マッチポンプ
この物語はフィクションです。実在の人物、出来事などとは一切関係がございません。
続きますのでよろしくお願いします。
「“汝欲を捨てよ、さすれば道は開かれん”?」
「学会行ってて教授やら準教授がいないから、早速、研究室名を変えてやろうぜってことなんです。うちの研究室の風習みたいなものだから気にしないでください」
「……何故丁寧語なの」
「いえ、元から僕はこうですよ。本日は私用できていますから。それに、これからが本当の地獄ですから。レテさんが」
「何のはな……」
そこで研究室のドアが開いた。
「ラズ、よく戻ってきてくれた!」
「あ、ルシアン先輩、お久しぶりです」
「いやー、よく来てくれた。教授達とか先輩達が居ないから、天国かと思ったけどそんな事はなかったぜ」
「えーと、本日の“生贄”はこの人です。どうぞ」
ぽんとラズはレテの背中を押した。レテが何か言う前に、ルシアンが、
「おーい、可愛い子来たぞー」
と、隣の部屋に向かって叫ぶ。
ばたんと大きな音を立てて勢いよくドアが開いた。隣の部屋にはベットが見える。
その隣の部屋から、白衣を着た女性が五人ほどわらわらと出て来てレテを取り囲む。
「あ、あの」
焦るレテ。しかし取り囲んだ彼女達は、まじまじとレテを観察してお互い目配せをする。
そして、レテをがしっと掴んだ。
「ちょ、え」
そのまま、肉食動物が巣穴に獲物を引きずり込むようにずるずると引っ張っていって、扉が閉められ、鍵がかけられた。
「これだけあればいいかな、と、ラズ来てたのか」
「クワイス先輩、リト先輩、カルロスさん、お久しぶりです」
「いや来てくれて嬉しいよ研究室の女性の方々が、俺達のことおもちゃ……じゃなかったさらに美しさに磨きをかけようと、女装させてきてな」
「なんか、アレやらされると、なんかこう、俺本当に男なのかなって思っちゃうから怖いんだ」
「化粧の技術はこわいですからね」
「この前はキリトがいたんでよかったんだ。で、今回はラズが来たから、俺らに火の粉が来ないとふんだんだが……」
そこで隣の部屋から、
「や、そこは、ちょ……じ、じぶんで……やぁ」
「ふふふ、良いではないか良いではないか」
それを聞いた研究室の人達は、
「お眼鏡にかなう女性が来たか」
「いい声で鳴きますねぇ」
「非常に健全だ。これこそが俺達が待っていた展開だったのだ!」
「……そうですね」
ほわんとしている先輩達にラズは突っ込まないことにした。
そこでまた声がした。
「ちょっと、このけしからん胸は何ですか。私に少しよこすのです」
「いや、それはむり……らめーーーーーーーー!」
とかなんとか。
「やっぱり徹夜明けもどきはやばいな」
しみじみと頷く、クラウスにラズは、
「あれ、研究の中間報告の合宿か何かあったんですか?」
「ああ、この前な。一応何時間かは隣の部屋で皆でごろ寝していたんだが」
「そういえば何で男と女が一緒に寝ていて何もないいんだろうな」
「うーん、やっぱりおかしいよな。でも何かあったら退学だしな」
「退学はやだな」
「そうだな」
「退学は嫌だ」
「そういえばラズは徹夜禁止だったよな、確か」
「あ、はい、一応未青年なので、夜遅くに帰ると補導されたので」
「飛び級の天才も大変だよな。そういえば今は勇者やっているんだろう?。記事読んだぞ。この前キリトと話していた冗談がそのままかかれてワロタ」
「……全ての根源はここか」
暗くつぶやくラズを見て、ルシアンが話を戻した。
「でも徹夜明けのあの高揚感はやばい。ほら、あの時も徹夜明けだったんだろう?」
「ああ、二人組みの強盗が入ってきたのを徹夜明けでの、研究室で訓練された大学生と大学院生によって撃退されたという」
「実験系は立ち仕事が多いから体育会系になるからな。でも、その力をもってしてもラスボス、キョウジューは倒せなかった」
「挑んだはいいが、『この私に逆らおうというのかね、いいだろう、相手をしてやろう』といった瞬間教授の白衣が筋肉ではじけ飛んで、全員倒されたっていうんだからな」
「しかもその後、『私には最終権力、判子を押さない、という力があるのだよ』といったらしい。結局その力の前に、全員屈したそうだ」
「そういえばその人達うちの研究室出身で全員卒業したんですよね。その人達は今どうしているのですか」
