四天王(3)
よろしくお願いします
またも罠を乗り越えて、大きな扉がある。
それを開けると、中には誰もいなかった。
「いないぞ?」
ニャンタがまわりを見回して、右斜め前方に歩いて、蹴りを入れた。
大きな音がして鏡が壊れる。と、
「働きたくないでござる。働きたくないでござる」
寝袋に包まってごろごろしている、男が一人。
無言で指をさすラズにニャンタはにっこり笑って、
「後は任せた!」
ラズの背中を押した。
何をどうしたら良いのかわからず、取りあえず。
「もしもしー。俺はイクス魔王様の弟で勇者をしているラズといいます。こんにちは」
すると、彼はこちらを向いて、ラズを半眼で見ると、そのまま芋虫のごとくもそもそと逃げていく。
「いや、あの、もううすぐもう一人の勇者が着ますので、その人の相手を……」
そこでその芋虫男は動きを止めてこちらを向いた。
「……殺していいか?」
物騒な事この上ない。とはいえ本当に殺されても困るので、
「それはやめてほしいのですが」
「なら私にどうしろと?。弱い人間のことなんぞいちいち考えてられるか」
「本当に強いのなら、手加減も出来るでしょう?」
「ふ、ふふふふふははははは」
突然笑い出す男。彼は寝袋のまま、ぴょんと立ち上がった。
「手加減が本当に必要か?。そいつは強いんだろう?、勇者なんだろう?」
「ものには限度があるかと」
「ふん、人間なんか滅んでしまえ」
「それは困るのですが」
「何が『僕達は分かっているんだけれど、君が分かっていないだけで、僕達全員が分かっていないと思われると困るから』、だ!。自分の能力が無いのを人のせいにするな!。大体お前が全ての元凶なんだ。なんで、『僕が分かっていないことがばれると困るから、言うなよ』、て言うならまだしも、私が悪いような口ぶりなんだ!。そう思うだろ!」
「え、あ、はい」
「あの糞野郎。口だけが上手くて、でも中身が無いから丸投げしたあげく掠め取ろうとしやがって」
ラズは悪口をうんうんと頷いて聞いていた。
さて、どうやって戦わせようかな、と頭の片隅で考えて……。
無理だと納得した。
「君もそう思うだろ?」
「はい」
話を合わせて、彼は溜息をついた。
けれど、
「いや、話すと楽になるものだな。いや、ヒステリーを起こしていたら、皆逃げてしまって話し相手がいなかった。ちょっとばかり魔法攻撃をそこらじゅうに打っただけなのに」
ちなみに彼は四天王の一人だ。
その威力については皆さんご存知なわけで。
――逃げるよな、常識的に考えて。
ラズは思うも賢いので口には出さない。
「はあ、さてと、本業に戻りますか。魔王様の弟君だったね。話を聞いてくれてありがとう」
「あ、いえ、どういたしまして」
そこで彼は寝袋から出て来た。
おっとりとした柔和そうな男だった。
ただ、耳の部分に羽が生えている。
「では、次の部屋はその扉の先ですね。勇者が来たら適当に相手しますから。怪我なんてしたくありませんし」
「はーい、弟君、行こう!」
何もやっていない二ャンタがそちらの扉に走っていった。
彼に挨拶をして、通路を行くと罠は特に無く大きな扉がある。
やけに装飾が多く、最後の扉のような雰囲気だった。
「あと一部屋内と四天王じゃないよな」
「いいや、ギルベルト様は基本戦わないからこれでいいんだよ?」
「え?」
「彼は、勇者を惑わし、導く係りだから。どちらかというと参謀かな?」
「……敵の目前に出てくる参謀?」
「ははは、敵に倒されないように、情報を操作する参謀、かな?」
「たちが悪い」
「もっともだね。さあ扉を開きなよ」
言われるまでもない。ラズはその扉を開けた。
そこには、頭にかぶる変な被り物を持った兄と、見知らぬ剣を持った少年達……おそらくは勇者だろう、そして、胡散臭そうなやけに綺麗な男がいた。
そんな、一触即発の雰囲気だった。
次もよろしくお願いします。




