鹿だが熱血型で、野生の勘と剣の腕には自身があり過ぎるとか何とか。しかも女の子に囲まれているとか、ハーレム状態とか。

 そっちで良いだろう。常識的に考えて。

 というか女の子にちやほやされて羨ましい。

 草を食べているような僕……じゃなかった俺が、何でこんな事になったんだろう。

 虚構で塗り固められた勇者など、価値があるのだろうか? と疑問に思うも、実際価値があるからラズは勇者を首になっていないわけである。 

「大変だねぇ」

「本当に大変だよ」

 ため息をついて、ラズは茶色の天井を見つめて、あれ。

「ちょっと待て、なんだ!」

「えーと、マスコットのエストッペル……最初と最後をとって、エルと呼んでね。きゃぴ」

 白い塊がいた。

「うん、驚くのも無理は無い。こっちのパーティにマスコットがいないから僕がそうだというわけさ」

 白い猫のような生物、エル。それよりも……。

「確かに普通は妖精だよね。もう一人の勇者の方は、知性ある妖精達の長、四精霊が一人、水のオンディーヌ」

 そこで、猫……じゃなかった、エルは首を振った。

「残念ながら返品不可さ。後、精霊も駄目だよ。“女神の眷属”だからね。両方の勇者が女神側に付くのを僕達は許さない。ああ、違う違う、その下にいる、そうそうその人さ」

 ここまでの奴の会話で、ラズが分かった事は。

「そうだよ、僕は人の心を読めるんだ。もっとも、本当の事を僕が言うとは限らない。ああ確かに僕は“魔物”だよ。もっとも君の監視と保護も兼ねているけどね。君にはこちら側に来てほしいのだけれど、力ずくは無理そうだからゆっくり口説くとするよ」

