平穏が崩れるその前に
始まりの部分です。よろしくお願いします
勇者というものは、剣士と相場が決まっている。
それも含めて、この職業は人気がない。
確かに一発当てれば、知名度も高まり、それで良い思いは出来るかもしれない。
だがそれならば他にも危険でない方法が幾らでもある。
まず考えて欲しい。
勇者というのは結局、魔物やら何やらを倒す職業である。
不定期に現れる魔王も含めて、そういう組織と戦うとか、リスクが非常に高い。
しかも近年の魔法技術の発展によって、魔物も効率的に倒すことが出来る。
討伐隊が討伐軍と名称を変え、構造的にも被害を最小限とし効率的に討伐が出来るようにもなっている。
そしてその使われる魔法武器も素晴らしい。
圧倒的火力によって殲滅!。
男なら憧れずにはいられない!。
と、いうのは冗談として、結果として勇者の活躍できる部分は減り、少ないパイを奪い合う状態である。
つまりは、時代の流れにより終わりかけている職業の部分がある。
ならば、そんな所で足の引っ張りあいなり蹴落としたり、手柄を奪ったりといった過酷な思いをせずとも、もっと平穏な道を選びたいと思うのが人というものではないのか。
それに、興味を持った事に突き進むのも若さゆえの特権ではないだろうか。
と、これまで数十回以上考えた事をもう一度考えて現実に戻る。
「それで、始まりはどうする?。親を魔物に殺された子供が~、というのがよくあるパターンだけど」
「……キリト。うちの親に、そんな可愛げがあるわけないだろ……」
「? そうなの?」
「……母さんはこの前、台所のフライパンを温めようとして、山を真っ二つにしたばっかりだって話だ」
「あれ? ……もしかして、あのオカルト雑誌“激殺・怪奇オカルト”に載っていた、一晩で山が真っ二つになったのに元に戻ったとかってやつかい?」
「……まだあれ読んでるのか」
「トンデモ過ぎてギャグ本として読むと日々の疲れが癒されるんだ。過酷な現代社会の清涼剤としては十分必要だと思うわけですよ。所であの辺に実家があるの? 毎月特集というか組まれている感じがするけれど」
そう言われてラズは色々考えてみて、納得した。
「……あそこを観察すれば話題には困らないかもしれない」
そう言ってラズはアイスカフェオレに口をつける。
とはいえ、昼間だが酒場なのだからお酒を頼めと言われそうではある。
だが、生憎ラズは未成年だ。
お酒は二十歳からと法律で決まっているので、善良な一般市民であるラズはそれに従わざる負えない。
さて、お酒云々は良いとして。
一方目の前にいる、一見、流れるような金髪の美少女は、年上だが数少ない友人の一人だった。
先ほどから、カシスのリキュールとオレンジジュースを混ぜたお酒を口にしている。
酒に強いとはいえ、頬が少し上気しており、何処か甘い雰囲気をかもし出していた。
そうなってくると自然と、どういう輩が集まってくるか知れているわけで。
酔っ払った屈強そうな兄ちゃんが、やってくる。
「ようぼうず。昼間から……」
「男だからな。彼」
そう言ってラズはキリトを指差すと、悪役のような台詞をはきそうになった兄ちゃんが、むせた。
ラズは、一見美少女に見える友人の方を指差しながら、
「あんたで今日は五人目だ。気の毒だと思うが、嘘だと思うんだったら触ってみればいい」
と続けると、おそるおそるといった仕草でキリトの方をその兄ちゃんは見る。
「本当に?」
「本当☆」
にこやかに笑うキリト。
何処からどう見ても極上の女にしか見えない。
呆然として立ち止まっている兄ちゃんに向かってラズは続けた。
「気を付けろよ、こいつ魔性だからさー。生身の女が男に見えたり、挙句そっちの趣味に目覚めた奴もいるからなー。いや、男同士もいいものかもしれないぞ?」
兄ちゃんの額に冷や汗がたれてくる。そして、今度はまじまじとラズの方を見て、
「お前もそっちの趣味が?」
