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冗談よ

 灰色の石が所々ひび割れている。

 城以外の場所は、レンガで造られていたが、この城は違うらしい。

 かすかに感じる魔力が、一見ただ単に上へ上へと積み上げられている……もちろん隙間など無いこの技術も凄いのだが、それ以上に積み上げられていく事によって幾つもの効果を生み出している。

 曰く、城壁の強化。

 曰く、内部の温度変化の調整。

 曰く……。

「この全ての付加魔法の元が、“始まりの一つ”によって始まっている、か?」

「ええ。その中心の、ようは核となる場所に今私達は向かっているの」

 フレアのその答えに、何だかなとラズは思う。

 そうして周りを見回すと、豪華なシャンデリアやらなにやらは無く、けれど、“女神様”を色とりどりのガラスを組み合わせて作られたステンドグラスが鎮座している場所に今はラズは居た。

 先ほど形式的にだけ一度、フレアはお祈りをしていたがあっさりとしたものだ。

 この前の件も、完全に許したわけでは無いだろうが、彼女がイリス教団に所属して活動をする以上そういったことは諦めている……というか、割り切っているのだろう。

 そう思いながら案内されていくラズ。

 並べられた数えるほどしかない長椅子。

 そもそも、王宮といった城とは違い、この城は戦いのために備えられた城のようだった。

 それに煌びやかさを期待する事自体間違っているのだが、それでも観光地だしそれくらいはして欲しいと思うのは、ラズの我がままだろうか。

 と、そこでフレアがある長椅子の前で立ち止まり、そしてそのまま椅子を持ち上げる。

 そこには地下に続く階段があるにはあるのだが。

「……フレア、重くないのか?」

「軽いわよ? 持ってみる?」

「……止めておく」

 どう考えても無理だろうと思ったのでラズが断りを入れると、フレアが肩をすくめて、

「まったくもう少し鍛えないと駄目よ。今度、ジムにでも通うよう申請をしておくわ。あとプロテインも」

「俺をどうする気だ」

「むきむきも意外に需要があるらしいの」

「そんなもので俺を作り変えようとするな!」

 ただでさえ肉食系やらなにやら酷い事になっているのに、これ以上分けの分らない属性を増やされて堪るかとラズは思う。

 収拾が付かなくなって、おかしなことになって一気にこそげ落ちたらどうしてくれるという、ラズは自分自身の名誉との戦いを決意した。

 この時は。

 方に乗っかるエルが面白そうにくすくすと笑い、この駄目猫がと心の中で毒づいていると、そこでフレアがふうと嘆息して一言。

「女の子にもてるかも」

「…………」

「……好きでしょう? 女の子」

「す、好きだけれど、これとそれとは……」

「もてたいんでしょう? 女の子に」

「……だ、だから何が言いたいんだ」

「所でなんで男って、ハーレムが好きなの? 女を馬鹿にしているの? キャバ嬢にしたいの?」

 ざくっときつい質問を投げられてラズはごふっと噴出した。

 あまりにもきついその言葉にラズはしばし黙って、それから答えを間違えないように、

「……まあ、何ていうのかな。色々なタイプの女の子にちやほやされたいって、男は思うものなんだ。フレアは、色々な男にちやほやされたくないのか?」

「一人いれば十分よ。面倒だし」

「……なんだか男前だな」

「そうかしら。好きで好きで堪らない相手が出来れば、ハーレムだか逆ハーレムなんて言っていられなくて、その人しか目は行かないと思うけれど?」

 もっともな、反論にラズは苦笑する。

「……なんだか、フレアの彼氏は幸せそうだな」

「じゃあ、貴方がなってみる?」

「え?」 

「冗談よ、行きましょう」

 さらっと流されたその言葉。

 何処と無くフレアの耳が赤い気がしたが、多分気のせいだとラズは思う。

 きっとすぐ傍のステンドグラスの赤が映っただけだと、期待するなとラズは心の中で呟く。

 その二人の心を読めるエルだけが、なにやらにまにましていたのだった。


 階段を下りていくと急に寒くなってくる。そして更に下へと降りていくと、入り組んだ迷路のような場所に出る。

「ここから先は迷路になっているから」

「道、分っているのか?」

「いざとなったら壊してでも進めばいいわ」

 それって良いのかなと思うけれど、少し入ったラズはその意味が分った。

 そこら中、穴だらけの迷路。

「……中々賢い方法だな」

「お世辞が言えるって事はまだ大丈夫ね、行きましょう」

「……だんだん余裕がなくなってくる気がする、この展開に」

「大丈夫よ、あまりにも能力が無さ過ぎると、お世辞すら言えなくなるから」

「……それもそうだな」

 考えるのも嫌になってラズはそう答えながら、フレアに連れられていく。

 そして当のフレアは壊された穴を順に追っていく。

 つまり急いででようとした人間か、外から入ろうとした人間の直線ルートという最短距離でフレアとラズは歩いていく。

 そして約一分後、穴が唐突に途切れる。けれど、

「こっちよ」

 フレアが案内を始める。

 まるで道が分っているようなフレアの行動にラズは疑問を覚えて、

「何で分るんだ?」

「これよ」

 ひょいと出したその玉には矢印が向いている。

「この通りに行けばいい。けれど、外れたり、なくしてしまったらどうなるかわから無い」

「その時は僕にお任せ! 昔ここで飼われていた事があるからね!」

 エルがはいっと手をあげた。

 この駄目猫のジゴロ能力に、ある種の感慨のようなものをラズは覚えていると、エルがラズににやっと笑う。

「可愛いは正義なのさ、にゃー」

「自分で言うなよ」

「まあまあ、長く生きていると色々な事があるものさ。ちなみにそこを曲がると多分目的の場所だよ」

 エルに促されてラズ達が歩いていくと、広い場所に出た。

 そこには四角い箱が二つ。

「その右側の青い箱が動力源。そしてもう片方が城の城壁やこの遺跡の浮遊を助ける等の魔法装置よ」

「ちなみに予備は?」

「無いわ。そもそもこれも五つほど隣の異界の技術だし」

「そうなのかー。それでここにやつらが来た場合、どうするんだ?」

「これらを守りながら捕縛ね」

 面倒な話だなと思いながらラズは下見をする。

 下見をして、さくっと防御系の魔法をかけておいた。

「何かあるんだったら先にこうしておけばいい話だな。あとは適当にぼこぼこにすればいい」

「話はこれでおしまい。後は宿に向かうだけ。一応ここ周辺は土産物屋や飲食店が今の時期は開いているから、行く?」

「一緒に回らないか?」

「そうね」

 短い一言だが、言った本人たちもこれってデートじゃねと行った後で気づいた。

 そしてそれをエルは聞いていてまたにまにましていたのだった。

改稿エタ作品を着々更新中

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