「さあ、何をしているんだろうな」
しばらく、しーんとした沈黙が。
と、隣のドアが開いて、中から花やらレースやらで飾られた、憔悴しきったレテの姿が。
「おおおおお、美しい」
「やっぱり可愛い女の子がやるのが一番だ」
「そうだそうだ」
「……次は、あんた達の番よ」
「ここにラズ君が居ます、どうぞ」
「よし分かった」
「いえ、あの、先輩、ぼくそろそろ……」
「問答無用」
ものすごい力で、隣の部屋へと連れ込まれる。
「さて、髪は金色のかつらがあるからっと」
「やっぱりラズ君は可愛いわね」
「本当に元が良いから、いじりがいがあるわ」
「右っぽいしね」
「そうねー、ラズ君は右側よねー」
「あの、先輩方、右側って、何の話ですか?」
その問いかけに、女性の先輩方はにこりと聖母のような微笑を浮かべ、
「可愛い男の子は右側なの」
と、言われた。
後でラズが男の先輩達に聞くと、一斉に顔をそらして答えなかった。
たぶん知らない方がいい話なのだろうとラズは頭の隅に追いやった。
そしてレテと2ショットで写真を撮り、そして、レテはといえば女の先輩達に女装写真を見せびらかされていた。
ラズはその間に測定をして、戻ってくるも、いまだに自慢の話が尽きず話しているようだった。
何処となくレテも一緒に楽しそうに話している。
何か新しい趣味に目覚めていないことを祈りつつ、男の先輩達と雑談をする。
「本当にラズが研究室見学来た時、確保と思ったもんな。生贄として」
「先輩、酷いです」
「いや、すまん。俺達はキリトみたいに目的もないし。それに、人生で一番楽しい高校生活を経験していないのも気の毒でな」
「その分楽しい思い出を作ってやろうと思ったんだが、三ヶ月ほど行方不明になるしな」
「しかも記憶が削られているとかな。で、今は勇者とか、がんばれ」
そう口々に先輩方に励まされてうるっと来たラズが、
「でも、もう一人の勇者の方が人気何ですよね」
「仕方ないさ。だが、何時までもちやほやされたりしないんだから、安心しろ。いずれラズにもモテ期は来るさ」
「そうそう」
なんだかんだで、ちょっと病んでいるのは研究室の学生には良くあることで、いい先輩達だった。
話し込んでいれば、夕方になっていた。
挨拶をして帰るも、リースが追いかけてきてラズに言った。
「天使の羽と、“ヒトモドキ”が手に入らないかしら」
何でもイリス教団に保管されていたものが、無くなったらしい。
サンプルとしても貴重だから残しておきたいらしいとの事だった。
手に入れば報告しますよ、とラズは答え、リースとも別れた。
そしてようやくラズはレテと二人っきりになったので、
「その話、なんで、レテは教えてくれなかったんだ?」
「いえ、物が無くなっている事ってよくあるから」
「きちんと管理しないとまずいんじゃないのではないですか?」
「ここのところ不景気でね、真っ先に削られるのがその辺の費用なの」
「……大変ですね」
「本当にね。所で、今度は何処に行くことにしたの?。行き先不明で三日ほど申請されていたけれど」
「いや、ちょっと魔王城に行って来る」
「……そう。あそこには私は行けないから、終わったら連絡して」
「どうやって」
「……前渡した場所を知らせる金属の箱があるでしょう。この前使わないんだから大変だったのよ」
「あれ、人の居る所でやって大丈夫なのなか?」
「そこは任せるわ。まだ、誘拐事件は幾つもあるんだから」
「警察にお任せするよ。俺が率先してやるべきことじゃない」
「でも、これまでの二つは貴方が居たから解決している」
そう言って、レテはじっとラズを見る。ラズは首を振った。
「買いかぶりすぎさ、俺の代わりは幾らでもいる。誰の代わりでも誰かが居る。でないと社会は成り立たないだろう?」
「……そうね」
「そんなわけで、俺ががんばる必要はまったくないと思う。サボる」
「少し感心した私が馬鹿だった。まったく、はあ。まあいいわ、“女神様”にはラズの女装写真でも報告しますか」
「……それはやめてくれ」
「どの道、リースさん経由で届くから諦めなさい」
「……知り合いだったのか?」
「ちょっとね」
それ以上レテは何も言うことはなかった。
次もよろしくお願いします。