「え、ああ女装か。ついこの前までや……」
「近づくな、この変態どもが! 俺と金輪際かかわるな!」
と、その兄ちゃんは吐き捨てて逃げていった。
それを見送りながらラズが納得がいかないといったように、
「話しかけてきたのそっちだろうが。何で変態扱いなんだよ……キリトは別として、キリトと一緒にお姉様方の“おもちゃ”にさせられてただけなのに。納得いかない」
「はは、リースとか彼女達、素材が良いから女装させる楽しいって喜んでたしね」
「キリトはリースと一緒にいられるから女装したんだもんな……」
「デートしてなんて、初めは誘えなかったからね。ま、今も女装に付き合えば、服選んだり着たり化粧したり、ずっと一緒にいられるわけだ。これはもうデートしまくりという……」
幸せそうに笑うキリトに、ラズは溜息をついた。
「……恋か。いいなー、俺も彼女が欲しいよ」
そこでキリトは何かを閃いたようだった。
「あ、いい事考えた。恋人を魔物に殺された復讐の為に勇者になった、とかどうだい?」
「前から思うんだが、そんなに捏造……じゃなかった脚色していいのか?」
若干じと目でキリトを見るラズだが、それにキリトは悪戯っぽくにやりと笑って、
「事実よりもラズの場合、宣伝が目的だからね。それに後々暴露本も出せるし、一石二鳥さ」
「世の中そんなもんか」
ラズはアイスカフェオレに口をつける。
氷が溶けてしまって、水っぽい。
しかも甘みも減っている。
かといって捨てるのはもったいないので、それを飲みながらラズは愚痴を零す。
「そもそも仕事と仲間を探して酒場に来たわけだが、行方不明の子供の捜索って俺がどうこう出来るものなのかね。人数の足しにはなりそうだが」
それって勇者の仕事じゃないんじゃないかとラズは暗に言うも、
「印象を良くするのも勇者の仕事なわけですよ」
「……そんなに勇者ってイメージの悪いものだったのか。さっき宿に泊まろうとしたら、勇者というだけで前払いだったんだが」
「そのための君というわけさ。……さて、僕はそろそろっと……じゃ、良きパートナーが見つかるといいね。僕は嫌な予感がするからお暇するよー」
「不吉な事言わないでくれ……。というか、リースとデートするために帰るんだろ! 知っているんだからな!」
[……何で知っているの?」
「キリトが女装しているのはいつもそういう時だからだ! 薄情者!」
「うーん、良く観察されてるなー。まあ、そういうわけで、じゃあねー。次は一週間後だよー」
と言って、リースの姿が掻き消える。
転送魔法。
高度な技術を要する魔法だが、何処へでも行きたい場所に行けるというものではなく定位置からの帰還のみが成功している。
一説には、女神がそういった形でのみ転移魔法を許可している、との事だが真偽のほどは定かではない。
「さて、どうするかな。捜索隊はむしろ、勇者というだけで関わるなーって感じでのけ者にするし置いてきぼり食らったし。本当にどうするかなー……かなー」
そう思って酒場の壁を見ると、勇者ラズのパートナー募集、と黄ばんだ紙に記載されている。
もう少し良い紙を使ってくれてもいいのに。
簡素な走り書きの署名と短い文。
飾りげがあまりにもない。
「せっかくだから何か絵でも描いておくか。暇だし」
そもそもこんな紙切れで仲間が集まるものなのだろうか。
……期待しないという以前に、諦めた方がいいかもしれない。
ラズは溜息をついた。
「どうせ集まらなければ、それ用に集めてくるだろ」
そう投げやり気味に言って大きく背伸びをして、ラズは持ってきた荷物を漁り始めた。
確か筆記用具は青い袋に入れたはず。
閑散とした酒場にいる人はまばらびテーブルについていて、ラズのその動きを見ている者はいるものの興味はないようだった。と、
「勇者ラズ様ですか」
女の声がした。
そして答える間もなく、ラズは目の前が真っ暗になったのだった。
続きます。よろしくお願いします。