「関わりたくない」

 頭を抱えていると、部屋のドアが開き、レテとフレアが入ってくる。

 ラズの様子に、レテは状況を察したようだった。

「決定事項だから諦めて」

 無茶言うな! とラズは思うが、

「ラズ君、昨日はごめん。私……」

 ごめんと手を合わせるフレアが可愛かったので、ラズは男として全部を許しそうになる。

 そこで、レテがつかつかとラズの方に歩みより、ひょいとエルのうなじの辺りを掴んでで持ち上げる。

 そんなエルは、レテの指で宙ずりにされながらにゃーんと鳴いた。それは良いとして、

「一応猫っぽいから、勇者の連れている特別な生物で通すから」

 レテの説明に、ラズは無理だろうと突っ込みたくなる。

 が、レテは嘆息してから首を左右に振り方をすくめる。

「まともそうなのを選んだ、だそうよ?」

「うん、その人の頼みは断れないからね。でなきゃ、僕も何するか分からないよ。もちろん君が断っても何するか分からないけど」

 マスコットが勇者を脅してくるってどんな状況だ、とラズは思った。

 実際に魔者は、強力な人間の敵でもあるわけで、下手すると死人が出る。

 そういう血生臭い話はラズはあまり好みではなかったので、とりあえず言う事を聞こうと思う。

 まずは、このエルという魔者に聞かないといけない事柄がラズにはあった。

「所で……」

「ああ、僕はベジタリアン……と言うよりは果物しか食べないから。人間なんて、何が良いんだろうね。……疑ってもいいけれど、その証拠は君に示せないよ?」

 確かにラズの前でだけそういう行動を見せなければ良い話なので、証明できない。

 基本的に証明するという作業は難しいのである。

 そう考えて、ラズは頭を抱えながらぼやいた。

「本当にどうして俺ばっか変なのが集まってくるんだか」

 会話しようにも、このエルという魔者は心が読めるので、それに応じて話しかけてくるから厄介だ。

 そうしばしぐるぐると考えてから、ラズはこれの事は考えても無駄だとようやく理解した。

 なので、ラズはレテの方に向き直り、

「エルのこの件は保留として、昨日の化け物になった村人は……」

「アレは村人じゃないわ。本物はすでにとっ捕まえていたもの。アレは入れ替わった人形よ。幾つか音声を記録してある、ね」

「あんな自立型の?」

「……昔、女神様が作った、“ヒトモドキ”の残骸を再利用したらしい」

 聞いたことも無い変な存在を聞いて、ラズは目を瞬かせる。

 とはいえ、そんな特殊なものであるならとラズは考えて、

「“ヒトモドキ”。何処に行けば手に入る?」

 その問いかけに、レテはうーんと考えてから、

「古い遺跡にはあるかもしれないけれど、それらは動けるから、多分そこらに機能停止して埋まってるんじゃない?、だそうよ」

 誰に聞いたのかというか女神様直伝の適当な情報に、ラズは、

「そんなもん見た事無いぞ。……入手先が、特定できないって事か」

「……とも限らない。あの魔物達は、羊が獣を追うように街道へとラズ達を追い詰めた。結局、ラズはそれまでにかたをつけてしまったけれど」

「その先に何かあったのか?」

 この辺で良いだろうと思って偶然ラズがあそこに罠を仕掛けたのだ。

 だが、もっと先までラズ達が追われる事を想定していた?。

 そんなラズに、レテが続ける。

「ええ、人を生け捕る別の仕掛けが大量にされていた。本当は犯人が設置している所を捕まえたかったけれど、尾行に失敗して逃げられてしまったわ」

「……何処かの推理物じゃないんだから。きちんと追跡しろよ」

「……努力は認めて欲しいと言っていたわ」

「……なんだか泣きたくなった。その後始末が俺に回ってくるのか……」

 そんな悲しげな様子のラズの肩を、流石に可哀想だと思ったのか軽くレテが叩いてから、

「それで、その罠についてどう思う? ラズ」

「んー、大人数を捕まえようとしているな。……人攫いとかそういうものではないとすると……」

 大人数を捕まえて何かをしようとしている。

 しかも、大勢が関わっていて、“ヒトモドキ”なる古い時代の遺物を使っているのだ。

 この、世の中の明るく、魔学の発展した時代にそんな古い時代のような事をする意味は何なんだろう。

 そこでレテは付け加える。

「何か組織的な動きがあるのかと思ったけれど、何も分からなかった」

 一応レテは“イリス教団”では高い地位にいる。

 故に情報が入ってくるのだろう。

 そして、“イリス教団”の情報から読みとれないとすると……。

 ラズは呟いた。

「おかしいな」

「ええ、秘密なり何なりは、大抵どんなに用心しようとも何処からか流れるものだけど……」

「出てこないって事はそのどこかに繋がる奴が内部にいる。そこで話が止められている。特定は出来ないのか?」

「情報が少なすぎる。ただ、あんたに関係があるかもしれない」

「どういう事だ?」

「あんたを捕まえろ、って言われたらしいの。確保した村人がね。でも、それ以上は知らないみたいだわ」

 となると、現時点ではそこまでしか分らないとラズは思考を止めて、

「それで、俺に何かして欲しい事があるのか?」

「囮になって欲しい、それ位しか思いつかないわ」

「……しばらく道化師の真似事をして、踊ればいいって事か」

 そうラズは再び嘆息する。

 本当にどんどん面倒な事になっている。

 組織とか関わってきたら、一回の個人であるラズには荷が重い。

 しかも内部となると、味方を疑い保身のために動かなければならない。

 平穏がほしい。

 切なくラズが願った。

 と、フレアが、ラズの前に現れる。

「レテとの話は終わったみたいだから、お話、いいかな?」

「あ、はい。えっとなんでしょう」

 どうもこのフレアに破片にどきどきさせられるなとか、好みだなとラズが思っていると、フレアが無邪気な微笑を浮かべて、

「ラズ君と、今度は“眠りの谷”に行くことになったから、よろしく。今度は私もがんばるから」

 そんなフレアの説明にレテが付け加える。

「次の依頼、その場所に連れ去られた子供がいるらしいわ」

「また誘拐、か」

 幸せが逃げていく溜息をつくラズ。

 それ以上、レテもラズも何も言わなかった。

 今回の件に関係あるかどうかは、憶測に過ぎないからだ。だが、

「うん、多分同じだね。ここに来る時、ここの次は“眠りの谷”だって考えている奴らがいたからね」

 先ほどまで黙っていたエルが、こともなげに言った。

 ラズがぐふっと少し噴出しそうになりながら、

「そいつの容姿は!」

 と聞くも、

「黒い布をかぶっていたから分からないね」

 そう答えて、エルは可愛い仕草で首をかしげて、にやあ、と鳴いた。

 ラズは頭が痛くなった。

「ああ、何でこんな中途半端なんだ」

「でも、これから一緒に探してけばいいんじゃない?。ね?」

 フレアがラズの手を握ってくる。やわらかくて暖かい。

「……姉さん」

「分かってる。年頃の女の子が男の子の手を握ったら誤解されるものね!」

 ラズとしてはもっと握っていて欲しかったが。

 それはそれとして、次の行き先は決まった。

 “眠りの谷”。

続きますのでよろしくお願いします。

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