ろりばばあ
その声に、アイリス婆ちゃんと呼ばれた幼女は目を輝かせた。
「おお、久しぶりじゃなラズ。元気にしておったか?」
「はい、あ、これお土産です。婆ちゃん、甘いもの好きだったから」
「そうかそうか、ありがとうのう、ラズ。してこれは?」
「クッキーにホワイトチョコとドライフルーツが入ったものです」
「ほー、それは上手そうじゃの。おい、ミスト!」
幼女が偉そうに少年をよんだ。
「お茶を持って来ておくれ。四つほど」
「あれ? 誰か他に来ましたっけ。ロリババア」
「ロリババアというなと言っているであろうが。お前も飲むんじゃ」
「何で僕まで……」
「どうせ話した内容は全部、貴奴らに報告するのであろう。ならば隠れて聞くより、一緒にいてもかまわないではないか」
「……密偵の意味あるんですか、僕」
「別に聞かれても問題ないことしか話しておらんし。何をそんなに恐れているんだか」
アイリスという幼女は大きく嘆息する。
その答えに、ミストはとても困ったような顔をした。
「……貴方の予知能力は、“女神様”も凌駕するものです。その行動に注意を払わずに入られませんよ、我々は」
「堅苦しいのう。というかそれは、妾が“女神様”の同属だからという話で収まっただろう」
「……だったら余計警戒するじゃないですか」
「好き勝手やりたいのに、頭を押さえられて出来ないから文句を言う子供みたいなことを言うな」
「いえ、話はそんな単純ではないのですが……もういいです。お茶持ってきますね。話は僕が来てからにしてくださいね」
「どうせ盗聴器を仕掛けてあるのだからかまわんだろう」
「……年増ババア」
呟いたミストに、即座に本気でアイリスが蹴りを入れた。
「ロリババアは許すが、年増ババアは許さぬ」
「だったら幼女姿じゃなくて若作りした年増ババアの姿に……ああ、痛い、いた」
アイリスが蹴りを入れると、ミストが逃げていった。
そこでレテが、ラズに聞いた。
「おばあちゃん?」
「ああ、俺の祖母だ。似ているだろう? 髪の色も黒だし」
「黒髪なんて幾らでもいるわ。でも、そうね。顔立ちの整い方は似ているかも」
「そうそう。ちなみに婆ちゃんの本当の姿はもっと成長した姿で、すごい美人なんだ」
「そうなの。こんな幼女に手を出したなんて、人間として最低だものね」
そこでラズが黙ってアイリスを見た。
よくよく考えるとそうなるからとラズが不安に思ったからなのだが、
それにアイリスが、深々と嘆息した。
「……この姿で初め迫ったら、俺はロリコンじゃないと逃げられた」
「ばあちゃん、それは当たり前の反応だと思う」
「だがのう、ラズ。大人の姿で会いにいったら信じてもらえないし。しかも女性に免疫がないのか、顔を真っ赤にして逃げるし。結局まあ、追い掛け回してどうにか口説き落としたのだがのう……ふふ、素敵な人だった」
思い出して幸せそうに笑うアイリス。
そんなアイリスに、レテが、
「ならなんで今も幼女の姿を?」
「子供の姿の方が口説いてくるようなやつがいなくて楽なのだ。妾の愛しているのはただ一人だからのう」
そう微笑むアイリス。
素敵な話しだが、レテとしては、先ほど散々脅かされたり嫌味を言われたりしてあまりいい印象を持たなかった。
だから一言文句を言ってやると思ったところで、ミストがお茶を持ってきた。
「おーい、これでいいか? ロリババア」
「……前から思っておったが、ミスト。お前、妾のことが嫌いだろう」
「いやいや。まあなんというか、暇で」
「……忙しい職場に回してやろうかのう。最近、優秀な人間が不足してきているのでよく、打診が来ておるんだが」
「ごめんなさい、アイリス様。ここがいいです」
あっさりとミストが態度を翻したところで、ラズが本題に入った。
「それでばあちゃん、話があるのか?」
かくかくしかじか。
「うむ、そこにいるレテなんだが、実は“ヒトモドキ”に意識を移された存在なのだ」
「ああそれで、“女神様”にちょっと敵対的なのか」
ラズが気楽に答えるのを聞いてレテは、人事だからって取れては思っていると、唐突にひゅんとフレアが現れた。
けれど瞳は閉じている。それを見てレテは、
「いきなり何を」
「え? レテを元に戻そうかと思って」
ラズがさらっと答えた。その答えに、レテは目を丸くする。
「冗談でしょう?」
「戻りたくないのか?」
「で、でも“女神様”が……」
「“女神様”の干渉がなければ、問題ないんだろう? どの道ここは“女神様”の手が及ばないし。だから、エルもここに入って来れないだろう? 一応、“女神様”の元眷属だから」
レテは頭が痛くなった。随分と悩んでどうしようかと色々考えてきたのに、それがこんなあっさりと。
そんなレテに、ラズは、
「それならそうともっと早く言ってくれればよかったのに」
「そ、そういうわけには、というか過去から未来においての空間操作って……」
「だからおそらくそうだろうって言っただろう? 俺の能力は。その空間の操作というのが……“魔法のある空間”にも作用するから」
魔法で起った事象すらも、全てを覆しと別のものに変えてしまう。つまりそれは、
「それは……何でも出来るという事?」
「さあ。思いつく範囲の事は出来るかも知れないが、誰かが定義した、過去から未来においての空間操作以外に使うのもどうかとは、俺は思っている」
「なんで、だって……」
「俺は普通で静かにこの世界で普通の人間として暮らして生きたいんだ」
レテがラズを見て黙った。
その望みはとてもくだらないように思えるけれど、かといってその力を振るわれるのは人間にとって不都合。
それに、それを望んでいるのはラズ自身なのだから、ここでレテがどうこういっても仕方がない。
だからふと思いついたことを聞いてみる。
「貴方の方が、あの魔王よりも強いのね?」
「あー、だから前もエルにも言ったが、イクス兄さんの方が一枚上手だからな? そういった“恐れ”を見せ付けず、そしてその力を使わないで全てを解決していくんだから。きっと兄さんなら、今回みたいなレテの問題も、俺みたいに力を使わないで解決できるだろう」
「どうやって」
「だから、分らないから……俺は兄さんに本当の意味で勝てないんだよ」
そうラズが肩をすくめると、レテがマネキンのようになってしまう。
そして、フレアが目を覚ました。
「え?」
「それでなんか変わった事はあるか? レテ」
「特には。あと今は、フレア、だわ」
「そうか、そうだな。あげたペンダントはしておいてくれ。アレには“女神様”が手を出せない効果がある」
それにレテふっとラズに初めて優しげに微笑んだ。
「ありがとう、ラズ」
その笑顔に、ラズが一瞬くらっときかけたのだが、この時はまだそれだけだった。




