教えていただけませんか
宿で一晩明かして。
起きて、服を着て外に出るとレテがいた。
待ち合わせ時間よりは少し早かったはずなのだがと思いつつ、ラズはレテに、
「おはよう」
「おはよう、それで今日は……」
「あそこだろ? 予知能力者の」
「……予測の天才の所よ。あと、予知の巫女」
「そういえば、そういう事になっていたな」
ラズが、あくびをしながら答えた。
その様子にラズに何かを聞きたそうなレテだが、チラッとすぐ傍にいる猫もどきのエルを見て、
「……まあ行ってみれば分るんじゃない?」
とそっけなくエルが答えていた。
そこで、ラズの持っている箱にレテが目をつける。
「それは?」
「お土産のお菓子」
「随分と親しげなのね」
「うん、まあ……それより早く行かないか?」
ラズはそこで話を終わらせたのだった。
イリス教団の一角に連れてこられたラズは、その大きな建物を見上げて、
「相変わらず大きいな」
「……色々突っ込みたいけれど、まず中で準備ができているから聞いているからここで待っていて」
「分った」
ラズが頷くのを見て、レテは中へと入っていく。
それを見送ったラズは、どうやって暇つぶしをしようかと思っていると、
「おーい、ラズー、客間で待たせとけってさ」
「あ、ミストさん、お久しぶりです」
現れた少年に挨拶する。
相変わらず童顔だなと思いながら、
「でもすぐには会ってくれないのですか? 珍しいですね」
「うん、なんだかあのレテって子が気に入らないらしくて」
「なんで?」
「ラズを連れて行いっちゃいそうだから、だって」
「それは恋愛的な意味で?」
「恋愛的な意味で」
そのミストの答えにラズはしばし悩んでから、
「そこまで好感度上げれているのか?」
「さあ? もっとずっと後の事かもしれないし。でも切欠って物は些細なものだからねぇ」
「そうですかー、でも彼女というか人生初の彼女かー」
と呟いてみてからラズはミストに、
「それで、本当の理由は?」
「……あの子をからかって遊びたいんだって。暇だから」
「すぐに案内してくれ」
ラズが嘆息する。そんなラズに、
「まあまあ、どの道準備ができるまで、またないといけないからさ」
「じゃあ何でレテは別なんだ?」
「気にいらないからだって」
更に頭が痛くなったラズ。
そんなラズをミストは客間へと案内したのだった。
息が詰まる部屋だとレテは思う。
ラズと分かれてから更に待たされてようやくこの部屋にレテは案内された。
薄暗く甘い匂いのする部屋。
予知の巫女。
その予知は外れない。
そして、“女神様”の予言すらも覆した事があるという。
それが何故こんなところにいるのか。
疑問は幾つもあるが、それでもこんな会える機会はめったにない。
「失礼します、レテ……」
「待っておったぞ、フレア」
ギクッとレテはその声のした方を見る。
そこに一人の、美しい幼女がいた。
何枚もの薄い衣をまとい、首や手に宝石の付いた防御用の魔道具を身に着けている。
そんな彼女をレテは見て、この幼女がとても二百を超える老婆には見えない。
「ふふ、驚いておるようじゃな。本当の名前を呼ばれて」
「……何処までご存知なのですか?」
「ふむ、今のおぬしの体が“ヒトモドキ”である事や、貴様が姉と呼んでいる小娘がお前の本当の体であること、そして、それらが“女神様”の気まぐれによって引き起こされた。というくらいかのう?」
「では、どうすれば私は元に戻れるのですか?」
レテはつい尋ねてしまった。
もしかしたなら、彼女はこれをどうにかする術を知っているかもしれないと思ったからだ。
けれどそれに対してその幼女は、
「教えてやるわけが無かろうに、小娘が」
「な!」
「そんな義理も何もない。妾にはのう?」
そう幼女がおかしそうに残酷に笑う。
その気味の悪い様子に、レテは必死で我慢しながら、
「教えていただけませんか? 私が」
「嫌じゃ」
即答する幼女。
苛立ちを覚えるレテ。
そんなレテに幼女は、
「お主、“女神様”が嫌いか?」
誰が聞いているかわからないこの場所でその質問はないとレテは歯軋りする。
しかもここはイリス教団内。
そしてレテは“女神様”にこの様な目に合わされている。
なのに問いかけてくるのだ。
レテはじろりと幼女を見ると、幼女はおかしそうに笑う。
「視線だけで殺されてしまいそうだのう」
くすくす笑う幼女。
けれどレテは答えられない。と、
「おーい、ロリババアー」
一人の少年が現れて、幼女をそう呼ぶ。
それに初めて幼女は顔をしかめて、
「ミスト。その呼び方はやめろといったであろう」
「はーい、ロリババア。所でラズを連れてきたけれどどうする?」
「本当か!」
幼女の顔がぱあっと明るくなった。
そしてラズが菓子折りを持って現れて、
「お久しぶりです、アイリス婆ちゃん」
そう、幼女を呼んだのだった。




