四天王(1)
よろしくお願いします
さて、新たにニャンタを加えた一行であったが、
「ニャンタさんは罠の解除方法はご存じないのですか?」
「んー、私はほら、可愛がられる専門?」
うふ、と顔に手を当てるニャンタさんを見て、
「やっぱりこっちも駄目猫かぁ」
ついラズは口に出してしまった。が、
「ははは、駄目な奴という他人の評価は、一番楽なのですよ。嫉妬されたり足を引っ張られたりしませんからね。せいぜい頭にくる位ですが、その油断を利用できる事を考えるとそちらの方がメリットはあるかなぁ」
「兄さん、ニャンタさんはもしかして怖い猫?」
「どちらかというと、鬼畜な猫かな」
「どんな風に?」
「……今日は良い天気ですね」
窓の無い壁を見てイクスが遠くを見る目で言った。
そこで、ニャンタが立ち止まる。
「ここから先は罠の臭いがするわ。それじゃあ!」
ニャンタはもとの猫の姿に変わり、罠へと飛び込んだ。
スタタタタ
しかし、罠は作動しない。
「……本当に罠なんてあ」
と、一歩足を出そうとした瞬間、ラズの目の前を魔法弾が掠める。
「…………………………………………」
兄のイクスを見るとじっと遠くのニャンタを見ていた。ニャンタは人型に戻って手を振る。
「あーすみません、罠は猫程度の質量と体温では作動しないんでした。魔王様も弟君も猫になれば大丈夫ですよー。あとー」
緊張感の無いニャンタの声。そして何やら重い機械音が。
「今の弟君が罠に引っかかった事でこの区間の罠作動しちゃったみたいですー。がんば!」
その言葉と共に足音は去っていった。
ラズが兄を見ると、頭を抱えていた。
同時に天井がゆっくりと落下したり、先の尖った槍やら魔法の攻撃装置やらがにょきにょきと通路の全壁から沸いてくる。
「はあ、仕方がありませんね……修理費どれ位かかるかな」
結局全ての罠を破壊する事にした。
イクスがすっと右手を前に出す。
全ての罠が粉々に砕け散った。相変わらず、兄の力はチートだなとラズは心の中で思う。と、
「さてと、これで暫くは無さそうですが」
「……兄さん、そういえばこの城の技術って、失われた世界の技術とか言ってなかったか?」
「ええ、でも素材はこの世界のものですし、魔者が管理やら作り方を知っていますから、この世で一番硬い“予算の壁”さえどうにかすれば何とか」
さりげなく世の中金だと告げたイクスに、ラズはあえて突っ込まず、
「魔者が全部知っているのか」
「魔者は、何事も無ければこの世界の終わりまで存在し続けるでしょうからね。人ならば百年もその場所で働き続けられないでしょう?。だから次の世代に教育をという事になるのですが、彼らの場合それが必要ない」
「便利だな」
「そうですね。ただ、その統率も全て四天王の一人、ギルベルトが管理しているので誰が何を知っているのか僕には全然分からないのですよね」
「……兄さんが本当に心配になってきたんだが」
「大丈夫ですよ。昔から魔王は飾りですし、人と敵対しなければ、僕は襲われませんので形だけの魔王は維持できる。それに、好都合な事に今の時代は魔王を必要としていない」
「……けれど」
「いざとなれば力ずくで全員屈服させますから大丈夫です」
「……そうだな」
このラズより強い兄が大丈夫といっているのだから大丈夫なのだろう。いざとなればラズ自身が手を打てばいいことだ。
そこでまた大きな扉がある。それが、ラズとイクスが来た事を知ったかのように開いた。
中にはラズの二倍の大きさもあろうかともいう猫である。
その傍にニャンタもいる。
「良く来た勇者よ」
「……ライ、僕の事は無視ですか?」
「……魔王様がこんな所にいるわけない。いるわけがない。いるわけがない」
大きな体を丸めて自己暗示をかけるライ。そんな様子を見つつ、イクスが近寄り、
「ライ、いったいどうしたのですか?。この前はあんなに乗り気で楽器を作っていたではありませんか」
楽器と聞いた瞬間、ライがびくっと震えた。
それを不審に思ったイクスが、
「……楽器がどうかしたのですか?」
「……あの楽器猫の皮を使っているんじゃないですか」
ボソボソとライがつづける。
「自分と似た姿の獣の皮で楽器作るといったって、そんな殺生な」
「……使っていませんよ、猫の皮なんか」
それに対して、イクスは困ったようにため息をついた。
「猫の皮を使うのは、あれと形の似た楽器です。それにそもそも、そんな高級品を使って僕達が作れるわけないではないですか。合成品です、合成品」
「……本当ですか?」
「本当です」
「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………」
「……仕事に戻ります」
ライはそう言うと、全身が発光しはじめる。
後には、ニャンタさんよりも美しい、淡い水色の髪の猫耳の女性が。
その女性がにっこりと笑った。
「はじめまして、弟君。勇者ならば、私と戦いますか?」
「いえ、今日戦うのは彼ではない別の勇者です」
「あら、そうなのですか。それはそれは。せっかく“可愛がろう”と思っていましたのに」
にっと笑うライに、ラズは得体の知れない何か嫌な感じがした。
美味しく頂かれてしまうような、そんな危機感だ。
「ライ、ラズに手を出したならば、分かっていますね」
「はーい。せっかく美味しそうなのに……」
「大体、もう一人の勇者をギルベルトが誘導してくる手はずでしょう?。貴方方にも話が行っている筈」
「いえ、ここの所彼は外へ出たきり城に戻ってきていませんよ?。ただ勇者がそのうち来るかもとは結構前に聞きましたが」
「まさか準備も何も」
「しているわけないじゃないですか。……どうします?。他の二人も含めて」
「……ラズ、あとの二人の説得と事情の説明を頼んでいいですか?」
「え! ああ。わかったよ兄さん」
ラズがうなずくと、ニャンタさんが、
「ふーん、なら、私が付いていったあげよう。面白そうだし」
「ニャンタさん……不安ですが、よろしくお願いします」
「不安とは失礼な」
そこで、ライが、
「それでは私も」
「いえ、ライさんは勇者をできるだけここで引き止めるようお願いします。少しでも時間がほしい」
「あら、でも正規ルートと裏口ルートでは道も罠もかぶらないのでは?」
「もしも、です。今回は完全に予定外なのですから」
「あらあら、はいはい。所でそっちの勇者は……」
「ハーレム状態なので手を出さない事をお勧めします」
「あら怖い。分かったわ。適当に相手にしておくわ」
「よろしく」
そういうと、兄は駆けていった。
「さて、では俺は何処に行けばいいんだ?」
「そっちの二番目の扉が一番の近道だよ、行こう!」
ニャンタに引っ張られていくラズ。
「あ、罠とかはよろしく」
「分かっているよ」
面倒だが仕方が無い。そう心の中でつぶやいて、ラズは呪文を唱え始めた。
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